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片想いが考える、バンドを進化させる“課外活動”の重要性「それぞれがインディペンデントな存在」

リアルサウンド

19/10/24(木) 18:00

 8人組の男女混成バンド、片想いによる前作『QUIERO V.I.P.』からおよそ3年ぶり通算3枚目のアルバム『LIV TOWER』がリリースされた。ソウルやファンク、ヒップホップなどに影響を受けつつ、昭和歌謡やJ-POPにも通じるどこか懐かしくもポップなメロディ。「R&B=リズム&慕情」と自ら標榜するその世界観は健在で、今回そこにプログレッシブかつサイケデリックな要素を加えることによって、まるでエレクトリック・マイルス時代を彷彿とさせるような混沌としたサウンドスケープを築き上げている。

 実は彼ら、ボーカルの片岡シンは銭湯を運営し、MC.sirafuはザ・なつやすみバンドやうつくしきひかりなど多数のプロジェクトを並行して活動。他のメンバーもそれぞれソロ作品をリリースしたり、妊娠から出産そして子育てに追われたりと、片想いとしての活動のみならず様々な「課外活動」を展開しており、そのフィードバックによって片想いの音楽性をより先へと進化させているのは間違いないだろう。

 今回リアルサウンドでは、片岡とsirafu、そしてオラリーの3人による鼎談を企画。アルバムについてはもちろん、バンドに対するスタンスの違い、活動を長続きさせるための方法など、多岐にわたるトピックをざっくばらんに語り合ってもらった。(黒田隆憲)

他のバンドとはちょっと違う経緯で集まったメンバーたち

ーーアルバムとしては、前作『QUIERO V.I.P』(2016年)から3年ぶりとなりますが、本作に至るまでの経緯をまずは聞かせてもらえますか?

片岡:割と「半年ぶりのライブ」みたいな状態が続いていましたね(笑)。オラリーの妊娠、出産という大きな出来事もありつつ。実は、その間にミニアルバムを出す計画もあったのですが、途中から「やっぱり出すならフルアルバムに変えよう」という方針に変わったりして。それでライブを休んでいる時期もかなりあったんです。

ーー片岡さんは銭湯の運営をしながら、並行して音楽活動も行なっているのですよね?

片岡:そうですね。割合でいうと、9割6分はお店にいるんじゃないかな(笑)。

ーー他のメンバーの皆さんも、仕事を掛け持ちながら音楽をやる人もいれば、音楽を生業にしている人もいるし、オラリーさんのように妊娠、子育てされる方もいる。各々が自由なスタンスで「片想い」というバンドに携わっているのも、ある意味ユニークですよね。それがバンドに良い作用をもたらしてもいますか?

片岡:そうですね。ただ、それぞれの生活ありきで続けるというのは、結成当時から変わっていないんですよ。最初から全く違う環境で暮らしているというのもあって、程よい距離感を取り続けている。なので、ちょっとライブが空いたりしても、「これが片想いなんだよな」という余裕みたいなものもあって(笑)、 「解散」とかそういう心配をする必要は全くないんですよね。

 ただ、そんな自分たちのスタンスを、「仕事しながらやってる俺たち、すごいだろ?」とも思っていないです(笑)。むしろメンバー全員が音楽だけで食べていく覚悟を持っている人たちの方が、俺たちなんかよりずっと凄いしリスペクトしています。僕らはほんと、出来る範囲のところでやっている感じですから。

ーー「メンバーそれぞれが無理のない範囲で」というスタンスを、結成時から貫いているのはユニークですよね。途中でそうなっていくケースはよくあると思うんですけど。

片岡:確かにね。きっとそれは、片想いというバンドを20代後半から始めたので、そもそも「売れる」とも「売れよう」とも思っていなかったというか。まさか数年後に大きなフェスに出られるようになるなんて、想像もしていなかったですしね。

ーーそもそも、バンドを結成した時にはどんな音楽をやろうと思っていたのですか?

片岡:最初はMC.sirafuと、「何か面白いことをやりたいね」と話していました。それはバンドに限らず演劇でも映像でもいいのだけど、何かそういうパフォーマンスを、小さい場所でもいいからやれたらいいなというのがまずあったんです。そんなところから、sirafuは楽器をやっていたし「じゃあ音楽をやろうか」ということになり(笑)。もう一人、鍵盤奏者のissyを誘って3人でスタートしたのがバンドの始まりです。そしてその時には、「やるからにはポップなものがいいよね」という気持ちが、最初はあったかもしれないです。

 ポップなものというのはつまり、「お客さんと一緒に歌える」ということ。歌と熱のこもった音楽が、昔から僕はすごく好きだったんです。あと、僕は石垣島に住んでいたので、地元の民謡に触れたりできたのも大きいと思いますね。

