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紗倉まな×佐々木心音が語る、AV女優という職業 「ちゃんと希望だってあるし、生活もある」

リアルサウンド

17/12/12(火) 18:30

 AV女優・紗倉まなが執筆した同名原作小説を、『64-ロクヨン-前編/後編』『8年越しの花嫁 奇跡の実話』の瀬々敬久監督が映画化した群像劇『最低。』が、現在公開されている。性格も境遇も違う3人の女性が、AVとの関わりをきっかけに、性愛や家族と向き合う姿を描いた物語で、果たしなく続く日常に耐えきれず、新しい世界の扉を開く平凡な主婦・美穂役を森口彩乃、家族から逃げるように上京し、AV女優として多忙な生活を送る彩乃役を佐々木心音、自由奔放な母親に振り回される女子高生・あやこ役を山田愛奈が、それぞれ体当たりで演じている。

参考:瀬々敬久監督が語る、『ヘヴンズ ストーリー』から7年の変化

 今回、リアルサウンド映画部では原作者の紗倉まなと、彩乃役の佐々木心音による対談を行った。AV女優と元グラビア女優、それぞれの立場から本作についての感想や仕事観を語り合った。

■紗倉「みんな社会の中で生きています」

ーー『最低。』は、AV女優という職業の背景にある、人々の生活や感情の動きを繊細かつリアルに描いた作品です。改めて、二人にとってAV女優とはどんな職業でしょうか?

紗倉:私は実際にその世界で生きている身で、とても浮き沈みが激しい仕事だとは感じています。AV女優それぞれの活動もそうですが、業界自体が陽の当たらない世界として見られているところがあって、世の中の流れや意見に翻弄されやすい。でも、最近ではテレビでもAV女優にスポットを当てて、彼女たちも普通の女性なんだって描いてくれることもあって、そういうのを観ると、必ずしも諦めなくて良い部分もあるのかなと。この仕事を美化するつもりもないけれど、どんな仕事にも良いところがあれば悪いところもあって、そういう意味ではほかの職業と大きな差はないはず。みんな生活もあれば、家庭もあって、社会の中で生きています。そこが語弊なく、世の中に伝われば良いなと常に思っています。

ーーグラビアアイドルとして活躍していた佐々木さんから見ると、どんなイメージですか?

佐々木:グラビアとAVは、性の魅力を打ち出しているという意味ではすごく近しい仕事で、ある種の仲間意識みたいなものは感じていました。個人的には、身体に自信のある女性が脱いで見せる仕事を選択するのは、腕に自信のある男性が力仕事を選択するのとそれほど変わりないと思っていて、決して特殊な職業ではないのかなと。それに、AV女優という職業があることによって救われている人って、すごく多いと思うんですよ。もちろん、良いことばかりじゃないとは思いますが。

ーーAV業界では最近、製作者側が女性に出演を強要したケースがあったと問題になっていました。

紗倉:出演を強要するのは本当に良くないけれど、業界に対して必要以上にネガティブな印象が付くのは悲しいですね。現役のAV女優として言うならば、自ら選んでこの仕事をしているのだから、自立した意識を持って取り組みたいとは思っています。自分が嫌だと思ったことははっきりそう伝えるし、やるべきことだと思ったらちゃんとやる。

佐々木:それはグラビアでも同じですね。選択の余地もないような状況に追い込むのは絶対にやめてほしいけれど、自分で選択してやっているのなら、堂々とやっていけば良い。

紗倉:AV業界自体のネガティブなイメージを変えていくには、製作者側ももちろんだけれど、出演する側も意識を高めていく必要があるのかもしれません。とはいえ、たとえばオリンピックに伴ってコンビニでエロ本が販売されないようになるとか、そういう大きな流れには意識だけでは抗えないので、受け入れるしかない部分も多いですよね。DVDはさらに売れなくなっていくだろうし、いまの業界の枠組み自体も変わっていくんだろうと思います。儚い仕事ですよね。

佐々木:でも、震災のときに一番売れた本は、実はエロ本らしいですよ。多くの男性が、エロに救いと癒しを求めたんです。やっぱり、エロは世界を救うんですよ。だから、どういう形になるにせよ、なくなってもらっては困る。AV女優は、現代の聖母みたいなものだと思います。

■佐々木「彩乃は私自身とも少し似ている」

ーー本作で佐々木さんは、AV女優の彩乃役を体当たりで演じています。AV撮影のシーンなど、セックスシーンはもちろんのこと、カットがかかった後の光景もあるので、リアルに演じるのに苦労も多かったのでは?

