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海外映画取材といえばこの人! 渡辺麻紀が見た聞いた! ハリウッド アノ人のホントの顔

ダニエル・ラドクリフ

連載

第48回

── 今回はハリー・ポッターことダニエル・ラドクリフくんです。彼が主演したアクション『ガンズ・アキンボ』が公開されますね。

渡辺 タイトルは“二丁拳銃”という意味のようです。サエない人生真っ盛りのゲームのプログラマーが、ネットでヘンな書き込みをしたせいで、殺し合いを中継して大人気の闇サイトに目をつけられ、気がついたら両手に銃を固定されてしまい、強制的に殺し合いに参加させられる、というBな香り漂うアクションです。

ラドクリフくんは、そんなトンでもない目に遭う主人公を演じています。

『ガンズ・アキンボ』

── ラドクリフくん、『ハリー・ポッター』を卒業以来、ホラーをはじめとしたインディペンデントな映画ばかりに出演している印象ですよね。

渡辺 好んで選んでいるのか、それともそういう映画のオファーばかりなのか、そのへんはよく分かりませんけどね。もしかして“ハリー・ポッター”のイメージを払拭したくて、最初は真逆の映画を選んでいたら、そっちで定着してしまったのかもしれないし。大人気の子役から大人の役者になるのは難しいんですよ、やっぱり。

ハーマイオニーのエマ・ワトソンンもディズニー映画のプリンセスなどを演じて順風満帆のようでしたが、『若草物語』(『ストーリー・オブ・マイ・ライフ/わたしの若草物語』(19))のときは地味な長女役に甘んじている印象でした。彼女もこれからが難しいように思います。

一番、上手くいっているのはロン役のルパート・グリントだったりして。 AppleTVの『サーバント』など、脇でいい味を出していますから。彼は脇でもOKなところが、かえっていいのかもですよね。

『賢者の石』の頃の、ダニエルとエマ・ワトソン(左)、ルパート・グリント(右)。このかわいらしさ、歴史を感じます……!

── ダニエルくんのインタビューは『ハリー・ポッター』のときですよね?

渡辺 最初の『ハリー・ポッターと賢者の石』(01)から最後の『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2』(11)までです。最初は本当にかわいいお子ちゃまでしたが、最後は胸毛も立派な青年。映画の中、撮影スタジオの中で大人に成長するという、稀な経験をした人ですよね。

1作目のときのダニーくんは1989年生まれだから12歳。撮影中は10歳くらいだったんでしょうね。ハリーを卒業したときはもう22歳ですよ。『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』(07)から最後までシリーズの監督を務めたデヴィッド・イェーツは、「ダニーのキスシーンの撮影を見ながら、涙ぐんでいるスタッフがいて驚いた。ダニーはそうやって、みんなに見守られながら大人になったんだなってね」と言っていました。

直視して良いものかと観客をドギマギさせた、『不死鳥の騎士団』でのチョウ・チャンとのキスシーン。

── ダニエルくんはどんなお子様だったんですか?

渡辺 かわいらしかった。本当にハリーそのものという感じですよね。ハリーを演じて人生が大きく変わっちゃったね?と尋ねると、「みんなそう思っているみたいだけど、ほとんど変わってないよ。たまに街を歩いていて声をかけられるくらい。そういうときはみんな“映画、大好きだった”と言ってくれるので、僕も嬉しいしクールだよ。普通の男の子と同じで、友達と集まり、ピザパーティを開いてグタグタしているのが何たって楽しい」って笑ってました。

この頃は、役者としての心構えや夢とかはなかったみたいで、そういう気持ちが芽生えたのは『ハリー・ポッターとアズガバンの囚人』(04)からみたいです。

「アルフォンソ(・キュアロン)との仕事が本当に楽しかった。悲しむシーンでは“君がこれまでもっとも悲しかったのはどんなことだった? それを頭に浮かべながら演じてみて”と言われてそうやったら、本当に自然に涙が出てきたんだ」

キュアロン(写真左)が登板したのは『アズカバンの囚人』1作のみだったが、ダニエルにとっては大きな出逢いになったよう。右は“アズカバンの囚人”=シリウス・ブラックを演じたゲイリー・オールドマン。

こういう話を聞くと、その前の2作ではどうしてたんだと思うじゃないですか? クリス・コロンバスの演出は、他のインタビューによると「このシーンでは口元をこれくらい上げてみよう」というように、内面からじゃなく表面的な表情を作らせようとしていたみたいですよ。こういう演出なら、役者の演技が堅くなるのは当然だし、やっている方も楽しくないですよね。

ちなみにコロンバスが監督に抜擢されたのは、『ホームアローン』(90)などで子役の扱いに慣れていたからみたいですけど。

── でも、『ホームアローン』の子役、マコーレー・カルキンは後に大変なことになりましたよね。

渡辺 そういうことについても、ダニエルくんはこう言っていました。

「おそらく、ハリウッドでは、僕たちのような子役をスターとして扱うんじゃないのかな? その点『ハリー・ポッター』の現場で僕たちはみんな、子供として扱われるんだ。だから、わがままを言おうものなら“そういうことはダメに決まっているでしょ!”とぴしゃりと言われる。それがいいんだと思うよ」と、冷静に分析していました。

── その分析力が大人ですね(笑)。

渡辺 やっぱり精神的な成長は早いのかもしれませんよね。シリーズ2作目の『ハリー・ポッターと秘密の部屋』(02)のときは、「今パンクバンドにハマっているんだ。よく聴くのはセックス・ピストルズ、ダムド、ザ・クラッシュとかね。パンクに関しては音楽はもちろん、社会に対する態度なども気に入っている」と言っていました。こういう発言って、13歳なら普通なんですか?

