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中川右介のきのうのエンタメ、あしたの古典

物語の「終わり」を決めるのは誰か? 未完のストーリーで公開された『スター・ウォーズ 帝国の逆襲』、『機動戦士ガンダム』

毎月連載

第5回

18/11/12(月)

『スター・ウォーズ エピソードV/帝国の逆襲』〔数量限定生産〕 販売元:20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン TM & (C)2017 Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved. Used Under Authorization. Star Wars and all characters, names and related indicia are trademarks of and (C)Lucasfilm Ltd. TWENTIETH CENTURY FOX, FOX and associated logos are trademarks of Twentieth Century Fox Film Corporation and its related entities.

 日本において、紙の上に描かれるフィクションである「小説」と「マンガ」との最大の違いは何かというと、誰が「終わり」を決めるかにある。

 小説は作者の意志によって物語は終わる。書き下ろしはもちろん、雑誌や新聞での連載の場合でも作者が「終わり」を決める。連載していた雑誌や新聞が休刊になってしまい、未完に終わることはあるが、「人気がないので次号で終わりです」と編集部から言われることは、ありえない。

 マンガはどうだろう。雑誌に連載されるのが大半だが、人気がないと、作者としてはまだ物語が完結していないのに、無理矢理に終わらされる。最近はどうかよく知らないが、1960・70年代は、これからってところで、「第一部 完」となって、そのまま永遠に第二部が始まらないマンガがけっこうあった。
 その逆に、人気があると、作者としてはもう終わらせたいのに、延々と連載が続くこともある。

 テレビアニメになると、視聴率が低いと打ち切られるだけでなく、スポンサーが作るキャラクター商品の売り上げが低下すると、視聴率は高くても打ち切りになる。もはや作家性も何もない。

 映画の場合も、ヒットしたら続編、さらにヒットしたらシリーズ化という例は多い。だが、たとえ何作ものシリーズになったとしても、一応は1作ごとに物語は完結するものだった。その常識を覆して、物語の途中で終わらせたのが『スター・ウォーズ 帝国の逆襲』(1980)だ。『スター・ウォーズ』(1977)が大ヒットしたので、シリーズ化が決まり、第2作として作られた。 

 『スター・ウォーズ』はヒットするかどうか分からないで作られたので、帝国のデス・スターが壊されて、めでたしめでたしで終わる。続編がなくても、文句は言わない。

 だが、『…帝国の逆襲』は、最初から「3部作の第2作」として作られたので、物語が終わらない。『…帝国の逆襲』がヒットしなかったら、『…ジェダイの帰還』(1983)は作られなかったのだろうか。絶対にヒットするという自信がなければ、こんな大胆なことはできない。そして、ルーカスは見事に成功した。

 同時期の『エイリアン』や『スター・トレック』も『インディ・ジョーンズ』も、1作ごとに完結するのに、『スター・ウォーズ』は3部作単位で完結することになった。

 以後も、多くのシリーズが作られるが、最初から全何部と決めて、未完のストーリーで順次公開していく例は、そんなにはない。

『機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙編』
DVD発売中
(C)創通・サンライズ

 日本では、劇場版『機動戦士ガンダム』が未完のストーリーで公開された最初ではないだろうか。

 1979年から80年にかけてテレビで放映されたアニメの劇場版である。30分番組で42回、放映され、81年に劇場版として公開された。結果的に3部作となるが、最初のは「第1部」とか「1」という表示はない。

 前例となっているのは『宇宙戦艦ヤマト』だ。1974年にテレビ放映されたアニメの総集編が77年に公開されると大ヒットした。

 そこで『ガンダム』もとなったが、『ヤマト』は26回分を2時間にしたのに対し、『ガンダム』は42回分のフイルムがあるので、とても2時間にはできない。だが、富野由悠季は配給元の松竹には黙って、14回分だけを再編集して作ってしまった。松竹の担当者がそれを知るのは完成試写会の場で、「これは終わっていませんよね」と確認し、富野は平然と「終わっていない」と答えたという。しかし、いまさら作り直す時間はなく、そのまま公開、ヒットしたので、続編制作が決まった。

 続く『機動戦士ガンダムII 哀・戦士編』(1981)はテレビ版の31話までで、これもヒットしたので、『機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙編』(1982)も作られ、ようやく完結した。

 皮肉にも、テレビ版は1年間52話の予定が、視聴率とスポンサーの玩具メーカーの作る玩具の売り上げ不振で42回で打ち切られたが、劇場版はヒットしたので3部作となったのだ。以後、『ガンダム』は数多くの派生作品を生んでいった。

 『ヤマト』もそうだが、たとえば視聴率は5%と低かったとしても、単純計算で1億人に対しての5%であれば500万人だ。本だったら500万部は大ベストセラーだし、映画興行にしても500万人を動員できたら大ヒットだ。視聴率の数字を正しく読み取れば、劇場版にできた作品は、無数にあったのではないだろうか。

 このように、ビジネスとしての規模が大きくなればなるほど、個人の作家の思いなど、無視されてしまう。これを突破するには、『スター・ウォーズ』のジョージ・ルーカスのようにすべての権利を個人で握るしかない。

 だがルーカスが全権を掌握できたのは、『スター・ウォーズ』が大ヒットしたからこそで、最初から億万長者でもなければ、ひとりで全権を握って映画を作ることはできない。そのルーカスにしても、『スター・ウォーズ』の権利を売ってしまい、彼の手を離れると『スター・ウォーズ』も量産体制に入った。映画は、もともと共同で制作するものだから絶対的なひとりの造物主がいなくなれば、どうにでも展開できる。

 こう考えると、小説家に物語を終わらせる全権があるのは、作家性が尊重されている云々もさることながら、ビジネスとしての規模が小さいからだろう。小説もヒットして、シリーズ化していくと、作者としては終わらせたいのに出版社が続けたがり、延々と続くことになるのだから。

 なかには作者の死後、別の作家によって書き継がれていくものもある。よほど強い意志がないと、物語は終わらない。

作品紹介

『スター・ウォーズ エピソードV/帝国の逆襲』(1980年)

監督:アーヴィン・カーシュナー
製作総指揮・原案:ジョージ・ルーカス
出演:マーク・ハミル/ハリソン・フォード

『機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙編』(1982年)

総監督:富野喜幸(現:富野由悠季)
声優:古谷徹/鈴置洋孝/古川登志夫

プロフィール

中川右介(なかがわ・ゆうすけ)

1960年東京生まれ。早稲田大学第二文学部卒業後、出版社アルファベータを創立。クラシック、映画、文学者の評伝を出版。現在は文筆業。映画、歌舞伎、ポップスに関する著書多数。近著に『海老蔵を見る、歌舞伎を見る』(毎日新聞出版)、『世界を動かした「偽書」の歴史』(ベストセラーズ)、『松竹と東宝 興行をビジネスにした男たち』(光文社)、『1968年』 (朝日新聞出版)、『サブカル勃興史 すべては1970年代に始まった』(KADOKAWA)など。

『サブカル勃興史 すべては1970年代に始まった』
発売日:2018年11月10日
著者:中川右介
KADOKAWA刊

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