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キューブリックに魅せられた男

19/10/29(火)

完璧主義で知られる映画監督スタンリー・キューブリックが『アイズ ワイド シャット』完成直後に急死してからすでに20年の時が流れたが、今もなお、彼が生み出した作品は世界中で上映され続けている。 そのキューブリック監督を陰で支えたふたりの男にスポットを当てた2本のドキュメンタリー映画が同時に公開される。 1本はトニー・ジエラ監督『キューブリックに魅せられた男』。もう1本はアレックス・インファセッリ監督『キューブリックに愛された男』。いずれもキューブリック監督の没後20周年を飾るにふさわしいカップリング作品だが、ここでは前者の『キューブリックに魅せられた男』を紹介したい。 本作の語り部は『バリー・リンドン』に出演したレオン・ヴィターリ。彼は多感な時期に『2001年宇宙の旅』と『時計じかけのオレンジ』に衝撃を受けた、キューブリック監督の信奉者でもあった。 『バリー・リンドン』の撮影初日、初めて監督本人と会った瞬間、「電流が走った」とレオンは回想する。クランクアップの後、「キューブリックとまた仕事がしたい」という思いが高まり、有望視されていた俳優業からスタッフ側に転身。念願叶い、『シャイニング』からキューブリック組に参加する。 現場の助手として有能だった彼は、キューブリックに重用され、映画製作にかかわるさまざまなことに関与しはじめる。 クリエイティヴの相談役を務める傍ら、キャスティング、俳優の演技指導、プリント・ラボ作業、サウンド・ミキシング、効果音制作、字幕と吹替の監修、宣材レイアウトの作成、海外テリトリー向け予告編の制作、在庫管理、配送、全世界での公開スケジュール管理まで、その仕事量は常識をはるかに超え、レオンは24時間365日体制を強いられる。そして、監督から課せられるプレッシャーは、次第に彼を肉体的、精神的に追い詰めていく。干からび、死相が張り付いたかのような彼の相貌が、いかに過酷な30年間だったかを物語っている。 これは天才に魅せられ心身ともに摩滅していくひとりの男の、喜怒哀楽を余すところなく描いた人間ドキュメンタリーであると同時に、キューブリックの魔術のような人心掌握術に迫った天才論でもある。

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