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大東駿介が『浦安鉄筋家族』で演じる春巻龍が完璧! 相反する世界観をスキなく見せる演技の土台

リアルサウンド

20/5/15(金) 6:00

 2019年からNHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』(以下『いだてん』)、NHKよるドラ『ゾンビが来たから人生見つめ直した件』(以下『ゾンみつ』)、『伝説のお母さん』と、連続ドラマに立て続けに出演、それらすべての作品で異なる強い印象を与えてきた大東駿介。

 そんな彼が、浜岡賢次のギャグ漫画をドラマ化した『浦安鉄筋家族』(テレビ東京系)で、原作の最人気キャラの「春巻龍」を見事に演じている。

【写真】教室に入ってきた春巻龍

 同作の原作は、千葉県浦安市の小学生・大沢木小鉄を主人公とした下ネタ満載ドタバタコメディだが、ドラマ版では主人公を佐藤二朗演じる小鉄の父・大鉄に変更。それにともない、舞台も学校などを中心とした小鉄まわりではなく、「大沢木家」中心に変わり、毎度「ちょっとイイ話」に着地する、にぎやかホームコメディに変わっている。

 ドラマ版は、原作ファンにとって少々印象が異なるテイストとなっているが、そんな中、とびぬけた再現度の高さで注目されているのが、小鉄の担任・春巻龍を演じる大東駿介だ。

 実写キャラのビジュアルが公開された時点で、見事な再現ぶりはネット上で話題になっていた。ただし、それはあくまで「写真」で「見た目」の話。

 春巻は、ブルース・リー風の見た目なのに、体力は全くなく、運動もできず、お腹も弱く、アホで、貧乏で、遭難癖があって、かつていじめられっ子だったことから「威張れる仕事」と言う理由で教師を選んだのに、小学生たちにもやっぱりバカにされる、最弱かつ最も愛されているキャラだ。

 ここが非常に大事なポイントで、春巻は単なるおバカやクズではなく、笑えて、ニクタラしくて、でもちょっと不憫で、教え子の小学生たちも読者・視聴者も放っておけない「愛すべきおバカ」なのである。そこを魅力的に演じられるかどうかは、ビジュアルの再現度以上のキモだった。

 その点、大東駿介は完璧だ。

 劇画調の力みなぎる顔で繰り出される数々のおバカな表情と動き。さらに「俺は100メートルを3秒で走るちょー!」などと虚勢をはる姿は、まるで弱く小さな子が泣き出す寸前の謎のブチキレ方のように見え、なんだか放っておけない。アクロバティックな動きも、どこか抜けていて、“ちゃんと弱そう”だ。汚い箸の持ち方で、周りにボロボロこぼしつつ、目をひんむいて泣きながら必死でご飯に食らいつく姿などは、野生動物のような趣があって(でも最弱ですぐ死にそう)、やっぱり放っておけない。

 くだらない理由から近所で遭難してしまう原作ではお約束のパターンも、「この春巻ならありそう」と妙に納得できる。

 単に「春巻に似ている」のではなく、春巻というありえないほどアホなフィクション上のキャラを、現実世界に地続きで存在させてしまう説得力があるのだ。

 大東駿介の2019年からの活躍ぶりを振り返っても、改めてその多様な魅力を感じずにいられない。

 2019年1月期には、NHKよるドラ『ゾンみつ』(1月期)でヒロイン・みずほの夫で、妻の親友と不倫を続けるクズ男を、愛嬌たっぷりに演じていた。アホで最低なのに、稚拙さや素直さ、小物ぶり、愚かさに、うっかり笑えて、うっかり可愛く思えてしまう。クズなのに完全には憎み切れない愛らしさの加減が絶妙なのだ。

 また、NHK大河『いだてん』では大きくイメージを変え、平泳ぎの金メダリスト・鶴田義行をゴリゴリマッチョに演じていた。エリート水泳選手としての説得力ある体は、役作りのために10キロも増量し、もともとカナヅチだったのに水泳の猛特訓をしたことから仕上げられたものだった。その変身ぶりにも驚かされたが、さらに強く惹きつけられたのは、華々しく強い姿の一方、水泳選手としてのピークをこえてから見せた葛藤の表現である。

 また、『伝説のお母さん』では、エリートで、他の仕事も家事も育児もこなす「デキる男」ながら、早々に魔王に取り込まれてしまう「勇者・マサムネ」をコミカルに演じていた。

 有能さとテキトーさ、薄情さ、計算高さを持ち合わせる「勇者」像は、ある意味、最も人間くさく見えた。同作の制作統括を務めた篠原圭氏は、当サイトで行ったインタビュー(参考:『伝説のお母さん』なぜNHK「よるドラ」枠で放送? 企画の背景を制作統括に聞く)でこう語っている。

「(魔王退治という)壮大なスケール感と、相反するちっちゃさとの両面を一瞬のスキも見せずに演じてくれたのが、大東さんと、夫・モブ役の玉置玲央さんでした」

 確かに「壮大なスケール感と、ちっちゃさ」のような、相反する世界観をスキなく見せることは、作品・役柄に限らず、彼の土台に共通してある気がする。

 一見エリートで最強なのに、弱さがあり、クズなのに可愛さがあり、最弱なのに、たくましさがあり、アホなのに、聡明さもある。本来、そうした相反する要素を併せ持つのが、人間なのだろう。ときには台本に書かれていない、矛盾する面・相反する面も、血肉の通う表現で立体化しているからこそ、彼の演じる役はどれも奥行きがあって、魅力的なのだ。

 ちなみに、大東は今年2月からnote上で、インタビューメディア「イエローブラックホール」を立ち上げ、様々な人にインタビューを行っている。それらの記事を読み、思考や視点に触れると、ますます彼の演技の魅力が明確に見えてくるかもしれない。

(田幸和歌子)

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