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想像力をかき立てる! 『THE LIMIT』が繰り広げる、“半径3メートル”の人間模様

リアルサウンド

21/3/12(金) 12:00

 最近よく耳にする“ソーシャルディスタンス”というのは2メートル以上の距離感を推奨しているらしい。そう考えると「半径3メートル」というのは、関わる相手との適切な距離感を示すパーソナルスペースよりはかなり広く、それでいてまったく関わりのない他者を認識するパブリックなスペースよりは狭い、なんと絶妙で曖昧な距離感といえようか。

 3月5日からHuluで配信されるオリジナルドラマ『THE LIMIT』は、そんな距離感の中で繰り広げられる6つの人間模様を描いたオムニバス作品である。

 同一の限られたシチュエーション下で繰り広げられるいくつものエピソードを重ねることで築き上げられていく“シットコム(シチュエーション・コメディ)”と呼ばれる種の作品は多々あるが、それらと比較してみても、本作の置かれている“シチュエーション”はかなり限定的だ。物語の舞台となる空間はひとつだけであり、登場人物もそれぞれ4人程度。ストーリー自体もリアルタイムで進行する約30分程度の1話完結となっており、その中で器用に起承転結が与えられているのだ。

 それぞれの作品のテイストもコメディからサスペンスまで幅広く、完全に異なる6つの物語と遭遇することができる。タクシーの車内やアパートの狭いユニットバスの一室、はたまた喫茶店など、舞台設定も登場人物たちが置かれているシチュエーションもまるで異なり、どれもがそのシチュエーションでなければ成立し得ない物語となっている。必然的に、限られた空間/時間の中でどのような物語が展開していくのか、どのような会話の応酬が繰り広げられるのかという脚本のセンスが作品の根幹を担うこととなり、同時に演じる俳優の技量に作品の完成度の大部分が委ねられることとなる。

 本作で脚本を手掛けているのは、劇団「青年団」の演出部に所属しながら自らの劇団「玉田企画」を主宰する玉田真也、お笑いコンビかもめんたるのメンバーで脚本家や舞台演出などマルチに活動する岩崎う大。そして『かもめ食堂』や『彼らが本気で編むときは、』など国際的にも評価の高い荻上直子と、各エピソード同様まったく異なるバックグラウンドを持つ3人。そしてキャスト陣も、伊藤沙莉や門脇麦、細田善彦、岡山天音、泉澤祐希、浅香航大といったバイプレイヤーでありながら主演級も務められるだけの演技力を持つ若手俳優たちが揃う。

 玉田が手掛けた第1話「ネコと井戸」は、井戸に落ちた猫を助けようとする3人の男女の恋の駆け引き模様を描き、このオムニバスドラマの導入にはもってこいのユニークなシチュエーション性とドラマ性が展開する。伊藤沙莉と堺小春が演じるカフェ店員の2人が、何気なく通りがかった場所にある井戸で、子猫を助けようとしている坂東龍汰演じるカフェの常連客と遭遇。あらゆる手を尽くして猫を助けようとしながら、些細な会話の連続によって、彼らの間に生まれる一方通行の恋のベクトルが徐々に浮き彫りになっていくというシンプルながら、よく練り込まれたストーリーだ。

 また玉田は他にも第2話「タクシーの女」と第4話「ベランダの男」も担当。門脇麦演じる弁護士の女性が偶然乗り込んだタクシーの運転手が、古川琴音演じる妹だったという予期せぬ遭遇から始まる前者は、タクシーという移動するシチュエーションがリアルタイム進行以上の時間の流れをもたらし、ドラマ性を高めていく。また同僚女性の部屋に忍び込んだ岡山天音演じる男がベランダから動けなくなってしまう姿を描く後者も、部屋の中で繰り広げられる二転三転するストーリーを主人公と一緒に窓越しに見ることで、不思議な感覚を味わえる。そしてどちらも、ワンシチュエーションという設定に奥行きを与えるように巧みに利用される携帯電話というアイテムが活きるのだ。

 携帯電話を駆使するという点では、岩崎が脚本を手掛けた第5話「切れない電話」もなかなかユニークな方法論が取られる。見知らぬ番号からの着信によって勘違いで恋人に振られた泉澤祐希演じる青年が、その電話越しの相手からひたすら振り回されるという物語だ。電話越しの会話がメインとなる点で泉澤の一人芝居になるのかと思いきや、そこに喫茶店のマスターを演じる岩松了が加担することで、話はどんどんシュールな方向へと進んでいってしまう。同じく岩崎の第3話「ユニットバスの2人」もコントのような前半の展開が、一瞬でサスペンスに転じる言葉の駆け引きが実に見事であり、“ありえそうもない”シチュエーションの中で起きるまったく“ありえない”出来事という異質さが、『世にも奇妙な物語』(フジテレビ系)のような魅力さを生む。

 どの作品もワンシチュエーションの限界点を追求しながらあらゆる方策によって物語に奥行きを与えようとする脚本の豊かさと、それを抜群の表現力で具現化していく俳優たちの化学反応が際立つわけだが、その中でも荻上が脚本を手掛けた第6話「高速夜行バス」はやはり出色の出来栄えであった。夜行バスの通路を隔てて座る、浅香航大演じる若い男と、木野花演じる老女。終始座席に座っていることもあり、他のエピソードよりも圧倒的に動きは少なく、ひたすら2人の表情の切り返しと言葉のやり取りだけで重ねられる完全な会話劇だ。それでもその会話によって語られるもうひとつのシチュエーションが、目に見えるように存在しつづけ、ただただ想像力をかき立てられていく。

 この『THE LIMIT』は、Huluが3月から4K・HDR配信を開始することにあわせて制作されたものだそうだ。俳優たちの息遣いや些細な表情の変化さえひとつも逃さない高精細な画面とクリアな音質によって、緻密な脚本の物語を見ることができるというのはなんとも贅沢な体験だ。これはまた、新たなキャストで新たなシチュエーションが待ち受けるシーズン2の制作を期待せずにはいられない。

■久保田和馬
1989年生まれ。映画ライター/評論・研究。好きな映画監督はアラン・レネ、ロベール・ブレッソンなど。Twitter

■配信情報
Hulu オリジナル『THE LIMIT』
3月5日(金)から、Huluで毎週1話ずつ配信(※通常配信に加え、4KHDR/5.1ch でも配信)
出演:
第1話「ネコと井戸」:伊藤沙莉、堺小春、坂東龍汰
第2話「タクシーの女」:門脇⻨、古川琴音
第3話「ユニットバスの2人」:細田善彦、岩崎う大(かもめんたる)
第4話「ベランダ男」:岡山天音
第5話「切れない電話」:泉澤祐希、岩松了、夏子
第6話「高速夜行バス」:浅香航大、木野花
脚本:玉田真也、岩崎う大、荻上直子
エグゼクティブプロデューサー:長澤一史
チーフプロデューサー:茶ノ前香
プロデューサー:中村好佑 小室秀一
企画:三浦光博 塚田雅人 賀内健太郎
監督:賀内健太郎 吉田真也 中嶋駿介
制作プロダクション:博報堂プロダクツ
製作著作:HJホールディングス
公式サイト:https://www.hulu.jp/static/thelimit/

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