Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

ジェシカ・プラット、シャロン・ヴァン・エッテン……インディシーンの注目SSW新作5選

リアルサウンド

19/2/10(日) 12:00

 今回はインディシーンで注目を集めるシンガーソングライターの作品を紹介。ギターの弾き語り、バンド、多重録音など、それぞれがのスタイルで個性的な歌を聴かせてくれる。

ジェシカ・プラット『Quiet Signs』

 まずは、<ドラッグ・シティ>からデビューしたサンフランシスコ出身のシンガーソングライター、ジェシカ・プラット。前作から4年振りの新作『Quiet Signs』が届けられた。前作『On Your Own Love Again』は、母親の死や長年付き合っていた恋人との訣別など、様々な別れの影響下で生まれた作品だったが、その後、ジェシカはマルチプレイヤーのマシュー・マクダーモットと恋に落ちて一緒に音楽を作るようになった。とはいえ、アコースティックギターの弾き語りを中心にした歌は、これまでと同じように孤高。ミニマルなコード進行から、ゆらゆらとメロディが浮かび上がり、ジェシカの鼻にかかった歌声は、ニコの魂を持ったブロッサム・ディアリーのようだ。マクダーモットとのコラボレートが功を奏して、歌に奥行きと色合いがほんのり増しているのが本作の魅力で、時折聞こえてくるピアノやフルートはマクダーモットの演奏だろう。このリリースをきっかけに、ぜひ来日して生の歌声を聴かせてほしい。

シャロン・ヴァン・エッテン『Remind Me Tomorrow』

 フルアルバムとしては5年ぶりの新作。その間、彼女は母になり、女優としてデビュー。さらに心理学を学ぶため大学に入学するなど人生の転換期を迎えていた。ジャケットに写し出された散らかった部屋と幼子は、そんな彼女の激動の5年間を現しているようだ。今回、彼女がプロデューサーに迎えたのは、セイント・ヴィンセントやジョン・グラントを手掛けたジョン・コングルトン。ゲストには、ステラ・モズガワ(Warpaint)、ジョーイ・ワロンカー(Atoms For Peace)、ジェイミー・スチュアート(Xiu Xiu)、ラーシュ・ホーントヴェット(Jaga Jazzist)、ブライアン・レイツェルといった多彩なメンツが参加している。サウンド面ではコングルトン効果が現れていて、人工的でエッジが立った音作りは彼女にとって新境地。舞台装置を用意するように、曲ごとに意匠を凝らしたトラックが用意されている。セイント・ヴィンセントとイメージが重なる瞬間もあるが、クールビューテイなセイント・ヴィンセントに比べるとシャロンの歌声は生々しくてエモーショナル。ミュージシャンとして、そして、ひとりの女性としての充実ぶりが伝わる気迫に満ちたアルバムだ。

シャロン・ヴァン・エッテン『Remind Me Tomorrow』

キャス・マコームス『Tip of the Sphere』

 作品を出すごとに評価を高め、<ドミノ>から<アンタイ>に移籍して制作された前作『Mangy Love』(2016年)がピッチフォークのベストミュージックに選出。ミューヨークタイムスに絶賛のレビューが掲載されるなど、今やUSインディーシーンを代表するシンガーソングライターとなったキャス・マコームス。新作『Tip of The Sphere』は、ルー・リードやマーク・リボーなどとの共演で知られるマルチプレイヤー、シャザード・イズマイリーが運営するブルックリンのスタジオ、フィギュア8でレコーディングされた。前作以降、マコームスはGrateful Deadのトリビュートアルバム『Day of the Dead』に参加したが、マコームスは60〜70年代のアメリカンロックの遺伝子を受け継ぎながら、そこにオルタナティブな実験性を織り交ぜている。今回も、ロック、ジャズ、ラテンなど様々な要素を散りばめながら、繰り返されるビートやギターのリフから生み出される浮遊感や、物憂げな歌声が生み出す官能的でサイケデリックな空気は中毒性が高い。個人的にはファーザー・ジョン・ミスティと双璧のグラマラスなUSインディー吟遊詩人として愛聴しているが、本作でも遺憾なく、その香しい魅力を放っている。

Cass McCombs – “Absentee”

ジュリアン・リンチ『Rat’s Spit』

 音楽民族学と人類学を研究する宅録シンガーソングライター、ジュリアン・リンチが、5年振りのソロアルバム『Rat’s Spit』を完成させた。前作から時間が経った理由のひとつは、2016年からリードギターとして加入したReal Estateでの活動だろう。しかし、同時にバンド経験は刺激にもなったはず。本作の制作にあたっては、ロバート・フリップ、スティーヴ・ヴァイ、ヘンリー・カイザーなど、非凡なテクニックに加えて音響的なギターサウンドを得意とするギタリストたちの作品にインスパイアされたとか。エフェクティブなギターサウンドを重ねて作り出されたサウンドは、リンチ流のシューゲイザーといえるのかもしれない。そこに多重録音して膨らみを増した歌声が乗る。実験的でアブストラクトなサウンドに繊細な歌心を忍ばせた歌は、アーサー・ラッセルに通じるものがある。

イ・ランと柴田聡子『ランナウェイ』

 韓国で注目を集めるシンガーソングライター、イ・ランと、3月に新作『がんばれ!メロディー』のリリースを控えている柴田聡子がコラボレート。きっかけは、2016年にふたりで日本をツアーしたこと。そのツアーの名前が『ランナウェイ・ツアー』だった。ツアー終了後、イ・ランは再び来日してレコーディングに挑んだ。どちらも強烈な個性の持ち主ながら、演奏やハーモニーは驚くほど息はピッタリで、それぞれの作風もすんなり馴染んでいる。どちらもユーモアのセンスの持ち主だが、そのセンスに通じ合うものがあったのが成功の鍵かもしれない。ツアー中に食べた美味しいものを、次々と挙げてアカペラで歌う「おなかいっぱ〜いです」の楽しそうなこと。そしてまた、二人はマフラーを編むように、心を込めて美しいメロディと言葉を曲に編み込んでいく。それぞれが1曲ずつ曲を提供。3曲を共作しているが、ツアー時に披露した共作曲「Run Away」は、二人の歌心が融け合った珠玉のナンバーだ。「Run Away」のインストバージョンを含めて全6曲とコンパクトだが、ツアーを見た時の感動が甦る幸福感に満ちた一枚。初回限定盤なのでお見逃しなく。

[MV] 이랑 イ・ラン 시바타사토코 柴田聡子 – Run Away

■村尾泰郎
ロック/映画ライター。『ミュージック・マガジン』『CDジャーナル』『CULÉL』『OCEANS』などで音楽や映画について執筆中。『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』『はじまりのうた』『アメリカン・ハッスル』など映画パンフレットにも寄稿。監修を手掛けた書籍に『USオルタナティヴ・ロック 1978-1999』(シンコーミュージック)などがある。

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む