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考察カルチャーがドラマの未来を左右する!? 今期ドラマに見る、『あな番』以降の深い関係性

リアルサウンド

20/3/8(日) 8:00

 竹内涼真演じる主人公が、31年前と現代を行き来しながら冤罪事件の真実を探る『テセウスの船』(TBS系)。3月8日放送予定の第8話では、事件当日の朝を迎えて、犯人との駆け引きもさらに激しくなることが予想される。

参考:『テセウスの船』竹内涼真を手玉に取る小学生が牙を剝く まだ見ぬ共犯者の正体とは?

 一方、インターネット上での真犯人の正体に関する考察も活発化している。原作漫画と真犯人が異なることがファンイベントで事前に告知され、番組公式Twitterも「#テセウスの船真犯人は誰だ」「#犯人考察」などのハッシュタグを使って積極的に呼びかけるなど、ドラマ終盤を前に盛り上がりに拍車がかかっている。

 また、吉高由里子演じる週刊誌記者が、自身の出生の秘密を知る『知らなくていいコト』(日本テレビ系)でも、意外性のあるストーリー進行を受けて、今後の展開に関する考察がSNSやインターネットを通じて多く上がっている。

 視聴者を巻き込んだドラマの「考察祭り」はここ最近の大きなトレンドだ。最初に謎が提示されるミステリージャンルで、読者が作者と知恵比べをするのは珍しいことではないが、連続ドラマの考察トレンドが決定的になったのは、2019年4月から9月にかけて放送された『あなたの番です』(日本テレビ系)だった。

 秋元康企画・原案による同作は「毎週、死にます。」というキャッチコピーを掲げ、とあるマンションで起きた架空の交換殺人ゲームを描いたミステリー。不穏な設定となかなか進展しない犯人捜しに、当初、視聴率は伸び悩んだが、第2章の「反撃編」に入ると次第に話題を呼び、最終話では視聴率19.4%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)を記録。流行語大賞の候補に選ばれるなど、一大センセーションを巻き起こした。

 『あな番』の考察を主導したのは、Twitterや匿名掲示板へのリアルタイム視聴による投稿、また個人が運営するブログで、これに各媒体も追随。公式アカウントへのリプライやニュースサイトのコメント欄への記載も含めると、インターネット上で網羅的な広がりを見せた。考察の内容としては、犯人探しやトリックの追及から、それまでの放送で示された伏線の指摘、また演技や小道具の分析など多岐にわたった。

 考察をメインに据えた、いわゆる「考察サイト」は、直近の放送に対する考察と、前回予想との答え合わせ、次回の予想を含んでいる。その他に、登場人物や時代背景などテーマ別の考察を含むものもあり、情報量では公式サイトを上回るものもある。

 国民的人気を誇る漫画やアニメでは、こういった考察サイトはすでに定番になっているが、そこで重要な役割を果たしているのが「ネタバレ」と「伏線回収」だ。考察に際しては、作品を未見の読者・視聴者にどこまで内容を知らせるかという判断が求められる。

 また、各所に張り巡らされた小さな謎を解くことで、犯人やトリックなどストーリーに関わる大きな謎を解き明かすのがミステリーの常道だが、犯人と同じ目線で謎に挑む読者や視聴者には作品中でヒントが示されることが多い。こうした伏線を指摘し、答えを的中させることが謎解きのカタルシスを生んできた。

 二次創作と並んでファンカルチャーを象徴する考察ブームだが、考察を積極的に取り入れたのが『あな番』だった。主演の田中圭は『あさイチ』(NHK総合)のインタビューに答えて、「自分たちは伏線じゃないつもりだったけど、見てくださっている人たちがすごい伏線になる(と言う)から、『やばい、これも回収しなきゃ。どうしよう』というのはけっこう現場で話していました」と視聴者の考察を芝居の参考にしたことを明かしている。

 『あな番』では、動画配信サービス「Hulu」と連携したオリジナルストーリー『扉の向こう』が配信されるなど、作品をさらに楽しむための仕掛けが随所に施されており、視聴者の考察を誘発するこれらの仕組みは、同枠後続の『ニッポンノワール-刑事Yの反乱-』(日本テレビ系)や『シロでもクロでもない世界で、パンダは笑う。』(読売テレビ・日本テレビ系)にも引き継がれている。

 伏線回収に拘泥することで映像作品としてのドラマのダイナミズムが失われることを危惧する声もあるが、作品を積極的に掘り下げることは、情報を一方的に受け取る側だった視聴者がドラマに対する関心を深め、結果的にコンテンツの魅力を増すことにもつながる。また、相対的にインターネットに触れる機会の多い若年層に作品への入り口を提供する意義もある。考察カルチャーがドラマの未来を左右するポテンシャルを秘めていることは間違いない。

■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。

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