ーー片想いのベースには、ブラックミュージックからの影響も強く感じます。

sirafu:なのに3人で始めた時は、まだリズム隊がいなかったわけですよ(笑)。普通は生ドラムとか入ったりしてグルーヴから作っていくと思うんですけど、ただ世代的にDJ的な視点というか。ソウルやファンクの高揚感、お客さんとの一体感とか、そういうことへの憧れだけで始まったバンドで、そこから10数年かけてメンバーを集めて。やっと今、人力でダンスミュージックができる編成になったんです。

片岡:最初の頃はもう、メチャメチャだったよね。素人の子をいきなりメンバーに入れたりして。

sirafu:もともとこの人(オラリー)がそんな感じだったから。

オラリー:お客さんとして普通に観に行っていたんですけど、いつの間にかステージに立っていて(笑)。しかも初ライブから真ん中で歌っていたので、一緒に観に行ってた友だちも、私自身もびっくりしていました。

片岡:ただ演奏が上手いやつを、バンドのメンバーに入れようという気はそもそもなくて。オラリーを誘ったのも、あだち(麗三郎)を入れたのも、「何か面白い化学反応が起こるんじゃないか?」という気持ちからなんです。例えば、一つの建物を作るにしても、建築士の目線や現場で指揮を執る人の目線、空間をデザインする人の目線など、様々な立場からの目線によって造られていくわけじゃないですか。そんなふうに、一つの作品に対してメンバーそれぞれのスタンスで携わっていくことが、この片想いというバンドの目的だと思っているので、別に楽器が全員上手くなくても全然問題ないんです。その分、何か他のところでその人の個性を発揮できればそれでいい。そういう、他のバンドとはちょっと違う経緯で集まったメンバーたちなんですよね。

ーー普通は「演奏が上手い」とか「目的が同じ」とか、「聴いている音楽が似ている」とか、そういう基準でメンバーを集めるわけじゃないですか。片想いがメンバーを集める時は何が「基準」になってくるんでしょうね。

片岡:なんだろう……下らないことを面白いと思えるところかな(笑)。そこを共有できるかどうかは重要ですかね。

sirafu:そうだね。下らないものを見て笑ってる時に、全然笑ってないやつとかいたら嫌だし(笑)。あと、生活感がある人が好きかもしれない。僕ら、意外と「音楽が最も大切」だとは思ってないんですよ。僕なんかは音楽活動をしている時以外、なるべく無音で過ごしたいタイプ(笑)。自分のことを「音楽家」だとは思っていないし、価値観の一番上に音楽を置くのは嫌なんです。

それぞれのグラデーションが「片想いらしさ」 

ーーアルバムの話に戻りますが、『LIV TOWER』はこれまで以上にプログレッシブでストレンジなアレンジが増えつつ、メロディはこれまで以上にフックがあってキャッチーになった印象です。

sirafu:メロディに関しては「みんなで歌える」ということが重要ですね。というのも、もともとシンとオラリーはシンガーではないので、いわゆるテクニカルな歌い回しとか出来ないわけですよ。となると、この二人が歌えるかどうかはとても重要な目安になるんです。みんなが一緒に歌って感情移入できるか否かの判断をそこでしてもらうというか。

 そこは曲を作る上での「制限」でもあるし、裏を返せばそれが片想いの可能性でもある。いい曲でありながら、一見キャッチーなメロディにするのは、工夫しがいのあるところですね。

ーー曲作りの手順で主に多いのは?

sirafu:最近は僕がトラックを作って、それをみんなに渡してそれぞれの解釈で演奏してもらうことが多いです。まあ、その通りには全然演奏してくれないですけどね(笑)。

片岡:伴瀬(朝彦)とかは真面目だから、結構ちゃんとコピーしてくるけどね(笑)。

sirafu:彼は耳が良すぎるんだよ、天才だから。最近はデモでベースをどう弾いているのかが伴瀬に伝わらないように、小さめにしてミックスしてるもん(笑)。

ーー(笑)。トラック作りの時など、どんな音楽にインスパイアされますか?

sirafu:自分たちの音楽性からかけ離れたジャンルをよく聴いて、そこから持ってくることが多いですね。例えば「このカーティス・メイフィールドっぽいフレーズを、沖縄民謡に寄せてみよう」とか(笑)。あと、全員がコーラスをやるというのは、僕の中ではPファンクからの影響です。あの「雑多感」は最初相当意識しましたね。

