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9回目の「MPAD」開催、食事と朗読で時間と空間を堪能する

ナタリー

19/11/21(木) 13:19

このしたやみ「洗濯機の悲劇」より。(c)松原豊

「MPAD2019」が昨日11月20日に開幕した。

「MPAD」は、2011年にスタートし、今年で9回目となるプロジェクト。三重県内の飲食店・寺院を会場に、おいしい料理と小説のリーディングが楽しめる人気企画だ。今年の「MPAD」のオープニングを飾ったのは、8回目の参加となるこのしたやみ。一身田駅前にある人気店・喫茶tayu-tauにて、ポーランドのSF作家スタニスワフ・レムの「洗濯機の悲劇」を披露した。

古民家をリノベーションした喫茶tayu-tauには、古い本や雑誌、手作り感あふれる器や雑貨、くすんだ色のリネンやドライフラワーがセンスよく飾られていた。部屋の中央には薪ストーブ。その自然な温かさが、店内をじんわりと和やかな空気で包んでいる。20日のメニューは、ハンバーグ 和風ソースと秋のサラダ仕立て、そしてパウンドケーキとルイボスティーのセット。サラダは、そのまま生のものもあれば、素材によって“煮る、焼く、茹でる”と異なる調理法が施されていて、まさに“見て、噛んで、味わって”楽しめる一皿となっている。メインのハンバーグは、大根おろしでさっぱりした味わい。大きめに切った玉ねぎが、一口ごとに食感に変化を与えた。

1時間ほど食事を楽しんだのち、観客は店の敷地内にある蔵へと移動。蔵の奥には少し高さのあるステージが仮設され、真っ白な衣装を着た二口大学と広田ゆうみがにこやかに観客を迎え入れた。が、リーディングが始まると様子は一転。洗濯機開発を巡って競い合う2社の対立を、2人はあるときは緊迫した様子で、またあるときはコミカルに、緩急をつけながら一気に語っていく。やがて物語は、テクノロジーの進化によって洗濯という本来の機能を忘れた、“人間を超える存在としての洗濯機”の話になり……。観客はスピーディな展開に置いていかれまいと、35分間じっと物語に耳を傾け、舞台に目を集中させていた。

「MPAD」は、特定非営利活動法人パフォーミングアーツネットワークみえと、三重県文化会館が主催を務めている。「MPAD」の立ち上げについて、三重県文化会館副館長の松浦茂之は「もともとは、(三重県文化会館の)パートナーである津あけぼの座の油田(晃)さんが仙台の視察に行って、杜の都演劇祭のことを教えてもらったことが発端なんです。その話を聞いて、『街中のカフェやレストランで料理と演劇を楽しめるなんて、かなりいい企画だな』『それを三重流にアレンジしてみてはどうかな』と直感的に思って。で、その2日後には企画書ができていました(笑)」と振り返る。

その直感は的中し、2011年は三重近隣の4団体が参加したところ、2015年には9団体と徐々に規模を拡大していき、近年は三重県内外の6団体程度が参加することで定着してきた。観客の内訳としては、「年々地元の人が増えていますね」と松浦。「中には『全プログラム観る!』って言う方や、『MPADが自分へのご褒美』なんておっしゃる方もいる。お客さんに待たれてるな、って思います」と手応えを述べた。

参加団体は、津あけぼの座や三重県文化会館とつながりのある団体を中心にプロデューサーの油田が選定しており、今年は宮崎のこふく劇場がMPAD初参加。さらに油田は、団体の意向を聞きながら演目を決めたり、上演会場となる店を探したりする役も担当しており、まさにMPADの軸となっている。

MPAD以外にも三重県文化会館では、全国で注目されつつある若手を紹介するMゲキシリーズや、菅原直樹の3カ年プロジェクト・老いのプレーパーク、3カ年で長編創作を目指す “演劇の作り方講座”ミエ・演劇ラボなど、演劇との出会いをさまざまな切り口で創出している。「三重県文化総合センター(三重県文化会館を含む、男女共同参画センター、三重県立図書館、放送大学三重学習センターから構成される複合施設)の昨年の来館者数が、過去24年の中で最高だったんです。文字通り、賑わいを作る場所になってきたと思いますし、賑わいという点では、劇場の成功モデルの1つだと思います」と松浦は自信をのぞかせる。

そして来年、MPADは10回目を迎える。「通常通りやる予定です」とのことだが、10年の間にはさまざまな出来事があったのではないか。「もちろん継続するには大変なことも多くて、杜の都演劇祭は現在ストップしてしまっていますし、ほかにも数回で終わってしまったプロジェクトはたくさん知っています。でも今のところ僕らは楽しんでやれているし、場所と時間は本当に重要で、劇場ではない場所で毎回本当に面白いものが観られるのって、人間の体験として大事だなと思います」と松浦は笑顔で語った。

「MPAD」ではこのあと、本日11月21日にうなぎ料理 はし家にてうさぎ庵「りく-忠臣蔵異聞」、22日に塔世山 四天王寺にてこふく劇場「大根の月」、27日に割烹旅館八千代にて林英世「鮒」、28日に中津軒にて坂口修一「盗まれた手紙」、29日にCotti 菜にて百景社「土神と狐」が上演される。店舗公演のチケットは完売しているが、三重・四天王寺スクエアで開催される「まとめ見」公演は販売中。11月23日の「まとめ見1」にはこのしたやみ、うさぎ庵、こふく劇場が、11月30日の「まとめ見2」には林英世、坂口修一、百景社が出演する。

「MPAD2019」

このしたやみ「洗濯機の悲劇」

2019年11月20日(水)※公演終了。
三重県 喫茶 tayu-tau

作:スタニスワフ・レム
演出:山口浩章
出演:広田ゆうみ、二口大学

うさぎ庵「りく-忠臣蔵異聞」

2019年11月21日(木)
三重県 うなぎ料理 はし家

作・演出:工藤千夏
講談台本・監修:旭堂南陵
出演:天明留理子(旭堂南明)

こふく劇場「大根の月」

2019年11月22日(金)
三重県 塔世山 四天王寺

作:向田邦子
演出:永山智行
出演:あべゆう、浜砂なぎさ(チェロ演奏)

まとめ見1

2019年11月23日(土・祝)
三重県 四天王寺スクエア

出演団体:このしたやみ、うさぎ庵、こふく劇場

林英世「鮒」

2019年11月27日(水)
三重県 割烹旅館八千代

作:向田邦子
演出・出演:林英世

坂口修一「盗まれた手紙」

2019年11月28日(木)
三重県 中津軒

作:エドガー・アラン・ポー
演出:土橋淳志
出演:坂口修一

百景社「土神と狐」

2019年11月29日(金)
三重県 Cotti 菜

作:宮澤賢治
演出:志賀亮史
出演:鬼頭愛、国末武、星善之

まとめ見2

2019年11月30日(土)
三重県 四天王寺スクエア

出演団体:林英世、坂口修一、百景社

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