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JUJU、“ポップシーンの粋”結集した新曲 松尾 潔×小林武史による「メトロ」を聞く

リアルサウンド

18/10/31(水) 12:00

 少女から大人の女性へと移り行く時期を美しく照射し、そのなかで体験する様々な感情ーー切なさ、憂い、愛しさ、悲しさ、そして、決して消えることがない痛みーーを洗練と生々しさを併せ持ったボーカルによって映し出す。“JUJU×松尾 潔×小林武史”名義による「メトロ」。決して大げさではなく、日本のポップスにおける、もっとも質の高い楽曲のひとつだと思う。

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 JUJUのデビュー15周年第1弾シングル曲「メトロ」は、石原さとみが出演する東京メトロ「Find my Tokyo.」シリーズの新CM「高田馬場_アジアの深み」篇でオンエアされているミディアムバラード。松尾潔、小林武史というヒットメイカーのコラボレーションから生まれた楽曲、そして、2000年代以降の女性シンガーのなかでも際立った表現力を持ったJUJUのボーカルがひとつになったこの曲は、日本のポップシーンの粋を結集したナンバーに仕上がっている。

 「メトロ」の制作は、歌詞を先に制作する、いわゆる“詞先”のスタイルで進められた。作詞を担当したのは松尾潔。〈はじめて手にした地下鉄(メトロ)の定期券(パス)は/大人の気分を与えてくれた〉というフレーズから始まり、初めて降り立った街の思い出を織り交ぜながら、“どこまででも行ける”という高揚感と、思うように変わることができず、前に進めないでいる自分に対する嫌悪が、リリカルな筆致で描かれている。具体的な出来事にはあえて触れず、繊細な感情の揺れに焦点を当てることで、幅広い層のリスナーが心を寄せることのできる歌詞に仕立てているのだ。

 作曲・編曲は小林武史。作詞の段階で松尾はR&Bのリズムを想定したそうだが、それをベースにしつつ小林は、ジャズのテイスト、歌謡曲のフレイバーを加え、美しく洗練されたメロディに結びつけている。ピアノ、ドラム、ベースによる有機的なグルーヴに流麗なストリングスが重なったサウンドメイクも秀逸。往年のヨーロッパ映画のようなゴージャズな雰囲気を醸し出しながら、決して大仰にならず、的確に抑制を効かせたアレンジメントは流石のひと言だ。

 そして特筆すべきはやはり、JUJUのボーカル。初めて地下鉄の定期券を手にした少女が、さまざまな思いに揺れながら成長し、〈どこまでだって 行ける気がする〉という気持ちへとたどり着くまでの物語を見事に描き出しているのだ。ひとつひとつのフレーズに豊かな感情を込め、ストーリーテラーとしての役割を果たしながら、ジャズ~R&B~歌謡曲のエッセンスを内包したボーカリストとしての魅力もたっぷりとアピール。歌の上手さを前面に押し出さず、あくまでも歌を伝えることに心を砕いた姿勢も素晴らしい。繊細な手触りと前向きな力強さとを共存させたJUJUの歌が、「メトロ」の最大の魅力であることに異論の余地はないだろう。2人のプロデューサーも「ただ無心にボーカル表現の深みを追求した。その執着は凄まじかった。ぼくはもう10年以上彼女のプロデュースに関わっているけれど、ここまでのJUJUをはじめて見た」(松尾)、「なによりJUJUの歌が凄いです。ジャンルやスタイルを軽く超えていくような表現が、この歌にはあると思っています」(小林)とコメントしているが、「メトロ」の歌唱はまちがいなく、彼女のキャリアのなかでも最上の部類に位置づけられると思う。

 ボーカルのレコーディングに至るまでのプロセスもきわめて緻密だったという。まずは松尾、JUJU、ボーカルプロデューサーの川口大輔がスタジオに入り、歌詞とメロディを詳細に検証しながら仮ボーカルを録音。そのデモ音源をもとに松尾が歌詞、小林がメロディを手直しし、楽曲全体をブラッシュアップしていった。さらにボーカル録りに3日間かけたというのだから、“優れた作品を生み出すためには時間と手間が必要”という当たり前のことを改めて実感させられてしまう。作詞、作曲、アレンジ、サウンドプロダクション、レコーディング。すべての過程において決して手を抜かず、どこまでも丁寧に作業を進める。それ以外に名曲を作る方法などない、ということだろう。

 女優の小松菜奈が出演、映像監督の関和亮がディレクションしたミュージックビデオ(ひとりの女の子がメトロで妄想する様子を捉えた、リアルとファンタジーが融合した作品)も話題を集めている「メトロ」。多感な季節を過ごしている10代から、理想と現実のなかでもがいている20代~30代、人生を俯瞰する時期に入っている40代以上まで、年齢や性別を越え、多くのリスナーに共有されるべき楽曲だと思う。(森朋之)

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