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『セラヴィ!』オリヴィエ・ナカシュ監督が語る、人生の可笑しさと切なさ 「大事なのはユーモア」

リアルサウンド

18/7/7(土) 14:00

 世界中で記録的な大ヒットとなった『最強のふたり』の監督コンビ、エリック・トレダノ&オリヴィエ・ナカシュの最新作『セラヴィ!』が7月6日より公開された。結婚式会場を舞台とした本作は、そこで働くスタッフ、式を行う新郎新婦らの人生や思惑が交差していく様子を軽妙なタッチで描いたコメディドラマだ。

 リアルサウンド映画部では、監督のひとり、オリヴィエ・ナカシュにインタビュー。本作で常用な役割を果たしたアヴィシャイ・コーエンの音楽の効果から、撮影の裏側、ユーモアに込めた思いまで、じっくりと話を聞いた。

参考:『セラヴィ!』はフランス版三谷幸喜作品? “絶対にハズさない”娯楽映画の方法論

■不協和音が極上の音楽となっていく

ーージャン=ピエール・バクリ演じるウェディングプランナーのマックスが本作の主人公ではありますが、登場するキャラクター一人ひとりが非常に魅力的でした。

オリヴィエ・ナカシュ(以下、ナカシュ):音楽みたいなものなんだよ。登場人物全員が“楽器”であり、一人ひとりが違う音を持っている。その音を見極めること、そしていかに組み合わせるかが監督として大事なことなんだ。本作で言えば、ジャン=ピエール・バクリという指揮者が真ん中に立っているが、当然彼だけでは音楽は成立しない。出番の多い少ないに関わらず、出演者全員が『セラヴィ!』という“音楽”を成立させるために必要なんだ。

ーーバクリが演じるマックスも、スタッフたちを束ねる指揮者のような存在ですね。

ナカシュ:そのとおり。だから、映画の前半ではマックスはスタッフを思うようにコントロールできず、まさに不協和音な状態だ。それが後半に向けて徐々に徐々に調和が取れていく。この不協和音から調和へというイメージは、本作で初めて映画音楽を手掛けてくれたジャズミュージシャンでもある、アヴィシャイ・コーエンの存在が大きい。彼のジャズにはいろんな音楽スタイルがミックスされている。最初は不協和音のように聞こえるが、徐々に徐々に調和が取れていき、極上の音楽となる。まさにこの作品を言い当てている音楽なんだ。

ーーなるほど。それぞれの役者の音が重なるように、本作はひとつの画面の中に何人ものキャラクターの動きがあるのも印象的です。あの動きはどうやって引き出したのですか。

ナカシュ:結婚式場という一定の場所で起きる1日を見せる物語なだけに、ともすれば演劇的になってしまうという懸念点があった。だからこそ、役者たちには常に“動く”ことを意識してもらったよ。自分が映っていないところでも、劇中の結婚式は進行している、そしてカメラは常にそれを追っていると伝えたんだ。それはジャズの音楽と一緒で、ひとつの楽器が主旋律を奏でていても、ほかの楽器がすぐにセッションに入っていくのと同じように、役者のみんなにもすぐにアドリブに入れるように求めていたんだよ。

ーー個人的に気に入っているキャラクターはカメラマンのギィです。マックスがスタッフのみんなを叱責しているシーンで、ひとりだけゲスト用のお菓子をひたすら食べ続けているシーンに爆笑してしまいました。

ナカシュ:ギィを演じたジャン=ポール・ルーヴは本当にうまくやってくれたよ。僕もあのシーンはお気に入りのひとつなんだ。ギィは真面目に仕事をしないダメな奴ではあるんだが、誰もがスマートフォンで写真を撮るようになり、カメラマンとしての仕事を奪われているという切なさも抱え持っている。パーティーの司会兼バンドボーカルのジェームス(ジル・ルルーシュ)も本当はテレビに出るようなビッグスターになりたかったけど、夢やぶれて結婚式のステージに甘んじている。自分勝手な新郎も、すべては新婦のためにやっている。登場人物はみんなダメな部分を持ってるんだけど、だからこそ人間としての愛らしさを持ったキャラクターたちなんだ。観てくれた方々が、あなたのようにお気に入りのキャラクターを見つけてくれたらうれしいね。

ーーおそらく、本作で誰もが笑ってしまうシーンが新郎が新婦のために行うサプライズのとある試みです。しかし、このシーンでは目の前で繰り広げられている“可笑しさ”とは反対に、その裏側では繊細な音楽が使用されています。この狙いは何だったのでしょうか?

ナカシュ:可笑しさと神妙さの両方を描きたいと思ったんだ。これは僕らにとっても賭けだった。ほかのシーンでは時速100キロ以上のスピード感で登場人物たちの会話が繰り広げられているイメージなんだが、あのシーンでは音楽によってグッとそのスピード感を抑えた。でも、シリアスにはしたくない。誰もが笑ってしまう可笑しさと、そこはかとなく漂う切なさ、そこに人生の豊かを垣間見てほしいと思った。本作のメインビジュアルにもなっているけど、登場人物たちはみんなが空を見上げていて、唯一この映画の中で誰も会話をしていないシーンなんだ。実際、撮影は本当に大変で、新郎のピエールを演じたバジャマン・ラヴェルヌはフランスで由緒ある劇団の俳優なんだけど、彼はこのシーンを実現するために、アクロバットのアーティストと1ヶ月も準備をしてくれた。だから、本番で成功したときに、彼を見上げている役者たちも本当に感動してくれた。その結果がこの全員の溢れんばかりの笑顔なんだ。

ーー音楽の効果も相まって、空を見上げている彼らがまるで夢の中に包まれているような、幻想的な雰囲気も感じました。

ナカシュ:そう感じてもらえてうれしいね。あの後に訪れる蝋燭の明かりと民族音楽による宴も、どこか浮世離れしているんだ。だからこそ、完全に夜が空けて太陽の光に照らされると、彼らはまた現実に戻される。そして、それぞれの人生がまた始まっていく。太陽による自然の光、結婚式をライトアップする人口の光、そして闇夜を照らす蝋燭の炎と、本作では3つの光を使っているんだが、それも人生のさまざまな局面を表しているんだ。そして、人生において大事なのは“ユーモア”なんだ。

ーー本作は結婚式場の1日を描いた作品ですが、ひとつの式(作品)を成功させるために、たくさんのスタッフが必死で働きまわるという部分で映画製作の裏側を描いたフランソワ・トリュフォー監督作『アメリカの夜』を思い出したりもしました。

ナカシュ:そのとおりだよ。自分が仕事をしている映画の世界をそのまま描くのは少し抵抗があったから、婉曲して結婚式場を舞台にしたんだ。最後に、映画についての映画で僕がもっとも素晴らしいと思っている作品を教えてあげよう。トム・ディチロ監督作『リビング・イン・オブリビオン/悪夢の撮影日誌』。この作品は僕たちが『セラヴィ!』で描きたかったものと同じように、コメディではあるんだが、人間の可笑しみと切なさが存分に詰まった作品なんだ。

(取材・文・写真=石井達也)

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