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作詞家 zoppが紐解く、ヒゲダン楽曲の4つのポイント 「歌詞の重要な箇所に“響きやすい音”を取り入れている」

リアルサウンド

20/2/24(月) 8:00

 修二と彰「青春アミーゴ」や、山下智久「抱いてセニョリータ」など、数々のヒット曲を手掛ける作詞家・zopp。彼は作詞家や小説家として活躍しながら、自ら『作詞クラブ』を主宰し、未来のヒットメイカーを育成している。これまでの本連載では、比喩表現、英詞と日本詞、歌詞の物語性、ワードアドバイザーとしての役割などについて、同氏の作品や著名アーティストの代表曲をピックアップし、存分に語ってもらってきた。

(関連:ヒゲダン、リトグリ、FANTASTICS、あっこゴリラ、ATEEZ……“ビートと歌”の表現に注目

 第24回目となる今回は、Official髭男dism(以下、ヒゲダン)の歌詞についてインタビュー。zopp氏曰く、ヒゲダンの歌詞には4つのポイントがあるという。本稿では、そんなヒゲダンの歌詞技法についての解説を聞くことができた。(編集部)

●J-POPのステレオタイプにとらわれず、サビの内容を全て変えている
――前回のインタビューでヒゲダンの歌詞についても言及されてましたね(作詞家zopp、ラグビーW杯テーマソングなどから考える“現代の応援ソング”の傾向:https://realsound.jp/2019/11/post-438936_2.html)。今回はさらに詳しく伺いたいと思います。zoppさんからみてヒゲダンの歌詞にはどういった特徴があると感じますか?

zopp:4つのポイントがあると思います。まず1つ目は、前回もお話した通り、韻を踏む数がとにかく多いことです。彼らの場合は、最後の一字だけでなく言葉尻3文字まで韻を踏んでたりするんですよね。そうしてリズムを作ることで、聴きごたえのある楽曲になっています。歌詞って、「言葉にメロディがついてる」ことが一番の特徴。曲の勢いを殺さないことがすごく大事なんですね。

――「I LOVE…」の歌詞で印象的だったフレーズはありますか?

zopp:やっぱりサビですね。〈高まる愛の中 変わる心情の中 燦然と輝く姿は〉はすべて踏んでいますし、〈独りじゃ何ひとつ気付けなかっただろう こんなに鮮やかな色彩に〉では、「ひとりじゃなにひとつ」の「な(a)」と「きづけなかっただろう」の「か(a)」で母音が重なっています。韻を踏むというと音の切れ目で考えられがちですが、このフレーズでは音階が高い箇所で韻が踏まれていて面白いです。

ーーだから「I LOVE…」のサビは聴いていて気持ちいいんですね。しかも韻の踏み方が自然だから、聴いている側も知らぬ間に心地よくなる。

zopp:韻を踏むことはリズム感をだすために有効ではありますが、バラードで使うと浮いてしまいやすいのであまり使われないんです。それを踏まえると、「I LOVE…」は違和感を感じさせずに取り入れられていてすごいです。

ーーでは、2つ目のポイントは?

zopp:2つ目は、1番と2番で名詞を揃えていること。構成が一緒なんです。たとえば、「宿命」ではAメロの二行目に〈未来〉が入っていますし、「I LOVE…」のサビでも、1番で〈高まる愛の中〉〈変わる心情の中〉、3番で〈重なる愛の中〉〈濁った感情の中〉と名詞が揃ってる。そうすることで歌詞が覚えやすくなったり、耳なじみが良くなります。

――なるほど。

zopp:あと、3つ目のポイントはフレーズの高い音を出す場面で母音を「a」、「e」、「o」にしていることです。それは、特に「I LOVE…」で顕著に表れていますね。〈高まる愛の中〉って言うのも、一番高い音に「あ(a)」がきてますし、続く〈変わる心情の中〉も、一番高い音が「じょ(o)」できています。また、〈イレギュラー〉とシャウトする場面でも「レ(e)」「ラ(a)」となります。口が開くかたちになるのでいちばん気持ちいい音が出せるのでしょう。

――だからストレートな歌詞表現でありながらも、聴き手に強く響かせるようなものを感じさせるんですね。

zopp:そうなんですよ。藤原さん(藤原聡/Vo、Key)の歌声が素晴らしいのはもちろんですが、歌詞の重要な箇所に“響きやすい音”を取り入れているのも一つの理由なんだと感じます。

