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深田恭子に初めて芽生えた嫉妬 『はじこい』は人生を教えてくれる“先生”に

リアルサウンド

19/2/27(水) 12:00

「必要とされなくなるのが先生だよ。私たちは通過点なの。生徒が希望する進路に引っ張って、引っ張って、最後に手を離して見送るのが仕事」

参考:深田恭子の何よりも強い“鈍感力” 『はじこい』物語に潜む3つの注目ポイント

 『初めて恋をした日に読む話』(TBS系)第7話では、春見順子(深田恭子)に初めて“嫉妬“を経験させる人物として、百田朋奈(高梨臨)が登場する。世界トップレベルの大学を卒業した高学歴。27歳という若さ。東大専門の有名塾で“モモちゃん先生”と慕われる人気に、担当した生徒の合格率も8割以上……と、何をとっても自分よりハイスペックなモモちゃん先生。だが、そのタイミングでは、順子の中に嫉妬心は芽生えない。

 それは、あんなにコンプレックスを感じていたはずの学歴も、焦りを感じていた年齢も、自信のなかったキャリアも、今の順子にとっては全く目に入らないという証。ハッキリと嫉妬を感じたのは、ユリユリこと由利匡平(横浜流星)の存在ただ1点だ。嫉妬は、自分で思っている以上に、強い思いを抱いていることを実感するもの。それが女の恋心からなのか、それとも講師としてのプライドからなのかは、まだ順子にはわからない。ただ証明されたのは、今の順子にとってユリユリが、それほど大切であるということ。

 ドラマは後半戦に突入し、前回の「何が大事なのかの証明問題」、前々回の「心情を読み解く現代文問題」、さらに「最大多数の最大幸福」……と、これまで学んできたことが総復習されていく。勉強してきたことが一気に繋がって応用問題が解けるように。その快感はまるで“遊園地に行った”かのようにワクワクするものだ。このドラマ自体が、見ている私たちにそんな感覚を教えてくれる。

 このドラマはユリユリの受験を通じて、順子自身がこれまでの人生でまったく手をつけてこなかった恋や人生の勉強をしているのだ。中学生レベルから学び直したユリユリのように、多くの人とはタイミングが違うかもしれない。けれど、誰かがやっているからではなく、自分にとって必要なときに必死になって学ぶのが勉強の本質。

 順子にとって婚活という応用問題に着手する前に、恋する心を理解すること。就活より前に何が自分の人生で大切なのかを見つけることが必要だった。だが、それは教科書や参考書のなかには載っていない。基礎を学ばずには、目の前で起こっている現象を整理して、理解することが難しい。

 順子の学生時代を振り返ると、勉強しか目に入っていなかった。モモちゃん先生が同級生の牧瀬であることにも気づかず、嫌がらせを受けていた過去も覚えていないほどに。その鈍感さは、ある意味で順子の心を守る鎧となったが、それゆえに他者を受け入れる柔軟さに欠けてしまっていた。

 どうしても手に入れたかった東大合格=母親の愛のみが、当時の順子にとって大切なことだったのだろう。そんな条件がつかなければ、愛を証明することができないと思ったのは、順子の母とその義母の関係性からきているようだ。

 友だちなんていなくていい。恋なんてしなくていい。勉強さえできれば……。優先順位をつけて、1つの目標に突き進むことは素晴らしい。しかし、それゆえに多くの感情を置いてきぼりにしてしまった順子。30代になってユリユリに出会い、その学び直しをしている彼女は、ある意味で青春真っ只中ともいえる。経歴を詐称していたモモちゃん先生も「楽しそうね、春見さん」と思わず、久々に会った同級生・牧瀬としての感想が口から出てしまうほど。そして受験勉強以来のきらめきを取り戻した順子を見て、確執のあった母親もなんだかうれしそうだ。

 順子の鈍感さに、やきもきしながらも、じっくりと見守る美和(安達祐実)も、振り回されている雅志(永山絢斗)も山下(中村倫也)も、ある意味では順子の“先生”だ。そして、初めての嫉妬を教えてくれたユリユリも、もちろんモモちゃん先生も。異なる視点で気づきをくれるエトミカも、塾長も、母親も……関わる人すべてが人生勉強の先生なのだ。

 知らなかったものを知る勉強って、やっぱり楽しいものなのかもしれない。そんなことを思わせてくれる、このドラマも私たちにとって、いい“先生”。人生勉強にはゴールがない。ここまで勉強すればOKという区切りがない分、卒業もない。たとえ最終回を迎えても、ユリユリが「先生がいくら手離しても、俺、何回でも掴みに行くんで」と言ったように、そして恋がいつか愛に変わるように、このドラマが教えてくれることは、ずっと私たちの心の中にとどまり生きる糧となり続けるはずだ。まだユリユリの合格しか見えていない順子が、次に学ぶものとは何か。次回の予告映像では、何やら不穏な雰囲気だ。荒ぶるユリユリの姿に、心がざわめく。遊園地の中でも、ジェットコースターの列に並ぶような気持ちで、オンエアを待ちたい。(文=佐藤結衣)

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