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『#リモラブ』はディスタンスがおかしい人々の群像劇 水橋文美江ドラマが内包する“笑い”と“狂気”

リアルサウンド

20/11/11(水) 6:00

 2020年秋クールのドラマが一通り出揃ったが、その中で最も攻めた姿勢を見せているのは水曜夜10時に日本テレビ系で放送されている恋愛ドラマ『#リモラブ ~普通の恋は邪道~』(以下、『#リモラブ』)だ。

 物語は2020年の4月からはじまる。カネバルこと鐘木パルプコーポレーションの健康管理室で働く産業医の大桜美々(波瑠)は、新型コロナウイルスが猛威を振るう中、社員のマスクや手洗いの不備を見つけては厳しく指導していた。やがて、会社もリモートワークとなり、恋人のいない美々は孤独を感じるようになる。そんな自粛生活の中、美々は同僚の精神科医・富近(江口のりこ)からストレス解消のためにオンラインゲームを勧められ、そこで「檸檬」とやりとりするようになる。相手の素性も聞かない、たわいのないやりとりの繰り返しだったが、どこの誰だかわからない相手だからこそ、美々は「檸檬」との関係に癒やされる。やがて緊急事態宣言が解除されると、美々は突然、「檸檬」に別れを告げて、気持ちを切り替えようとする。しかし、「檸檬」がカネバルの社員だと気づき、「檸檬」探しをはじめてしまう……。


 秋クールのドラマは、“コロナのある世界”を描くか、あえて無視して“コロナのない世界”を描くかという、二択が迫られているように見える。どちらを選ぶにせよ、作り手側は、自分が作っているドラマに対して自覚的にならざるを得ない。そんな中、『#リモラブ』は意識的に“コロナ禍”の現実を描こうとしている。

 それは各登場人物が、自宅以外では“ちゃんとマスクを付けている”という描写に強く現れている。コロナ禍を描いていても、演技に支障をきたすためか俳優が「マスクはつけない」という作品がほとんどの中、この『#リモラブ』だけは“マスクのある日常”をはっきりと選択している。「コロナ禍」に対して、もっとも攻めたアプローチを選択したドラマとして、記憶に残っていくことだろう。

 マスクをつけた者同士のキスや、デートで行こうとしたレストランが(コロナの影響で)潰れていたという会話のやりとりなども、コロナ禍ならではのものだろう。こういった現代ならではの描写を恋愛ドラマの中に挟み込んでいく姿勢には頭が下がる。

 脚本を担当するのは、90年代から活躍するベテラン脚本家・水橋文美江。『ホタルノヒカリ』(日本テレビ系)や『みかづき』(NHK総合)などで水橋が描くヒロインは、仕事は優秀だが、他人との距離感がおかしい変人が多い。

 その集大成と言えるのが、連続テレビ小説『スカーレット』(NHK総合)に登場した女性陶芸家の喜美子(戸田恵梨香)だろう。喜美子は陶芸家としての理想を追求するために維持費が高い穴窯を作り、焼締の陶器を作ろうとする。その過程で莫大な損失を背負うこととなるのだが、それでも焼締を辞めない。その姿は芸術家の狂気そのもので、夫の八郎(松下洸平)はついていけずに家を出て行ってしまう。コミカルな会話劇の中に明るい狂気としか言えない描写が挟み込まれるのが『スカーレット』の凄みだった。

 『#リモラブ』の美々も、医師としては優秀だが性格の悪い変人で、社内では「独裁者」と呼ばれている。医師としての厳しさは職業倫理の現れとして納得できるのだが、ふだんの性格も決して良いとは言えず、SNSとはいえ、突然「檸檬」に別れを切り出す場面を観ると「人として最悪だな」と思ってしまう。

 これは他の登場人物にも言えることで、出てくる人々は、みんなどこかおかしい。たとえば、女性社員の我孫子沙織(川栄李奈)は付き合っている男性社員の青林風一(松下洸平)にセフレ(セックスフレンド)がいると知られても動じず、今後も恋人として付き合っていこうとしていた。青林は「檸檬」として「草モチ」(美々)と5カ月ほどSNSでやりとりを続けていたのだが、そのことを沙織は「普通は知らない人と知らないままに仲良くなったりしないんだからね」と言っていた。

 自分のことを普通だと思っている沙織の姿は、コメディとしてはギリギリの線で、怖いとすら感じる。この笑えるか笑えないかのギリギリのゾーンに笑顔で剛速球を投げてくるのも水橋作品の大きな特徴だろう。特に近作はその切れ味が鋭くなっており、どう受け止めていいのかわからない場面も多い。

 おそらく『#リモラブ』は、他人との距離感(ディスタンス)がおかしい人々の群像劇を展開すると同時に、“顔の見えない相手”との恋愛に美々先生が翻弄される様子を、新型コロナウイルスに世界中が翻弄されている状況と重ねて描いているのだろう。

 「コロナ禍」の恋愛を描くことだけに焦点を絞るのであれば、登場人物は平凡な性格にして「コロナ禍」を経て、何がどう変化したのか?を見せた方がドラマとしての収まりはよかったのだろう。しかし、こういう変人たちを書かないと水橋ドラマにはならない。笑いと狂気の間を突き進むクセの強い人物描写に、作家としての業の深さを感じる。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■放送情報
『#リモラブ 〜普通の恋は邪道〜』
日本テレビ系にて、毎週水曜22:00〜23:00放送
出演:波瑠、松下洸平、間宮祥太朗、川栄李奈、高橋優斗(HiHi Jets/ジャニーズJr.)、福地桃子、渡辺大、江口のりこ、及川光博
脚本:水橋文美江
演出:中島悟、丸谷俊平
プロデューサー:櫨山裕子、秋元孝之
チーフプロデューサー:西憲彦
制作協力:オフィスクレッシェンド
製作著作:日本テレビ
(c)日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/remolove/
公式Twitter:@remolove_NTV
公式Instagram:@remolove_NTV

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