片岡:当時はArrested Developmentにも触発されたよね。僕の場合、そこから元ネタをたどってスライ・ストーンにたどり着いたんです。

sirafu:スライはサンプルネタでよく使用していましたからね。そこからファンクを掘っていくようになったので、アレステッドからの影響はすごくあるかも知れない。

ーーアルバムの先行リリース曲「2019年のサヨナラ(リリーへ)」や「環境」は、他の楽曲に比べるとメッセージ性の強い歌詞が印象的です。

sirafu:いや、メッセージはないですね(笑)。

片岡:僕ら、「人々にこうあってほしい」みたいなメッセージって本当にないんですよ。例えば「2019年のサヨナラ(リリーへ)」は、人によってラブソングだと思って聴いてくれてもいいですし、卒業の歌だと解釈してもらっても「バレンタインがテーマ」だと思ってもらっても何でもいいんですよね(笑)。楽曲というのは、どんなに苦労して作ったとしても、自分の手を離れた瞬間から「どんなふうに解釈してもらっても構わない」と思っているんです。

sirafu:歌詞については、どの曲も普遍的なものにしたくて。いつの時代にもハマるアンセムになれるようにする……というか、お客さんが聞いたときに、自分の想像力を投影できる余地のある歌詞を目指したいんですよね。例えばジョン・レノンの「イマジン」も単なるメッセージソングではなく、いつの時代に引っ張り出してきても、アンセムたり得ているのは「普遍性」を持っているからだと思いますし。

ーーなるほど。とはいえ「2019年」や「環境」というワードは意味深というか、つい深読みしたくはなりますね(笑)。

sirafu:でもね、「2019年のサヨナラ(リリーへ)」は当初「2017年のサヨナラ」というタイトルだったんですよ(笑)。でも、ドラマにも使われたし「それだと意味わかんねえな」と思ったので変えたんです。

僕、割と曲名から考えることが多いんですよね。「そういえば“環境”なんてタイトルの曲はないな」みたいな感じで。観念的な言葉なので、ちょっと無機質な感じがするじゃないですか。そうすると、人によっていろんな解釈ができるんじゃないかなと思ったんですよね。

ーー「反復を恐れるな」も、様々な解釈が成り立つ歌詞ですよね。

片岡:あの曲に関しては、銭湯で年間340日くらい働いている自分自身にも重ねてしまいますね(笑)。反復する日常に対して「うわー!」ってなるときもあるんですけど、“反復を恐れないのさ”というラインに救われる。「俺だけじゃないよな、みんな反復する日常を送ってるんだな」って。どんな仕事をしていても、自分のその生活パターンに嫌気がさす瞬間ってあると思うし。

sirafu:逆に、僕のような「自由業」からしてみると、反復って大切なことだなとも思うんですよね。ある時期まで勤め人も経験していたので、サラリーマンを辞めてフリーになり、「反復する日常」が無くなって初めて「自分はルーティンにいかに救われていたか?」に気づく。よく会社の悪口とか言ってるやついるけど、ちゃんと社会保障もしてもらい、決まった日にちゃんとお金が入ってくるなんて、どんだけ恵まれてるんだ? と思う(笑)。ループの中に入っていられることで、マジで救われているんですよ。(自由だと)狂うやつは本当に狂っちゃいますからね。

ーー僕もフリーなのでよくわかります(笑)。

sirafu:もちろん、ルーティンがキツイのも分かっているけど、それで人の生活が支えられている部分もあるんだなって。そのルーティンの中で家族ができて、子供が生まれているわけですからね。……なんて、今言ってることは歌詞ができてからの後付けがほとんどです。

片岡:(笑)。でも、書いているときにはよく分からなくて、後から「そうか、これはこういうことだったんだ」「こういうことが歌いたかったんだな」と思うことはよくありますね。多分、最初はループミュージックの「反復」からひらめいたタイトルだと思うんですけど、「反復といえば日常も反復しているな」みたいに、どんどん繋がっていくというか。

ーーサウンド的には「Cryptic」が、最もサイケデリックでとても印象的です。個人的にもすごく好きな曲で。

sirafu:やった!(笑)。これはオラリーが妊娠中に作った曲なんですよ。待望の赤ちゃんがお腹に宿り、慈愛に満ちた優しい楽曲が送られてくるのかと思ったら、あんな頭のおかしい曲がデモで送られてきたからびっくりしました。

