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「幻の作品」が再起動する。今に寄り添う“触れ合わない“ラブストーリー、『アーリントン〔ラブ・ストーリー〕』白井晃×南沢奈央インタビュー

ぴあ

20/12/28(月) 7:00

南沢奈央と白井晃 撮影:源賀津己

『アーリントン〔ラブ・ストーリー〕』が1月16日(土)からKAAT神奈川芸術劇場にて開幕する。2020年4月、開幕直前に公演中止となった作品。KAAT芸術監督でもあり、今作の演出を務める白井晃の尽力で、中止から9か月という異例の早さでの上演が決定した。白井と、主演の南沢奈央に話を聞いた。

時間を置いたことで、作品を俯瞰して見られた

「稽古中も途中から時間を短縮したりしていて、少しずつ不穏な空気が忍び寄っていたんです。それでも初日が延期になったときにはまだ『上演できる』という希望があったので頑張っていられたのですが、中止が決まった瞬間に心が折れたのか、体調を崩してしまって。表現をする場がなくなってしまうのはこんなにもつらいんだ、と思いました」(南沢)

「通し稽古も終えて、明日にも舞台での稽古をスタートするという段階で緊急事態宣言が出て延期になり、さらに中止が決定しました。でもこの難しい作品を南沢(奈央)くんや平埜(生成)くん、入手(杏奈)くんと力を合わせて作ってきた、スタートラインまできていたものがここで終わることはどうしてもできないと思いました。それだけの思いで1月の上演にこぎつけました」(白井)

「こんなにも早く、もう一度やると決断してくださって、生きる気力が湧いてきました」(南沢)

『アーリントン〔ラブ・ストーリー〕』は、2018年に上演された『バリーターク』で注目を集めたエンダ・ウォルシュによる戯曲。『バリーターク』で彼の作品の魅力にはまったという白井が再び挑む今作では、どこかに閉じ込められている若い女・アイーラと、それを監視する若い男が直接顔を合わせないまま会話を交わし合う。

「本人は明言していませんが、彼にこれを書かせた背景は、たとえばヨーロッパに入ってきた難民たちがひとつところに集められて出ることもできないような状況だとか、社会の格差、紛争から生まれた弱者の有りよう……。そのようなことがあったと思うんです。それが、コロナ禍以降僕らが置かれた状況に酷似してしまった。感染を予防するために自分たちで決めたガイドラインによって圧力をかけあい、規制しあっている。人々が管理しあっている。それは、まさにアイーラがカメラでずっと監視されている状況と変わらないと思うんです。よくぞこんな凄い作品を書いたな、と思います」(白井)

「私は閉じ込められている設定なので、声だけを聞いてやりとりしていかなくてはいけない。稽古を通じて、ふだんどれだけ直接顔を合わせることで影響し合っていたのかを実感しました。登場人物も少ないし、一見静かな戯曲に見えますが、白井さんも翻訳の小宮山(智津子)さんもこれはエネルギッシュな作品だとおっしゃっていて。稽古を重ねていくうちにその感覚がわかってきたんですが、広い空間に自分ひとりでエネルギーを出していくのは大変で、それだけにすごく面白い作品だと思います」(南沢)

「直接会うことのない、声だけで心を通わす男女の物語に〔ラブ・ストーリー〕というタイトルがついているのが切ないよね。いちど時間を置いたぶん、今はいい意味でこの作品を俯瞰して見られている気がします」(白井)

今の状況で観てもらうことで響くものがある

白井が語るように、「直接会うこともできず、離れた場所から声だけで交流する」という今作の設定は、コロナによって切り離された人々と重なる。

「以前稽古していたときは物語の中でしかありえなかったできごとが、とても現実的になってしまった。むしろ、今この時期にやるべきものとしてチャンスを与えられたんじゃないかなと思えるようになりました」(白井)

「自粛期間中、『アーリントン』のセリフをことあるごとに思い出しては『これはまさにいまの私の気持ちだ!』と思っていました。良くも悪くも『この戯曲はそういうことだったのか』と改めて捉え直す感覚がありました。今の状況の中で観ていただくことで、お客様にも響くものがあるんじゃないかなと思います」(南沢)

一度は「幻の作品」になりかけた『アーリントン〔ラブ・ストーリー〕』が、驚くほどいまの世の中に寄り添った作品として再起動する。

「つい先日、自粛明け初の舞台(『ハルシオン・デイズ2020』)に立ちましたが、今までに味わったことのない気持ちでした。お客様の前に立って、直接演じられるこの舞台という場所は絶対になくなってはいけないと思っています。思い入れのある『アーリントン』が再びお客様に届けられるチャンスを得られたのは本当に幸せです」(南沢)

「とにかく、劇場を開き続けること、演劇を上演し続けることのために戦った1年でした。表現衝動は人間が生きている限り止められないと思うので、今できることを精一杯やって前に進んでいきたいと思います」(白井)

今作は白井にとって、KAAT神奈川芸術劇場の芸術監督として演出を手がける最後の作品となる。最後に、2021年4月に芸術監督のバトンを渡すこととなる長塚圭史へのメッセージを語ってもらった。

「まさかこんな事態でのバトンタッチになるとは思っていませんでした。僕自身、もっとKAATに文化的な財産を蓄積し、それを渡していかようにも変容させてほしかった。もう少し華々しく迎えられたらよかったんですが……。けれど、長塚くんはきっと彼なりの展望をもって、新しい公共劇場のあり方、新しいKAAT像を作ってくださると思っています」



取材・文:釣木文恵 撮影:源賀津己



『アーリントン』〔ラブ・ストーリー〕
作:エンダ・ウォルシュ
翻訳:小宮山智津子
演出:白井晃
出演:南沢奈央 / 平埜生成 / 入手杏奈
声の出演:川平慈英 / 霧矢大夢 / 那須佐代子 / 伊達暁

2021年1月16日(土)~2021年1月31日(日)
会場:KAAT神奈川芸術劇場<大スタジオ>

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