佐々木:グラビアアイドルの撮影現場の風景はよく知っていますが、AVの撮影現場は体験していないので、この演じ方で果たして本当に良かったのかな?とは思い悩みましたね。たとえば、まなちゃんのように実際にAVの仕事をしている方が観たときに、不自然さを感じる演技になっていたらどうしようと、映画が出来上がってからもずっと気がかりで……。

紗倉:あのシーンはものすごくリアルでしたよ。心音さんは現場を経験したことがないはずなのに、あたかも本当のAV女優さんのように演じていて、素晴らしいなと思いました。でも、自分が関わっている作品を観るときって、絶対に不安になるものですよね。

佐々木:そうそう、ダメ出しが入っちゃうからね、自分に。

紗倉:観客の方とは気になる部分が違いますもんね。でも、私は今回の映画に関しては、自分の原作映画というよりは、それとは別の一本の映画として楽しめた気がします。『最低。』はもともと小説だったから、人が動いて言葉を発する画はなかなか想像できなくて、だからこそ新鮮な気持ちで観ることができたのかもしれません。登場人物の人数も変わるし、それに伴って物語にも若干の変更があったから、原作とはまた別物というイメージですね。ただ、現役のAV女優としてとても共鳴できる映画で、心音さんが演じる彩乃のシーンでも何度か泣いてしまいました。わたしの親も泣いていましたね。切ないし、儚い物語なんだけれど、でもこれが現実なんだよなぁって。

ーー紗倉さんは、佐々木さんの演技のどんなところに感動したのでしょう?

紗倉:心音さんが彩乃を演じてくれる時点ですごく嬉しいんですけれど(笑)、中でも特に感心したのは、“平成生まれの女の子”っていう感じをちゃんと表現してくれていたところですね。長らくAV業界にいる女優さんにはない、今の子の感覚があるというか。彩乃の声質もそうだし、喋り方もそうなんですけれど、どこか淡々としていて、それでいて胸の奥には秘めたものを抱いている感じ。母親を拒絶する感じとか、すごく冷たいけれど、同時に激しさもあるんです。さとり世代っていうんですかね。最初から何かを諦めている。

佐々木:私、よく昭和っぽいって言われるので嬉しいです(笑)。たしかに、物事に対して真向からぶつかっていかないところは、現代っ子らしいのかもしれません。彩乃は人と比べて特に秀でているところはなくて、かといって劣っているわけでもなく、それを自分でもよく知っています。それでいて孤独で、たぶん家族と暮らしていた頃も、ずっと孤独だった。人とのコミュニケーションが少し苦手で、自分の感情を上手に出すことができない不器用なところがあって、だけど一人で強く生きていこうとしている。そういう考え方や姿勢は、私自身とも少し似ていると思いました。

紗倉:“一人”でいるのは好きだけれど、“独り”になるのは嫌だ、みたいな感じですよね。

■紗倉「完全に絶望しきっているわけではない」

ーー本作の主人公たちは、彩乃以外も孤独を抱えた人物として描かれていました。

紗倉:そうですね、それぞれの孤独はあると思います。ただ、彼女たちが世の中に対して完全に絶望しきっているかというと、必ずしもそうではないんです。AV女優というと、世間的にはすべてを捨てて生きている人のように映るのかもしれないけれど、ちゃんと希望だってあるし、生活もあれば、家族もいる。とはいえ、現状の人生に何かしらの不満はあって、それを乗り越えるための選択肢の一つとして、AV女優という職業を選択している人は多いと思います。そこは小説でちゃんと描きたかったところで、映画でもしっかり描かれていると感じました。

佐々木:孤独や人生の課題を解決するための手段として、AVを選んだというだけですよね。

ーー瀬々敬久監督とは、どんなやり取りをしましたか?

佐々木:役が決まった時に、衣装合わせで監督と会って、そこで役作りについて相談しました。瀬々監督からは、「この彩乃という子は、どこの大学にでもいる普通の女の子で、変な癖もないし、肝が座りきっているわけでもない。本当に素朴な女の子。だから声のドスを効かせないでほしい」って言われました(笑)。前回、瀬々監督と一緒にお仕事をした『マリアの乳房』(2014年)の役柄ではドスを効かせていたから、余計にそういうイメージが強くなっていたのかもしれません。

紗倉:私はクランクインのときに瀬々監督とお会いして、その後は対談や舞台挨拶でご一緒するくらいだったので、じっくり何かを話し合ったりはしていませんでした。これまでの瀬々監督の作品を観て、本当にすごい方だって尊敬していたので、信頼してすべてをまかせていた感じです。人としての印象でいうと、瀬々監督っておちゃらけて話しかけてくる割には、急に真髄を突いてくるところがあって、実はものすごく人を見ているんですよね。だから、話すのがちょっと怖いなとは思いました。話せば話すほど、見透かされてボロが出てしまいそうで(笑)。

ーー紗倉さんが原作で伝えたかったことも、ちゃんと見抜いていた?

紗倉:私が書いていたものはエンターテイメントというより、どちらかというと純文学寄りだったので、目立った起伏がある物語ではないんです。ただ、ずっと寒色系の色味をイメージしながら書いていて、それがどう映画になるのかなって思っていたら、映画もちゃんと寒色系の色味を帯びた作品になっていて、そこがすごいなと思いました。その色味って、文字通り目に見える色味だけではなく、作品全体に漂うトーンというか、そういう部分まできちんと汲み取っていただいていて、本当に嬉しかったです。(松田広宣)

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