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『いだてん』中村勘九郎の清々しい笑顔の裏側 田口トモロヲの“優しい嘘”がマラソン人生へと導く

リアルサウンド

19/1/14(月) 12:00

 日本が初めて参加したオリンピックと、東京オリンピックが実現するまでの半世紀を描いたNHKの大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』。第2話で描かれるのは、日本初のオリンピック選手となる四三(中村勘九郎)の少年時代だ。

 少年時代、病弱だった四三は、小学校まで往復12キロを走る「いだてん通学」により虚弱体質を克服する。体も心もたくましく成長していった彼は軍人に憧れ、海軍兵学校を受けることを決意。風邪予防のため「冷水浴」を毎朝の習慣とし、体を鍛え上げた四三だが結果は不合格だった。幼馴染の春野スヤ(綾瀬はるか)の励ましで立ち直った四三は、親友・美川秀信(勝地涼)が進学しようとする東京高等師範学校の校長が、日本スポーツの父・嘉納治五郎(役所広司)であることを知る。

 第2話で注目すべきは、病弱だった四三を変える家族の存在だ。体が弱く床に伏せていることが多い四三の父・金栗信彦(田口トモロヲ)の下手くそな嘘や、病弱な父に代わって四三や金栗家を支えてきた長男・金栗実次(中村獅童)の存在が、目標に向かってまっすぐ突き進む四三の人間性や魅力をひきだしていると言ってもいい。

 四三の幼少期はとても弱々しい。病弱な父に似て体の弱い四三は2歳まで夜泣きが続き、食も細い。四三の幼少期を演じた久野倫太郎が、中村演じる実次に「もっと食べろ」と催促されたとき、弱々しく首を振る姿からは、のちのオリンピック選手となる四三の姿は想像できない。

 「嘉納先生に抱っこしてもらえば丈夫に育つ」という祖母・スマ(大方斐紗子)の話を聞き、信彦が四三を連れて、村から熊本市まで向かった。目的地に到着した信彦はすっかり疲れきってしまう。そばにいた青年が四三を抱きかかえてくれたことで、四三は嘉納の姿を目に焼き付けることができたが、嘉納に抱っこしてもらうことは叶わなかった。嘉納に会いに行ったことを喜ぶ家族の笑顔を前に、信彦は「嘉納先生に抱っこしてもらえた」と嘘をつく。そんな父の嘘に口をつぐむ四三。家族の喜ぶ姿を壊したくないという四三らしい優しさがにじむ背中が印象的だ。その後、信彦は他界してしまうのだが、死に際も「四三は……嘉納治五郎先生に抱っこしてもろたけん、とつけむにゃあ男になるばい」と嘘をつき続けた。丈夫に育ってほしいという信彦の願いを受け取った四三は、たくましい青年へと成長していく。

 病弱な父に代わり金栗家を支えてきた長男・実次の、四三に対する愛のある叱咤も、病弱だった四三を変える大きな要因である。病弱な四三は往復12キロの通学を諦めようとするが、そんな四三を見かねた実次は「勉強部屋で勉強するか、学校へ行くために走るか」と彼を叱る。涙を流しながら走る四三の背中が映るが、実次の叱咤がなかったら四三は病弱なままだったかもしれない。その後、走りやすい呼吸法をマスターした四三は、楽に山道を走れるようになる。高等学校へ進む頃には「いだてん通学」がごく自然なものになっていた。父・信彦が亡くなる直前、実次は「四三は進学させてやりたい」と話していた。中学校へ進んだ四三が「海軍兵学校を受験したい」と話したとき、実次は彼の決意を認める。実次の厳しさは、たくましく成長する四三への期待の現れなのだ。

 身体検査に合格するため、毎朝「冷水浴」を欠かさない四三の気合いと、検査に落ち「みんなの期待ば背負うて海軍ば受けたばってん……合わせる顔のなかです」と茫然とする彼の背景には、父の下手くそで優しい嘘と、兄の厳しくも優しい叱咤がある。家族の期待を背負ったことで出来上がった彼の人間性は、今後の物語に大きく関わってくるはずだ。

 主人公・四三を演じる中村は、中学校へ進学するところから子役とバトンタッチした。少年時代の無邪気さをそのまま受け継ぎ、満面の笑みで山道を駆けぬける中村の姿は清々しい。第3話以降は、病弱な少年時代を乗り越えた四三のマラソン人生がドラマの根幹となるだろう。第2話終盤、東京高等師範学校の校長が嘉納であることを知った四三。父の下手くそで優しい嘘が”本物”になる瞬間は近いかもしれない。(片山香帆)

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