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大澤嘉工監督、JAM Project無観客ライブに感じた「20年積み重ねた仲間の存在」

リアルサウンド

21/3/3(水) 12:00

 アニソン界のレジェンド、JAM Project(以下、JAM)の結成20周年を記念したドキュメンタリー映画『GET OVER -JAM Project THE MOVIE-』が、2月26日から全国で公開されている。

 本作は、2019年から2020年にかけ460日間に渡り、レコーディングやライブツアー、海外公演の模様を捉え、さらにこれまで語られることのなかったメンバーたちの本音と実像に迫る内容になっている。JAMの活動の歴史は、そのままアニソンが市民権を獲得していった時期につながる。本作は、そんな時代をいつでも先駆者として走り抜けてきたメンバーたちの真摯な姿勢と熱い想いがあふれた作品となっている。

 新型コロナウイルス感染拡大の影響により、予定されていたツアーが次々と中止になるという事態にも見舞われたJAMだが、それでも彼らは進むことを諦めない。アニソン界を牽引してきた存在だからこその強さが浮かびあがる、貴重なドキュメンタリーだ。今回は、本作の監督を務めた大澤嘉工氏に、本作について話を聞いた。(杉本穂高)

関係性こそドキュメンタリーの真髄

――今回のお仕事を引き受けた経緯を教えて下さい。

大澤嘉工監督(以下、大澤):ドキュメンタリーは自分で企画を立てる場合と依頼される場合とありますが、今回は昔から信頼しているプロデューサーからのオファーでした。僕は特にアニソンに詳しかったわけでもありませんでしたが、今回は長い撮影期間をいただけるということだったので、むしろ関係性ゼロから始めて、その中でお互いを発見していくやり方の方が良い作品になるだろうと考えました。ドキュメンタリーは、対象との関係性をどう強くしていくかが真髄だと思っています。今回はその関係性を「はじめまして」の状態からスタートさせて、ラストカットにいたるまで、どんどん強くすることができたと思っています。

――5人のメンバーと最初にお会いした時は、どんな印象でしたか?

大澤:最初にお会いしたのは、2019年、幕張でのランティス祭りの控室でした。“この人たちはドキュメンタリーの素材として面白いぞ”という予感は最初から感じましたね。もっと言うと、5人全員が主役であるべきだと思いました。バンドなどを取り上げる場合は、なんとなくボーカリストが中心になることが多いですけど、JAM Projectについては5人全員を主役として立たせることが重要だと次第に考えていくようになりました。

――15カ月間の撮影を続けて、監督とメンバーとの関係性はどんな風に変わっていったのでしょうか?

大澤:思った以上にエッジの立った方たちだったし、そして思った以上に優しかったです。ただ、優しさの表現はそれぞれ別で、例えば遠藤(正明)さんは初めはすごく警戒されていましたが、一度信頼関係ができれば快く受け入れてくれました。奥井(雅美)さんは、バランスを取る方で、聞くべき順番を間違えなければ心を開いてくれた印象があります。

――話を聞くと言う点では、インタビューパートもありましたが、あれは撮影期間のどのタイミングで撮ったのですか?

大澤:2020年の2月です。撮影を始めたのが2019年の7月くらいでしたが、今回は5人の声が必ず重要になると思っていたので、最初からあのインタビューに向けて関係性を深めていこうと思っていました。あのインタビューをどのタイミングで撮るのかはすごく重要でしたね。

世界に広がるアニソンを目撃

――海外公演の模様も収録されています。海外でのアニソンに対する熱狂ぶりを見てどう思いましたか?

大澤:ただ熱いだけじゃなく、思った以上に(カルチャーとして)根付いているんだなと思いました。アニソンという言葉がそのまま英単語のAnisongとして通用することはすごいことですし、お客さんも海外でのライブに関わらず日本語の歌詞で歌っているわけですから。日本語のまま海外で通用するミュージシャンなんて、これまでほとんどいなかったですよね。これはJAM Projectが優れている点だと思うのですが、アニソンはやはりアニメ文化と一体のものなので、アニメがあるからこそ自分たちもアニソンを歌える。そういう想いが強いんですよね。アニメ作品へのリスペクトを、歌で表現するためにアニソンがあるんだと思っていることはすごく感じました。

――ライブ撮影でこだわった点はありますか?

大澤:ライブの場合、オフィシャルのカメラが何十台とあったので、その素材も使わせてもらいつつ、それとは別にドキュメンタリーとして欲しい画を撮るために映画の撮影スタッフも入れました。横から5人がフレームに入ってきたり出てきたりする画を撮りたかったんです。

――舞台袖にカメラを置いたということですか。

大澤:ステージの横ですね。JAMは5人みんなで一緒に動きを揃えたりはあまりしないんです。向こうを向いている遠藤さんがいれば、きただに(ひろし)さんはこっちを向いていたり、福山(芳樹)さんは遠くにいってしまっていたり、バラバラな個性なんだけど、この5人がまとまると1つの塊になる。それを象徴する画になると思ったんです。

――5人の動きがバラバラだとカメラのオペレーションも決めにくいですね。

大澤:そうなんです。だから毎回カメラマンにあれこれ指示するんですが、難しいんですよね(笑)。ある程度“こういう時はこう動くんだな”と予想はするのですが、やはりライブは生物なので。

――音響面でこだわった点はありますか?

