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小さなライブハウスの挑戦 第4回 対談:スガナミユウ×STRUGGLE FOR PRIDE今里(後編)

ナタリー

18/10/3(水) 21:00

スガナミユウ(手前)とSTRUGGLE FOR PRIDEの今里(奥)。

前回、下北沢THREEを運営していく中で「現代版のZOO、SLITSを俺たちがやるべきだ」と思うに至ったスガナミユウが、“下北沢のカッコいい先輩”として尊敬するSTRUGGLE FOR PRIDEの今里(Vo)を対談ゲストに招いた。今回は、今里が下北沢で遊び始めた頃の話から、スガナミの今後の展望までが語られた対談の後編だ。

伝説のショップVIOLENT GRIND

スガナミ 今里さんはいつ頃から下北で遊んでいたんですか?

今里(STRUGGLE FOR PRIDE) 子供の頃からですね。下北沢が地元の友達がいて、その子のところに遊びに行っていました。当時の下北は今よりももっと普通の街だったんです。繁華街ではあったけど街の雰囲気にもっと地元感があると言うか……今で言ったら豪徳寺とかに近いのかな。世田谷って住宅街じゃないですか? その中の“ただの商店街”という感じだったっすね。レコード屋とか古着屋とかはあったけど、今みたいにわざわざ遠くから人が遊びに来る感じではなかったと思います。

スガナミ クラブなどに行くようになったのは?

今里 80年代後期、ディスコからクラブに変わったような頃ですかね。大体どこに行っても歓迎されなかった(笑)。行けなくなるようなところが多く……いや行けなくなるって言うか、「もう来ねえよ、バーカ!」みたいになるところが多くて。

スガナミ なるほど(笑)。例えばZOOだったら、最初は誰に連れて行ってもらったんですか?

今里 初めて行ったのは中学から高校に上がるときの春休みですね。ZOOには最初はVIOLENT GRIND(※1987年にオープンしたスケートボードショップ。当時の下北沢アンダーグランドカルチャーの中心的な役割を担っていた)の店長のKUROさんに連れて行ってもらったんです。そもそもVIOLENT GRINDに行くようになったきっかけとしては、星野くんっていうスケートボードをやっていた歳上の友達が、Drunk InjunsっていうハードコアパンクバンドのTシャツを着ていて、そんなものが存在しているってだけでびっくりして。「何それ、どこで買ったんすか?」って聞いたら、「VIOLENT GRINDで売ってるよ」って教えてくれて。それで連れて行ってもらったんです。そこにKUROさんがいたんだけど、最初は全然話もできなかったっすね。店を1周して、レジまで行って、緊張でお金とか落として「あれ……すいません!」みたいな感じ(笑)。

スガナミ 緊張する気持ち、分かります。

今里 もう、帰りなんて店のドアを閉めた瞬間に「ホッ……」みたいな(笑)。そんな店だったんだけど、あるときKUROさんに「星野とよく来てるやつだよね? バイトしない?」って言われたんです。それでもう、「やりますやります!」っていきなりその日からバイトすることになったんですよね。

スガナミ その日から。

今里 それで、バイトが終わったらZOOに連れて行ってもらったんです。そのまま朝まで遊んで、「店(VIOLENT GRIND)で寝てていいよ」って言うから寝かしてもらって、起きて働いて、またZOOに行って……みたいなことを、本当に毎日やっていましたね。

ZOOがあった下北沢

今里 そうしていたのが16歳くらいからで、その頃はすでにDrunk Birds(※下北沢を中心に活動するバンド。「WE STRUGGLE FOR ALL OUR PRIDE.」にも参加している)のマサスケとかは知ってました。下北出身だし。彼は俺がやることをひたすら怒る人(笑)。「今のは違います!」「すみません……」みたいな(笑)。

スガナミ そうなんですね。マサスケさん、優しい印象があります。では当時、ZOOってどんな場所でした?

今里 確か、音量はそんなにデカくなかった気がします。みんな普通に話していたから。何年か前に、「RAW LIFE」とかやった浜田さんがZOOとSLITSの回顧本(山下直樹、浜田淳「LIFE AT SLITS」)を出したじゃないですか。あの本でも話しているんですけど、俺、当時はあまり音楽なんか聴いちゃいなかったです(笑)。曜日ごとにイベントが違ったからほかにどんな人が来ているかも特に知らなかったし。その中でも俺は「ズート」ってイベントが好きでした。あと、意識して「今かかっているの、誰ですか?」みたいに聞きに行ったのは、キミドリの3人が最初だったと思います。キミドリがやっていた「カンフュージョン」とかで、Zineって言うかフリーペーパーみたいなものがあって、そこに「今週の何枚」みたいなのが載っていて。それで「これ、この間のあの曲だ」「あ、これがウィリアム・デヴォーンなんだ」みたいなことを知ったりしましたね。

スガナミ 曜日ごとに違うことをやっていたんですね。

今里 日曜とかはときどきVIOLENT GRINDもパーティ(※「DRUNK TWIST 720°」)をやっていました。そうやって曜日曜日で違うから、自分が普段行かない日に行くと「こんなんなんだ! 全然違う!」って感じでしたね。もちろんずっといる人もいたと思うんですけど、俺はそんな印象でした。だからZOOの話とかは、もう少し上の世代の人のほうがもっとフラットに見ていたと言うか、楽しんでいたと思います。

スガナミ そうなんですね。今里さんの企画「HOOD CALLS.」で、SCRAMBLE CROSSINGの曽根さん(S-ONE THE GANGSTA)や、それこそKUROさんとかDrunk Birdsとか、その時代の下北沢を築いていた方々にTHREEでDJやライブをしてもらったことがあって。そうしたらなんか、“自分が知らない頃の下北沢”みたいなものを直に感じて、すごくグッときてしまって。僕からすると先輩と呼ぶのもおこがましいくらいすごい方々なのでそりゃあ怖いんですけど、とにかくみんなめっちゃ音楽が好きなのが伝わってきました。ずっと変わらず音楽を楽しみながら、下北で遊んできたんだなっていうのが伝わるんです。やっぱりこれだなって思いました。

