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映画ファンが思わず語り合いたくなる? 『映画大好きポンポさん』には仕掛けがいっぱい

リアルサウンド

20/11/5(木) 9:00

 杉谷庄吾【人間プラモ】の漫画『映画大好きポンポさん』は、最初、イラスト投稿サイトのpixivに掲載された。そこで注目を集め、2017年に単行本が刊行されたのである。その際、本の帯に「アニメ化企画進行中!!」と書かれていたが、話半分に受け止めていた。しかし順調に製作が進んだようだ。すでに公式サイトが出来ており、作品は2021年の春に公開予定である。この物語のファンのひとりとして、今から楽しみでならない。

 本のタイトルになっているポンポさんは、正式名をジョエル・ダヴィドヴィッチ・ポンポネットという。職業は映画プロデューサー。数々の大ヒット作を製作してきた伝説のプロデューサー、J・D・ペーターゼンの孫で、彼の作った会社「ペーターゼンフィルム」を受け継いでいる。強力な業界のコネと、映画製作の才能を持つ、若きシネアストなのだ。しかし彼女は主人公ではない。物語を動かす狂言回しといっていいだろう。

 では、誰が主人公なのか。ペーターゼンフィルムで制作アシスタントをしている、ジーン・フィニだ。現実から目を逸らし、映画の世界だけを愛する青年である。映画しかない人生をおくるジーンの才能を見抜いたポンポさんは、自ら脚本を書いた『MEISTRE』の監督に抜擢。同時に、映画スターを目指しているが、オーデションに落ち続けているナタリー・ウッドワードを主演女優に抜擢する。このナタリーが、サブ主人公だ。ポンポさんに導かれ、才能を開花させた若者たちが、成長し成功する。悪人の出てこない、ストレートなビルディングス・ロマンが、なんとも気持ちいい。

 続く『映画大好きポンポさん2』では、超大作の続編の監督を任せられたジーンが、自己の作家性と映画の商業性の相克に陥り暴走。ポンポさんを振り回しながら、新たな映画を製作する。面白いのは、一作目で完成されたキャラクターだったポンポさんが、恵まれた環境で育った天才であるがゆえに、欠けた部分のあることが明らかになる点だ。実は彼女も成長の余地があったのである。

 ジーンに対抗して、映画俳優を目指しているフランこと、フランチェスカ・マッツェンティーニを主人公にした映画を製作したポンポさん。彼女のラストの言葉に、映画ファンはご機嫌になり、その成長を感じるのである。

 さらにシリーズ第3弾『映画大好きフランちゃん』は、『2』のストーリーをフランの視点にして、あらためてスター誕生の経緯を綴っている。第4弾『映画大好きカーナちゃん』は、フランの演劇学校の後輩のカーナ・スワンソンが、科学考証家との出会いを経て、SF映画の主役をやり切る様子が描かれている。一作ごとに登場人物が増え、映画の都ニャリウッドで生きる、映画隊好きな人々の群像ドラマのようになってきた。どこまで人の輪が広がってもOK。このまま、ネバー・エンディング・ストーリーなシリーズになることを祈っている。

 また、一連の作品のクライマックスは、かならず見開きカラーになっている。パートカラー映画ならぬ、パートカラー漫画というべきか。面白い工夫であり、視覚的な効果抜群だ。

 ところで本シリーズは、当然といえば当然なのだが、やたらと映画ネタが多い。たとえば主要人物の紹介には、必ず好きな映画が3本挙げられている。ポンポさんは『セッション』『デス・プルーフ in グラインドハウス』『フランケンウィニー』。ポンポさんと仲のいい人気若手女優のミスティアは『カミーユ・クローデル』『アデネの恋の物語』『プロンテ姉妹』。ジーン・フィニは『スティング』『ファイト・クラブ』『タクシードライバー』。ポンポさんの片腕である職業監督のコルベットは『魔女っこ姉妹ヨヨとネネ』『宇宙ショーへようこそ』『アリーテ姫』。きりがないのでこれくらいにしておくが、各人の好きな映画を見るだけで、キャラクターのイメージが強化されるのだ。ジーンの好きな映画など、いかにもな出来上がった映画狂のセレクトでニヤニヤしてしまう。

 しかも映画ファンならば、いろいろ妄想できるのが嬉しいところ。フランの初主演作『ランチ・ワゴン』のタイトルは、ミュージカル映画の傑作『バンド・ワゴン』を、もじっているのだろうか。ナタリー・ウッドワードは、ナタリー・ウッドが元ネタに決まっているけど、ジョアン・ウッドワード(『テキサスの五人の仲間』の快演が忘れられない)も意識しているのか。こんな感じで映画や俳優のことを、あれこれ話したくなるのだ。それもまた本シリーズの、楽しみ方なのである。

■細谷正充
1963年、埼玉県生まれ。文芸評論家。歴史時代小説、ミステリーなどのエンターテインメント作品を中心に、書評、解説を数多く執筆している。アンソロジーの編者としての著書も多い。主な編著書に『歴史・時代小説の快楽 読まなきゃ死ねない全100作ガイド』『井伊の赤備え 徳川四天王筆頭史譚』『名刀伝』『名刀伝(二)』『名城伝』などがある。

■書籍情報
『映画大好きポンポさん』(1〜2)『映画大好きフランちゃん』『映画大好きカーナちゃん』(すベてジーンピクシブシリーズ)
著者:杉谷庄吾【人間プラモ】
出版社:KADOKAWA

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