大澤:映画館という環境を活かしたいと最初から思って撮影していました。なので、ドキュメンタリー作品では珍しいと思うのですが、7.1chの環境がある劇場では全て7.1chでの上映になります。通常、ライブは基本的にステレオのLとRの世界ですけど、映画館はサラウンドですから、音に包まれる体験をしてほしいと思いました。それに、5.1chの音源も5.1ch用にきちんと調整しましたので、それはそれですごく良い音響になっていると思います。

コロナ禍で見えたJAM Projectの強さ

――メンバーへのインタビューカットは2月に撮影したとおっしゃっていましたが、ちょうど日本で新型コロナウイルスが感染拡大する直前ですね。これがコロナ感染拡大後に撮影していたら、きっと違った内容になりましたよね。

大澤:そうですね。全く違った話になったと思います。

――本作の企画はコロナの世界的流行の前に始まったと思うのですが、コロナ禍以前にはどんな構成にしようと考えていたのですか?

大澤:一番大枠というか、企画書的なレイヤー(構成)で言うと、結成20周年のライブツアーがあって、それがエンディングになるようなフワッとしたイメージは持っていました。ただ、コロナがあろうとなかろうと、監督の立場で長期ロケをやっていると、「あ、これで終われるな」というタイミングがある時に来るんですよ。もちろん、納品期限があるものなので、その期限内に仕上げるのが大前提ですけど。今回の場合は、最後にインタビューを撮っているんですが、あれが撮れた時に「終われるな」と感じましたね。

――本作はJAMのドキュメンタリーとしても貴重ですが、コロナ禍でミュージシャンが何を考え、何に苦しんだのかを記録したという点でも貴重だと思います。コロナに直面したメンバーを間近に撮影されて何か感じることはありましたか?

大澤:本編中、車の中で影山(ヒロノブ)さんを撮影した時に、「今までの人生で一番きつい」と話されるシーンがあります。影山さんが話していることはすごく深刻なんですけど、それを笑顔で言っているんですよね。この状況で笑顔になれるのはすごいと思うんです。それはアニソンというものに関わってきたからとも言えるし、何も説明しなくてもこの笑顔がすべてを表しているなと思いましたね。それと無観客ライブのシーンを編集している時、そのライブに参加された他のアーティストの話を聞いていて、僕は編集しながら泣くんじゃないかと思いましたが、そこにはやっぱり20年積み重ねた仲間の存在があるんだなと感じました。コロナがあって良かったとは言いませんが、こういう状況だからこそ、そういう強さがプリミティブに見えたという面はありますね。

――彼らはこの状況でもへこたれないというか、本当に強い方たちだなと思いました。その強さは、おっしゃられたようにアニソンだからこそなのでしょうか?

大澤:色々なことを積み上げてきた総合力でしょうね。人生に起きた出来事、ステージに立ち続けること、アニソンが市民権のなかった時代から活動してきて、市民権を得ていく過程を体験したこと、そういうことの積み重ねなんだと思います。そんな彼らの生き様が作品にも反映されているし、もっと言うとライブにも反映されているんだと思います。ライブってまさに生き様ですし、それがお客さんにも伝わっているんだと思いますね。

――20年間の積み重ねが確かにフィルムに焼き付いていますね。

大澤:はい。その20年を無理にフィーチャーせず彼らの今を撮る、それだけで彼らの積み重ねてきたものが映るはずだと思っていましたし、その今を描くために必要な過去も入れましたが、今と少し先の未来を撮ることが目標でした。繰り返しになってしまいますが、彼らの強さがどう培われてきたのか、映画を見ればわかるはずですし、それがコロナ禍でも発揮されています。僕の知り合いのミュージシャンや役者もコロナ禍で苦しんでいる人が大勢いますが、彼らにもこの映画を見てほしいと思っています。

タイトルに込めたもの

――『GET OVER』というタイトルは、「乗り越える」や「克服する」という意味で、今の状況に対して強いメッセージ性のある言葉ですが、このタイトルはいつごろ出てきたのでしょうか?

大澤:このタイトルに最終的に決めたのは最後のライブを撮った後ですが、最初に事務所の方とお会いする時に一枚だけの簡単な企画書のようなものを書いていたんです。その時に仮タイトルで『GET OVER』とすでに書いていました。

――そんな初期の段階に思いついた言葉だったのですね。

大澤:そうですね。でも、それは僕が勝手に考えていただけで。その時思っていたのは、50歳を過ぎてもシーンの中心で活躍できる人はそうそういませんから、いろいろなものを乗り越えてきたんだろうなと思ってその言葉を選んだんです。でも、撮影が始まって、コロナで状況がひどくなっていく中で撮影していると、いろんなものが雪だるまみたいにその言葉にくっついてきて、意味が大きくなっていったように思えたんです。そういう言葉は強いものだと思いますから、『GET OVER』でいこうと決まったんです。

――非常に力強いJAM Projectらしいタイトルだと思いますし、作品に選ばれた言葉のような気がします。

大澤:偶然と言えば偶然ですが、映画ってそういうものが付着していかないと良い作品になりませんからね。不思議な縁を感じます。

■公開情報
『GET OVER -JAM Project THE MOVIE-』
2月26日(金)から3月11日(木)まで2週間限定ロードショー
出演:影山ヒロノブ、遠藤正明、きただにひろし、奥井雅美、福山芳樹、ALI PROJECT、angela、GRANRODEO、FLOW、梶浦由記
監督:大澤嘉工
製作:井上俊次、二宮清隆
企画:松村起代子、宇田川美雪
プロデューサー:高橋義人
制作:東北新社
配給:東宝映像事業部
2021年/日本/カラー/16:9/114分
(c)2021「GET OVER -JAM Project THE MOVIE-」FILM PARTNERS
公式サイト:http://Jamproject-movie.jamjamsite.com
公式Twitter:@JAMProject_eiga

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