Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

『逃げ恥』はなぜ時を経ても色あせないのか? 「再編集版」からも感じた、枯れることのない“愛”

リアルサウンド

20/6/2(火) 6:00

 『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系、以下『逃げ恥』)が、『ムズキュン! 特別編』として再び多くの人を笑顔にしている。2016年10月期に放送された本ドラマは、高学歴で居場所がない森山みくり(新垣結衣)とプロの独身・津崎平匡(星野源)の雇用関係としての“結婚”を描いたラブコメティ。星野源が歌うエンディングの「恋」に合わせてキャストが踊った“恋ダンス”も大きな話題となり、多くの人がリズムに乗って楽しんだのも記憶に新しい。

 5月19日に第1話が放送されると、本放送時の10.2%を上回り、視聴率11.0%(ビデオリサーチ調べ、関東地区、世帯平均)を記録。Twitterでは「逃げ恥」がトレンド世界1位を獲得した。なぜ『逃げ恥』は、時を経てもなお人々を魅了するのか。

2020年の今こそ考えたい「必要とされること」

 就職活動に全敗し、派遣先でも“1人”の枠に選ばれない。そんな切ない状況に置かれた自分を、テレビ番組のパロディで脳内再生し、なんとか前向きに生きようとしているのが、主人公・森山みくりだ。「みんな誰かに必要とされたくて、でも上手くいかなくて、いろんな気持ちをちょっとずつ諦めて、泣きたい気持ちを笑い飛ばして、そうやって生きているのかもしれない」。

 “みんな同じ”という息苦しさを脱した先に待っているのは、“自分で歩くしかない”というある種の孤独。人はどうしたら心地よいつながりを持ちながらも、自立した人生を歩むことができるのか。そんな課題を抱えたまま、私たちは新型コロナウイルスによって様々なものと距離を取らざるを得なくなってしまった。

 仕事を失わざるを得なかった人。急な生活の変化に厳しい思いをしている人。夫婦や家族と同じ空間にいることに窮屈に感じた人。心無い言葉や、思いもよらなかった他人の行動に、傷ついた人も……。就職しても、結婚しても、社会が豊かになっても、私たちの生きる世界は常に不安定なのだと、改めて思い知らされた。

 そんな中での『逃げ恥』の特別編。『逃げ恥』が問いかけるのは、知らずしらずのうちにかかっている呪いを吹き飛ばす柔軟さ。“こうしなければならない”、“◯◯なんてけしからん”、そんなふうに頑なになっているときこそ、思い足したいのが平匡の語るこのフレーズだ。「逃げたっていいじゃないですか。逃げるのは恥。だけど役に立つ」。

 自分自身の命や心を守ることができるのであれば、それは世間一般がいう立派ではなくとも試す価値はある。もしかしたら、それが新たな「普通」となる発明になることだってあるかもしれない。例え、誰かに社会に「必要ない」と言われているような気がしても。自分が自分を幸せにできることを諦めないでほしい。『逃げ恥』という作品に、誰もが心を温かくするのは、コミカルなタッチのドラマの中に、そんなエールを感じるからだ。

アップデートするからこそ「必要とされ続ける」

 作品そのものが持つ魅力に加えて、これほど今回の『特別編』に絶賛の声が上がっているのは、単なる再放送で終わらず、未公開シーンや未公開カットを加えた丁寧な再編集版であることが大きい。

 本放送時には初回15分拡大版だった第1話は、その分をカットして調整するのはもちろんのこと、逆にカットされていた表情やセリフが加えられていた。例えば、みくりが伯母の百合(石田ゆり子)に頭をくしゃくしゃにするシーン。本放送時よりも気持ち長めになり、「ありがとう百合ちゃーん」と懐っこい声を出すみくりの姿が確認できる。よりみくりにとって百合がどんな存在なのか、空気感で伝わってくる。

 また、あまり感情を顔に出さない平匡の可愛らしい部分も未公開カットから浮かび上がる。突然の来訪者によるチャイムラッシュに「ああ、もうううるさいな〜」と動揺したり、その招かれざる客が泊まりたいと言い出し崩れ落ちたり……と、第2話はさらに未公開カットが盛り込まれていった。

 さらに両家顔合わせで「結婚式はしない」と伝える場面では、「式や披露宴にお金を使うよりも、その分貯蓄にまわしほうがいい」と言う平匡に、みくりが「このご時世、何があるかわかりませんから」と続けてるカットを加えたのも、より2020年の状況にマッチしているように感じた。そして、賛同する百合の言葉にも「2人の人生なんだから」という言葉が添えられ、2人一緒にお辞儀をして締める。2人で決めた自分たちの意志を伝える大切さにプラスして、しっかりと伝わっているのかを確認する大切さまで描ききれている印象だ。

 さらに、第2話のエンディングでは新垣結衣と星野源が、撮り下ろしのリモート恋ダンスを披露した。このサプライズ演出に、原作者・海野つなみ、脚本家・野木亜紀子もTwitterで反応。多くの視聴者と共に楽しんでいる様子が伺えた。

 峠田浩プロデューサーによると、監督、プロデューサー、編集スタッフが、リモート会議や電話で意見を出し合いながら、撮影素材を改めて見直して再編集したそう。「どれを足すか。『面白い表情だな』と視聴者の皆さんに楽しんでもらえるのではないかと思ったシーンやカットを探して入れています」と語っている。ファンによって『未公開カットまとめ』が作られていることについては「皆さんのつぶやきやブログを見て、さらに頑張ろうという風になっています」と話していた(引用:『逃げ恥』再編集への情熱 未公開カット反響受け「編集やり直し」 | マイナビニュース)。

 そんな製作側の細かな仕事ぶりは、まるでみくりが『情熱大陸』(毎日放送)風に語っていた「心がけとはちょっと違うんですけど、毎回どこか1カ所多く掃除しています。時間内ですけど」というスタンスそのもの。そして、みくりが平匡に網戸の掃除を気づいてもらえてうれしかったように、制作者たちと視聴者との間でも生まれているのだ。

 自分が今できる範囲で、より相手を幸せにしたいと願う気持ち。その純粋な気持ちを人は「愛」と呼ぶ。そして、その愛をできる限り見逃すまいと、相手を観察するのもまた「愛」だ。誰かに「必要とされる」というのは、自分のできるだけの「愛」を試行錯誤し続けること。そして相手の愛に気づこうと興味を持ち続けること。そのアップデートの連続が、「必要とされ続ける」ことにつながっている。約4年経っても、『逃げ恥』が決して色あせない理由。それは、そこに枯れることのない「愛」が生き続けているからなのだろう。

■放送情報
『逃げるは恥だが役に立つムズキュン!特別編』
TBS系にて、6月2日(火)22:00〜22:57放送
原作:海野つなみ『逃げるは恥だが役に立つ』(講談社『Kiss』所載)
脚本:野木亜紀子
出演:新垣結衣、星野源、大谷亮平、藤井隆、真野恵里菜、成田凌、山賀琴子、宇梶剛士、富田靖子、古田新太、石田ゆり子ほか
プロデューサー:那須田淳、峠田浩、宮崎真佐子
演出:金子文紀、土井裕泰、石井康晴
製作著作:TBS
(c)TBS
公式サイト:http://www.tbs.co.jp/NIGEHAJI_tbs/

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む