Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

ドラマを脱構築するテレビ東京深夜枠の挑戦 視聴スタイルの多様化で生まれた新たな可能性

リアルサウンド

19/11/22(金) 8:00

 2019年の秋ドラマでは、各局の意欲的な試みが目立つ。『俺の話は長い』で30分のショートストーリーを2本放送する日本テレビは、平日朝の『生田家の朝 2019秋』『緑山家の朝』で家族ドラマに新しい風を吹き込んだ。井上由美子を脚本に迎え、原作の「語られざるエピソード」をドラマ化した『シャーロック』(フジテレビ系)は、古典とオリジナルのミックスによってこれまでにない名探偵像を確立。『グランメゾン東京』(TBS系)は三ツ星レストランシェフ監修の豪華な料理シーンが話題になっている。

参考:なぜ癒される? 秋ドラマに見る「面倒くさい男」たち

 一方、深夜枠でも、テレビ東京を筆頭にこれまでのドラマの常識を覆すような作品が出現している。従来のドラマを脱・再構築するような作品群はドラマファンにとって見逃せないものだが、ドラマの視聴スタイルが多様化する中で制作サイドも新しい可能性を探っていると思われる。

 『知らない人んち(仮)~あなたのアイデア、来週放送されます!~』(テレビ東京系)は、筧美和子演じるYouTuber「きいろ」が、偶然出会った他人の家で一晩を過ごす4話完結のドラマ。ただし、その展開は一筋縄ではいかない。第0話冒頭の10分から後のストーリーを考えるのは視聴者とプロの脚本家だ。文章やイラストを投稿・販売するnoteアプリと連携して、視聴者の投稿したアイデアと脚本家のシナリオを毎週放送。第2話以降はアイデア出しから撮影・放送までを1週間でこなし、キャストも両方のシナリオを演じるなど異例尽くしの試みだ。

 「先の展開がわからない」という言葉を地で行くような予測不可能性が見どころで、各所にちりばめられた伏線がどのように回収されるか予想したり、異なるシナリオを見比べるなど、メタ視点で楽しめるのが特徴だ。おもしろいのは、視聴者編のストーリーがサスペンス調の王道ドラマであるのに対して、プロ編の方は脚本家のイマジネーションが強く出ていること。同じ舞台設定でまったく違う雰囲気の作品に仕上がっているのは、連続ドラマの持つ可変性を示していると言っていいだろう。

 一軒家が舞台の『知らない人んち』と好対照なのが、金曜深夜のドラマ25『ひとりキャンプで食って寝る』(テレビ東京系)だ。開放感のある野外でひとりメシを楽しむというシンプルの極みのようなコンセプトは、派手さはないが好きな人にはたまらない作品である。奇数話で三浦貴大、偶数話で夏帆が主演をつとめ、横浜聡子と冨永昌敬が交互にメガホンを握る『ひとりキャンプ~』の魅力は、アウトドアを借景にしたミニマムな演出であり、雨の音や木々のざわめき、焚き火がはぜる音など自然音と光が五感に飛び込んでくる。

 『ひとりキャンプ~』の大和健太郎プロデューサーは、深夜枠で『山田孝之の東京都北区赤羽』、『その「おこだわり」、私にもくれよ!!』などのモキュメンタリー・ドラマに携わり、バーチャルYouTuberをキャスティングした『四月一日さん家の』を手掛けるなど、同局のチャレンジングな試みを主導してきた一人である。また、ドラマ25では2019年7月期に各地のサウナをめぐる『サ道』が放送され、愛好家の世界を描きながら週末の深夜にまったりとした没入感を誘っていた。『ひとりキャンプ~』を、こういった趣味系ドラマやフェイク・ドキュメンタリーの系譜に連なる作品として位置づけることも可能だろう。

 『知らない人んち』、『ひとりキャンプ~』は外部からハプニング性を取り込む試みとして理解できるが、古くからある即興劇はその極致ともいえる。系列局のテレビ大阪による『抱かれたい12人の女たち』では、山本耕史扮するバーのマスターが訪れる女優と1対1の即興芝居を繰り広げる。第一線で活躍する女優たち(誰が来店するかは知らされない)があの手この手でマスターを誘惑するが、「客」による事前の仕込みや予想外のアドリブが飛び出すなど硬軟自在な会話劇がスリリング。自由度の高い設定は、舞台をそのまま撮影するというテレビドラマの原点に戻ったような印象も受ける。撮影後の出演者による振り返りもあり、ドラマの舞台裏を楽しむ姿勢は、SNSでのリアルタイム実況や動画サイトのスピンオフが定着した現在の流れとも一致する。

 深夜枠で行われるこれらの挑戦はドラマに関する既成概念を覆し、新しい楽しみ方の可能性を提示するものだ。テレビドラマを再定義するような試みの中から新しい潮流が出てくることを期待したい。

■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む