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成田凌、杉咲花を輝かせる“受け”の芝居 『おちょやん』一平のにじみ出る優しさ

リアルサウンド

21/2/28(日) 6:00

 9歳のときに出会い、十数年経った今も千代(杉咲花)と一平(成田凌)は、お互いの人生の一番深い部分でつながっていた。千代が家族のことでつらいとき、誰よりもそばにいて一緒に問題に対峙してきたのは一平だった。

 『おちょやん』(NHK総合)第12週は、鶴亀家庭劇の次の公演で千代と一平の2人芝居が演目として決まったため、千代がモデルのみつえ(東野絢香)と福助(井上拓哉)を観察しているところから始まった。商売敵の娘、若子と恋に落ちた若旦那が若子の気持ちを確かめるために嘘の心中を持ちかける色恋話。

 好きな人となら心中してもいいという気持ちは分からないが、同じくらい大切なものはあるという千代。「弟のヨシヲや」と曇りのない目を一平に向ける。「もしヨシヲに一緒に死んでくれ言われたら、うちは死ねる」と言い、そんな気持ちで若子を演じてみると一平に話していた。

 時代は昭和4年2月。検閲が厳しく、2人が抱き合うシーンは修正が入り、手を握ることになった。この芝居で伝えたいのは理屈や秩序を超えたところにある人間の本性、衝動的欲望だと劇団の仲間に熱く語る一平。舞台初日の幕が開き、物語が進んで千代がまっすぐな目で「生まれ変わったら、今度こそ一緒になりましょな」と毒入り酒を飲むと、その演技に引き込まれるように一平が突然キスをした。「もう離さへんで」という台詞は一平の本心からの響きのようでもあった。

 いくら迫真の演技だとしても、検閲の警官によってその日の公演は即中止。抱き合うのがダメなので、キスは当然NGだと頭では分かっていても止められなかった。これこそ一平のやりたかった芝居ではあるが、公演中止だけは避けたいところ。

 警官に対しても「つらいことも恥ずかしいことも、目ぇそらさんとみんな芝居にする。そないしたら悲しいけど、どこか滑稽な人の生きざまいうもんが見えてくんねん。俺はそないな新しい喜劇を作りたいんや」と間違いは認めたくなかったものの、芝居を続けるためには頭を下げるしかない。

 そして、千代と一平の接吻騒動直後「ようも姉やんを傷もんにしてくれたな」とヨシヲ(倉悠貴)が突然現れた。その1カ月くらい前から道頓堀では不審火があり、どうやらヨシヲも千代の周辺の様子を伺っていたようだが、千代の噂を聞いて思わず飛び出さずにはいられなかったのだろう。

 千代は大切な存在で傷ついてほしくない……というのがヨシヲの心の深い部分にある想いの発露。一平は、殴られたときにヨシヲのシャツからのぞく刺青だけでなく、千代への思いにも気づいたではないだろうか。だから、家族に戻るのは難しくても、千代の気持ちを伝えずにはいられなかったに違いない。

 ヨシヲは理想的な弟のように見えたが、再会の喜びから一転。ヨシヲは「えびす座を燃やす」と脅迫し、鶴亀を潰そうとする組織の手伝いをしていた。父テルヲ(トータス松本)に捨てられるように奉公に出された千代を恨むしかないほど荒み、悪い仲間を頼って生きてきたのだった。

 千代に対しても全く心を開こうとしないヨシヲに対して、一平は「この世の中で、おまえのこと誰よりも思てたんは間違いのう千代や」と言い、いつも「ヨシヲ、ヨシヲ」と大切に思っていたこと、ヨシヲのためなら死ねるとまで千代にとって大きな存在であることを伝えた。千代に会い、一平の言葉に揺り動かされても、簡単には千代のもとに戻れないヨシヲの立場も汲み取ったうえで千代を見守り続ける一平。分かりやすいヒーローではないけれど、成田凌が見せる優しさが沁みる一週間だった。

 一平は鶴亀家庭劇を旗揚げしたときからずっと母親の無償の愛を芝居にしたがっていた。彼にとって幼い頃から一緒に暮らしていない母は無償の愛情を注ぐ存在ではなかった。ヨシヲに対する千代の愛情は、自分を犠牲にしたとしても何があっても救いたいという母性の象徴。ヨシヲを引き止めることができず「うちはまたひとりになってしもた」という千代を「ひとりやあれへん。俺がおる」と一平は抱きしめた。

 一平がいう「新しい喜劇を生み出す」という夢は、千代がいなければ実現できない。どこまでも前向きでたくましく進んでいこうとする千代の他人には分からない苦しみやつらさを本当に理解できているのは一平で、成長するほどに度量は大きく、千代への愛も深くなるようだ。杉咲花演じる千代がこんなにも魅力的に可憐に輝くのは、相手を受け止める成田凌お芝居があってこそ。表面的にはやる気がないように見えながらも、芯の部分で熱い気持ちをたぎらせている一平。成田が放つ浮遊感と、アンニュイな表情が一平に絶妙にマッチしている。

 頼りなく見えながらも千代を抱きしめたときに溢れんばかりの力強さがあったように、今後は一平のさらなる成長、およびこれまでにない“熱い”成田の芝居に期待がかかる。大人になった千代と一平は、二人三脚でどんな道を歩んでいくのか。次週は一平の「天海天海」二代目襲名と実の母親との再会がテーマになっている。千代との関係にもさらなる変化が起きそうだ。

■池沢奈々見
恋愛ライター。コラムニスト。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『おちょやん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:杉咲花、成田凌、篠原涼子、トータス松本、井川遥、中村鴈治郎、名倉潤、板尾創路、 星田英利、いしのようこ、宮田圭子、西川忠志、東野絢香、若葉竜也、西村和彦、映美くらら、渋谷天外、若村麻由美ほか
語り:桂吉弥
脚本:八津弘幸
制作統括:櫻井壮一、熊野律時
音楽:サキタハヂメ
演出:椰川善郎、盆子原誠ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/ochoyan/

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