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次世代型ギャル 安斉かれん、謎多きソロシンガーはJ-POPを切り開くニューアイコンとなるか?

リアルサウンド

19/10/3(木) 18:00

 2010年代というのは、いろいろな邦楽が再定義された時代だったかのように思う。ceroやSuchmos(「STAY TUNE」ヒットの意として)が打ち出したシティポップ、あいみょんが再熱させたフォークソング。そして、King GnuやOfficial髭男dismが更新している、J-POP。2020年代のメインストリームを作るであろう人物たちが、2010年代後半から続々と姿を現し始めた。

 そんな中、「登場はまだか」と切望されているポジションがひとつある。それは“時代のアイコンになりうるソロシンガー”だ。歌に共感でき、生きざまに感化され、ファッションだって真似したくなってしまう。浜崎あゆみや安室奈美恵に続く存在を、時代は渇望しているのではないだろうか。では、誰が“時代のアイコン”になりうるのか。その可能性のひとつとして、次世代型ギャルである安斉かれんをぜひ推したい。

 安斉かれんは、神奈川県藤沢市出身の20歳。ポストミレニアル世代(1990年代後半から2010年の間に生まれた世代、またの名を“Z世代”)の次世代型ギャル(=ポスギャル)のひとりだ。その出で立ちは、金髪にカラコン、つけまつげ、古着と渋谷を闊歩する強めなギャルとなんら変わりがない。だが、出回っているビジュアルが全て真顔で、公開されているMVに限らず、インタビューの間に挟まれている写真やInstagramの投稿さえも全部真顔。整った顔立ちに抜群のスタイル、画一化された表情は、バーチャルインフルエンサーのimmaや葵プリズムを彷彿させ、「安斉かれんは実在しないのではないか」という憶測がネットで飛び交ったほどだ。

 アーティストとしては、令和元日の5月1日に「世界の全て敵に感じて孤独さえ愛していた」でデビュー。ポスギャルな見た目から推測するにEDMチューンなどを歌いこなしていてもおかしくないが、彼女が歌うのは90年代リバイバルを感じさせるJ-POPだ。キラキラしたシンセにドラマティックなメロディラインは、歌姫が時代を席巻していた頃のヒットチャートを想起させる。ミレニアル世代以前には懐かしく、ポストミレニアル世代以降には新しい。浜崎あゆみや安室奈美恵が開拓したジャンルに、リバイバル世代としてつっこんでいく腹の座ったニューアイコンこそ安斉かれんなのだ。

 大手の新人アーティストだと“最強の布陣でメジャーデビュー”というのが定説のようになっているが、彼女はデビュー曲から自分で作詞を手掛けている。その世界観は、ポストミレニアル世代の思考を反映した極めてリアルなものだ。「世界の全て敵に感じて孤独さえ愛していた」においては、空気を読むことと自分らしく生きることの狭間で揺れ動く繊細な感情が描かれている。〈人の評価に怯え 自分を隠して、やって来たけど〉というリリックは本音を飲みこんだ経験がある人にはチクリと刺さるものだし、〈何を言われても 何が起こっても 周りに 合わせて 生きたくない〉という歌詞は“自分らしく生きていきたい”という強い思いが反映されているように受け取れる。

安斉かれん / 世界の全て敵に感じて孤独さえ愛していた(Music Video)

 彼女の生々しい感性は、新曲の「人生は戦場だ」においても健在だ。〈自分らしくとは何? 模範解答はない〉は、“何者かにならないといけない”という呪縛にかかっている若者の感覚を表しているし、〈夢見がちの僕は 馬鹿にされるのも知っていた〉は実現可能な夢を持つことがよしとされている現代の風潮を歌っているようにも聞こえる。現実をしっかりと見つめる目を持ち言語化する感性こそ、安斉かれんの作詞の強みではないだろうか。

 また、「世界の全て敵に感じて孤独さえ愛していた」「誰かの来世の夢でもいい」「人生は戦場だ」は3部作になっており、MVのストーリーも繋がる構成だ。舞台は未来の渋谷、高度なARが実現した近未来の『Immersive Society 3.0』である。荒廃と発展が共存しているサイバーパンクな映像は、世界的なテクノロジー企業とタッグを組み作り出されたもの。空想世界でバーチャルな存在と共に生きる、安斉かれんの姿が無機質に描かれている。以前であればフィクションの世界として捉えていたシチュエーションも、ここまでリアルに再現されてしまうと近い未来を見ているよう。ストーリーの前後関係が明記されておらず、作品を行ったり来たりすることで物語の考察が深まる作りになっている。映像と歌詞のリンクや、登場人物をキーにしてMVを読みといていくのも楽しそうだ。

安斉かれん / 「人生は戦場だ」(Non-Music-Video)

 ポスギャルでありながら、生々しい感覚を持ちJ-POPを歌う安斉かれん。多くの謎を抱えつつも、ニューアイコンの片鱗を見せている彼女がどんな飛躍を見せてくれるのか。今後も目が離せない。

■坂井彩花
ライター/キュレーター。1991年生まれ。ライブハウス、楽器屋販売員を経験の後、2017年にフリーランスとして独立。Rolling Stone Japan Web、EMTGマガジン、ferrerなどで執筆。Twitter

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