ーー楽曲のメッセージを聴き手に伝える方法として「音」は重要なんですね。

zopp:細かいですが重要ですね。また、4つ目のポイントは楽曲構成です。J-POPの構成は、1番Aメロ→Bメロ→サビ→2番Aメロ→Bメロ→サビ→3番Cメロ→大サビという流れが一般的。また、歌詞の内容でいえば1番と3番のサビが同じ内容で、2番だけ変えるという特徴もあります。しかしヒゲダンは、こうしたJ-POPのステレオタイプにとらわれず、サビの内容を全て変えているんです。特に「I LOVE…」の構成は非常に練られていますね。

ーーもう少し詳しくお聞かせいただけますか?

zopp:例えば、1番Bメロは〈I Loveなんて/言いかけてはやめて/I Love I Love 何度も〉である一方で、2番Bメロは〈I Love I Love/不格好な結び目/I Love I Love/手探りで見つけて〉に〈 I Love Your Love〉を付け加えてもう一段階展開を加えています。

――さりげなく細かな変化を加えて、メッセージ性をより強めているんですね。

zopp:また、2番サビは1番サビと比べて小節が半分短くなっています。2番サビですべてを語りすぎずに、最後に〈受け取り合う僕ら 名前もない夜が更けていく〉というフレーズで締めているのも粋ですよね。オチをしっかりつけることで、物語がまっすぐ進んでいくような感じがします。「I LOVE…」のほかにも、「宿命」では、1番や3番のサビで〈宿命ってやつを燃やして 暴れ出すだけなんだ〉と歌っていても、最後には〈ただ宿命ってやつをさがして/立ち向かうだけなんだ〉になってる。最後にフレーズを変える手法は、昨今藤原さんがよくやっているギミックです。

●〈「とても綺麗だ」〉は〈僕〉と〈君〉以外の第三者目線のメッセージ
――最後にオチをもってくることは、やはり歌詞を作る上では重要ですか?

zopp:そうですね。そうすることで、聴き手は曲をフルで聴きたくなると思うんです。BUMP OF CHICKENの楽曲も同様で、例えば「K」では、ホーリーナイト(Holy night)と名付けられた黒猫が死んでしまった後に、飼い主の恋人から名前にアルファベット一つ加えられて埋められる場面があります。で、最後に〈聖なる騎士を埋めてやった〉というフレーズがきて、タイトル「K」の意味が明らかになる。最後まで聴き手を飽きさせない展開ですよね。ヒゲダンは、BUMP OF CHICKENに比べてストーリー性というよりも登場人物の感情を表す内容になっていますが、構成としては重なる点があると思います。

ーーたしかに。しかし、最近ではこうした歌詞構成はあまりみられないですよね。

zopp:実は歌謡曲でもこうした構成はよく使われていたんです。ただ、昨今このような構成が珍しくなったのはタイアップ商業主義によるものなのではないかと思います。特にCMで起用されればサビが大量にテレビで流れますし、視聴者はそのサビを何回も聴きたいはず。歌番組で披露する際も1番フル→大サビという流れがほとんど。そのため、同じサビを繰り返す楽曲が好まれていったのではないかと思っています。しかし、昨今はサブスクも珍しいものではなくなりましたし、そういった売り方はされなくなってきているのかもしれません。

ーーリスナーの需要によって歌詞の構成も変化していくという指摘は興味深いですね。

zopp:とはいえ、同じサビを繰り返すことが悪いわけではないんです。繰り返しがない歌詞は「言えることが増える」という利点があるのでストーリー性のあるものに向いています。一方でサビを同じパターンにしている歌詞はその楽曲のなかで一番伝えたいメッセージを強調することができるというメリットがある。僕は、自由に作詞していい楽曲に関しては、そういった利点を考えた上で自分の中でコントロールしていますね。

ーーなるほど。

zopp:あと、藤原さんがインタビューで「Pretender」の〈「とても綺麗だ」〉は〈僕〉と〈君〉以外の第三者目線のメッセージであると明言されていたことが印象的でした。もしかしたら、ヒゲダンの楽曲に含まれた最後のフレーズは、藤原さんの率直なメッセージなのかもしれません。例えば「宿命」だったら、彼が本当に伝えたいことは、宿命によって〈暴れ出すだけなんだ〉ではなく、〈立ち向かうだけなんだ〉の方を伝えたいのかもしれないですね。

――改めて見直してみると、ふいに第三者目線が入ることでよりフレーズの強度が増している感じがします。

zopp:そうですね。韻を踏むこと以外にも斬新なギミックをいくつも取り入れられていて、藤原さんは非常に興味深い書き手だと思います。

(取材・文=北村奈都樹)

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