『秘密の部屋』の頃はまだ12~13歳だったダニエル。このかわいらしさでパンクバンドに傾倒するのはたしかに早熟かも。

── どうなんでしょう? やっぱり早熟に聞こえますけどね。

渡辺 しかもこのとき、最近読んで面白かった作家として『ファイト・クラブ』の原作者チャック・パラニュークを挙げていたんです。黒縁眼鏡の真面目そうなルックスとは裏腹に、やっぱりパンクな男子なのかなと。

『アズガバンの囚人』のとき、英国映画界が誇るバッドボーイであり、『シド&ナンシー』(86)ではセックス・ピストルズのシド・ビシャスを演じていたゲイリー・オールドマンと共演できてすごく喜んでいましたしね。

そうやって考えると、『ハリー・ポッター』卒業後、『スイス・アーミーマン』(16)や、今回のパンクなアクション映画に出演しているのも何となく分かる気がします。

── ダニーくん、恋はどうなんですか?

渡辺 調べてみると、彼がオールヌードになって話題となった舞台『エクウス』に出演していたローラ・オトゥールという女優とつきあい、そのあとは詩人のアレン・ギンズバーグを演じた『キル・ユア・ダーリン』(13)の共演者だったエリン・ダークという36歳の米国人女優とつきあっているようです。これは現在進行形みたいですね。5歳年上ですよ!

2007年『不死鳥の騎士団』公開の直前に当たるタイミングで、主役が素っ裸になることでも知られる舞台『エクウス』に出演したダニエル。「あのハリーくんのギャランドゥが……!」と世間は仰天。

『ハリー・ポッターと謎のプリンス』(09)のインタビューのときは、「好きな女の子は知性のある子。知的であれば、他の要素は自ずとついてくると思う。ユーモアのセンスもあり、思いやりもあるはずだから。もうひとつ、つけ加えるなら、のんびりしている子がいいなー」と言っていました。

エリンとはもう7年くらい付き合っているわけだから、彼のこの条件に合っているのかもしれません。

── そろそろ結婚してもいいくらいですよね。

確かに! さっき、本の話をしましたが、彼が最も好きなのは詩なんですって。

「本を読むことで、俳優として感情の幅を広げられる。そういうことに最も適しているのが詩だよ。小説以上に役立つし、一番好きなジャンルなんだ。

最高に影響を受けたのはジョン・キーツ。彼の詩は全部読んでいる。TSエリオットはすべて好きなわけじゃないけど、『J・アルフレッド・ブルーフロックの恋歌』は素晴らしかった。もうひとつ、大きな影響を受けたのはトニー・ハリソンという現代の詩人だよ」

詩の話になると止まらないという感じで、とても熱っぽく語っていました。これは19歳のときですね。ちなみに「好きになった子には詩を贈りたい」とも言ってました。エリンに贈ったのかもしれない(笑)。

2019年6月、ニューヨークのハドソンパークにて、リラックスした後に人目も憚らずにキスしていたのをパパラッチされているダニエルとエリンのカップル。このときもMacをいじる彼女の横でダニエルは読書していたとか。

── やっぱり彼自身が知的な感じですね。

渡辺 そうなんですよ。自分で演じてみたい小説のキャラクターは?と聞いてみたら、ヘミングウェイの『老人と海』と、ナボコフの『マルゴ』を挙げていました。前者はジョン・スタージェスが、後者も『悪魔のような恋人』(69)という邦題でトニー・リチャードソンがすでに映画化していますけどね。どちらも主人公はじいさんやおじさんで、海にいじめられ、小悪魔にいじめられる(笑)。

── それは面白い共通点かも。

渡辺 こうやって振り返ってみると、最近の作品選びもMな役が多い。今回の作品や『スイス・アーミーマン』はもちろん、『ホーンズ 容疑者と告白の角』(13)だって殺人の容疑者として追われ、さらには奇妙な角が生えてくる男ですから、M度が濃厚ですよ。

確かに受難の役が多い近年のダニエル。『ホーンズ 容疑者と告白の角』では額から角が……!

『ヴィクター・フランケンシュタイン』(16)のときも背中が曲がった助手のイゴールを嬉々として演じてましたし。ラドクリフくん、もしかしてMってこと!?

── (笑)。ヘンな話になっちゃいましたが、たまには恋愛映画など、普通の作品にも出てほしいですよね!

※次回は2/23(火)に掲載予定です。

文:渡辺麻紀
(C) 2019 Supernix UG (haftungsbeschrankt). All rights reserved.
Photo:AFLO



『ガンズ・アキンボ』

2月26日(金)より公開