不意のアルバム発売記念イベント

スガナミ 今、下北沢でクラブってほどんどなくて。下北沢MOREくらいかな。でも特に平日の夜中とかのクラブの雰囲気って、好きなんですよね。僕は“平日の夜中のマジック”って言っているんですけど。この間、THREEで今里さんにDJをやっていてだいたとき、店で朝までくだらないことを話したじゃないですか。なんかああいうのが、クラブやライブハウスの一番面白いところだと思うんです。

今里 あの日はアルバムを出した日で、スガナミくんがDJで誘ってくれたんですよね。それで店に行ったらいきなり、「おめでとうございます!」ってやってくれて。俺、自分の作品は作っちゃった時点で自分の手から離れると言うか、「ここからは皆さんにお任せします!」ってなっちゃうんです。だから作品のリリース日っていうこともあまり意識することなく、普通にDJをやりにTHREEに行ったんですけど。

スガナミ どうしてもみんなで祝いたかったから「俺、誘うわ」って。もうおびき寄せる感じでした(笑)。

今里 それでけっこう感極まってしまいました。そのあともほかのお店から「発売記念やりませんか」って誘っていただくことがあるんですけど、「もう俺の中で発売記念は終わってるしなあ」って思ってしまって。大阪とか名古屋とか、東京以外のところではやるかもしれないけど、「実は東京はもう発売記念をやっちゃってるから」って。それもド平日でしたよね(笑)。

スガナミ あの日は本当に最高でした。ハコをやっている冥利に尽きます。“何人お客さんが入ってどうのこうの~”みたいなことも大事ですけど、みんなで「今日は楽しかったなー」って思う瞬間。店をやるうえでも、そんなふうに、その場所にいる人にしか味わえないことを大事にしたい。究極、それだけでいいかな、みたいな。

今里 もちろん週末の大きなクラブも大好きですけど、ド平日のそういう感じってありますよね。

ダサいことをやると周りに引かれちゃう

今里 ちなみにTHREEって、毎日来る子とかいますか?

スガナミ 松田“CHABE”岳二(CUBISMO GRAFICO、Neil and Iraiza、LEARNERS)さんですね(笑)。

今里 俺、その子知ってますね(笑)。

スガナミ 深夜帯は飲み屋みたいな側面もあるので、上田(上田dash走 / ※下北沢THREEに夜併設される居酒屋“スタンドかげん”の店主)のメシを食べだけに来る子とか、ただ飲みに来る子がいたりします。

今里 それはいいですね。そう言えば海外に、俺がけっこう仲がよかった友達が溜まっていたバーがあるんです。友達がいきなり海兵隊にナイフで刺されるような、いろんなことが起こるバーで。

スガナミ ええ!

今里 刺された友達は助かったんですけど。そこは地元のバンドがその店やバーテンのことを歌っている曲なんかもあるようなところで。ジュークボックスが1つだけあって、パンクロックのレコードとかが入っていて。みんなそこに行っていたんだけど、あるとき区画整理で追い出されそうになったんです。でも、そこのバーテンダーが店を買い取ったんですよ。それで結局まだ残ってる。そういうのってやっぱり夢だよなって思います。

スガナミ いい話ですね。夢ってことで言うと、僕、最近また新しい企画をやろうと思っているんです。THREEって店内に入ったところに赤い壁があるんですけど、あそこに自分たちの好きな店やグラフィティだけを載せた地図を描こうと思っているんです。例えばレインボー倉庫とか、自分たちの好きな場所しか載せないもの。

今里 へえ。

スガナミ もっと街を意識していきたいと言うか。例えば海外から来たお客さんとかにその地図を見せて下北の店を紹介したり、それに絡めたパーティをやったりしたいんですよね。自分たちの好きな場所しか載せない理由は、そこの人たちと仲良くなりたいから。

今里 いいすね、基本それ!(笑) 「街が活性化されて……」みたいなことを言う訳ではなく、その地図、個人的にも便利だと思います(笑)。

スガナミ まあなるべく下北を、自分たちにとって居心地のいい場所にしたいなってだけなんですけどね。

今里 下北って、こんな小さい駅の街の中ですごくいろんな人たちがいろんな形で一緒に生活したり、時間を過ごしたりしている。もちろん仲が悪いやつも嫌いなやつもいるかもしれないですけど、それって重要なことで。そんな中で、例えば夜中に帰れなくなった子が朝まで時間を潰す場所があるって、実は大事なことだと思うんです。そういった意味でもTHREEのような場所が下北沢にあるのは本当にいいし、しかもそれをスガナミくんみたいに明確な目的がある人がやっているって心強いじゃないですか? 心強いって言うか救われるし、ありがたいですよね。やっぱり目標があるだけで勝ち。それをやりゃあいいわけですからね。

スガナミ いやいや、やらなければならないこと、やりたいことがある中で、今里さんみたいなカッコいい先輩が気にかけてくれるのが本当にありがたいです。心配して店に来てくれたりして、本当に感謝しています。

今里 まあ、ダサいことをやると周りに引かれちゃうから。KNZZくんとかマサスケとかに「ダサくないですか?」「それ、ダサいです」って言われたりして(笑)。「……っすよね? 自分でも薄々気が付いていたんですけど!」ってなっちゃう(笑)。

取材・文・構成 / 加藤一陽(音楽ナタリー編集部) 撮影 / 小原啓樹

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