オラリー:(笑)。あの曲は最初、シラちゃん(sirafu)から「作ってみない?」って連絡が来て。私はThe Residentsというバンドがすごく好きなので、ああいう感じをちょっと意識しながら作ってみましたね。今まで作曲はほぼやったことなかったんですけど、とりあえずパソコンの中に入っているソフトを、YouTubeに上がっている操作法など参考にしながら見よう見まねで動かして(笑)。出来上がったデモを、シラちゃんに送ったら「最高」って言ってくれました(笑)。そういう、懐の大きいところが片想いだなって(笑)。そのあと歌詞を考えたり、アレンジを詰めたりする作業はみんなで集まってやりましたね。

sirafu:デモの段階でほぼ出来上がっていたんですけど、それを僕が7分くらいに引き伸ばしました。後半のゴチャゴチャした部分には、友人宅で行った「リズムボックス・セッション」を混ぜてます(笑)。

ーー「リズムボックス・セッション」というのは?

sirafu:僕がリズムボックスをリアルタイムで操作し、それに合わせて友人がエフェクトをかけていくっていう。その友人はレコードのダイレクトカッティング・マシーンを持っていたので、それを使っていくつかのトラックを一度、アナログレコードに落としてからもう一度サンプリングして取り込んだりもしていますね(笑)。

で、そうやって作った曲のデータを、ミックスエンジニアのツボイさん(illicit tsuboi)さんにパラで渡してミックスしてもらっているんです。アルバムの中で、最も手の込んだ楽曲になりました(笑)。

ーーシンセベースの音色とか、ceroの「Buzzle Bee Ride」に通じるものがあったんですけど……。

オラリー:ほんとですか? 夫婦だからかな(笑)。基本的に、お互いの音楽活動に関しては一切干渉し合わないのですが、今回は初めて曲を作ったということもあって、メンバーに送る前に「これ大丈夫かな」と言って聞いてもらってはいますけどね。その時に(夫の髙城晶平から)「お、いいじゃん!」とは言ってもらいましたが、音色などの細かいアドバイスとかは特にもらってないです(笑)。

ーー「ひのとり(フィードバック吋編)」は、2017年にリリースした楽曲を再録したものですね。この曲はメロディもサウンドも、とてもインパクトがあります。

sirafu:僕はあの曲が一番好きですね。まずバンドでレコーディングして、それをツボイさんに「素材」として渡して好きなようにミックスしてもらったんです。

片岡:ところどころで聞こえる鳥の鳴き声は、ツボイさんのところにあるサンプリング素材。ありったけの鳥を鳥籠から解き放って(笑)。当初は、楽曲が聞こえないくらい囀りまくってたみたいで。

sirafu:こういうのをずっとやりたいと思っていました。レコーディングにおけるツボイさんの比重はすごく大きくて。9番目のメンバーくらいに思ってますね。ただ、他のエンジニアだったら喧嘩になっていたかもしれない(笑)。ミックスの段階で知らない音が入っていたり、コード進行が変わっていたりしますからね。それはもう、ツボイさんと僕らの信頼関係が成り立っているからこその「コラボ」というか。

ーー最初にも触れましたが、それぞれソロ活動を行うなどバンドに対するスタンスもまちまちなのに、ずっと続けてこられたのはなぜだと思いますか?

片岡:メンバーそれぞれがインディペンデントな存在で。僕も「風呂屋のおっさん」としての人生を生きている。だから、バンドがなければ会わない8人なんですよね。決して「仲良しバンド」ではない。それぞれ大人だし家族や生活もありますからね。それが、どういう理由か分からないけど、この8人でいることが馴染んでいて。それぞれのグラデーションが「片想いらしさ」になっているのかもしれないですね。

オラリー:私はもう、自分でいっぱいいっぱいだし、そんな中で私のペースに合わせてもらいながら、バンドを続けさせてもらえてラッキーだなって。

片岡:決して「仲良しバンド」ではないけど、お互いの生活を尊重しているというのがあるのかもしれないですね。

sirafu:語弊があるかもしれないけど、メンバー全員にとって片想いは「人生におけるメインのバンド」では決してないんですよね。「このバンドに人生を賭ける!」というのでは全くないからこそ、続いているというのはあるかも知れないですね。

ーー誰一人「我慢」とか「無理」をしていないというのも、長続きのコツなのかも知れないですね。それは、バンド活動以外のことにも当てはまりそうです。

片岡:僕は無理してますけどね、地方のフェスに出たその夜には番頭に立ってますから。

(一同笑)

(取材・文=黒田隆憲/写真=はぎひさこ)

■リリース情報
『LIV TOWER』
発売:2019年9月4日(水)
価格:¥2,800(税抜)
【収録曲】
01. Dig Power
02. Boo!Doo! Night
03. (ToT)
04. ひのとり(フィードバック吋編)
05. お~い!生きてるぞ~!
06. Cryptic
07. 反復を恐れるな!
08. 環境
09. 来るブルー
10. 2019年のサヨナラ(リリーへ)
(ドラマ「面白南極料理人」EDテーマ)

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