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SHE’S『Tragicomedy』の楽曲は一人ひとりの心に根を張っていくーー地元大阪から配信で届けた万感のツアーファイナル

リアルサウンド

20/12/7(月) 20:00

 大袈裟に聞こえるかもしれないが、2020年という未曾有の時期を生きたSHE’Sとオーディエンスのドキュメンタリーのようなライブだった。

 12月5日、なんばHatch。この日はSHE’Sにとって、コロナ感染対策と人数制限のもと万難を排し、続行してきたツアー『SHE’S Tour 2020 ~Re:reboot~』のファイナル公演だった。だが、直前の12月3日、大阪府が外出自粛要請を発動したことで、急遽、無観客、配信のみに変更された。地元でのファイナルである。どれだけ悔しかったかは想像にあまりあるが、「ここまで対策してやってきたのに大阪のみんなに『来てよ』とは言えなかった」とMCで井上竜馬(Vo/Pf)も言っていたように、ここで不安を抱えて観客を入れることはできないだろう。今、日々、どのアーティストもスタッフもとてつもないプレッシャーの中で有観客ライブに臨んでいることを改めて理解したい。

SHE’S(写真=ハヤシマコ)

 その上で、この日のライブはSHE’S史上最高の完成度を見せたのではないかと思う。筆者は10月のツアー序盤である東京公演にも参加したのだが、その段階で演奏の格段の進化を実感し、あくまでもアルバム『Tragicomedy』を柱に、その表現するところをじっくり聴かせ、見せる構成が組まれていた。そのため、今回、配信のみになったものの、ツアーの本質は全く変わることはなかった。今回、配信ではマルチアングルカメラが特徴的で、メインの映像以外に各メンバーに自由にフォーカスして見ることも可能だったが、リアルタイムではプロのスイッチングで楽しんでみた。と、いうのも冒頭からなんばHatchの入場を体験するような映像演出にすでに感極まってしまったせいもある。

SHE’S(写真=ハヤシマコ)

 今回のツアーはセットリストの磨き上げ方も素晴らしかった。冒頭からエレクトロニクスと生音の緩急をつけた「Unforgive」。そしてインディーズ時代からのライブ定番曲「Un-science」を序盤に配置したことで如実にわかる演奏力の向上。5年前、今、日本のシーンにこんなにOasisやColdplayのような王道ぶりを照れなくやってのけるバンドがいるんだという驚きは今はもう完全にSHE’Sのオリジナルな個性に昇華されたと感じる。冷静に書いているが、冒頭からメロディも歌詞もリフのビートも全てが心を開かせるパワーに満ちていて、この日の状況ももちろん相まって(悔しさや人目がないことも)涙が勝手に溢れてきた。

 音数が少なく、抜き差しが肝心な「Ugly」。間奏では服部栞汰(Gt)が存分にソロをエモーショナルに弾き倒すことで、モダンなアレンジとメンバーの持ち味を自然に融合させてみせる。デジタルクワイアや空間の活かし方が洗練された現ライブバージョンの「Clock」もエレクトロと生音のバランスが完璧だ。アレンジや演奏のブラッシュアップはもちろん、グッと『Tragicomedy』の核心部分に触れる「Be Here」の井上の音楽でリスナーの手を絶対離さないという思い。この曲自体は一人の対象に向けて作られたものだが、今となっては彼らの音楽を愛する誰にとっても命綱のような存在だろう。また、大きな演奏の中に静かな熱意を込めるという難しいニュアンスを実現する姿を一打に集中する木村雅人(Dr)に見た。曲が束ねるバンドの結束とも言えるし、ツアーを重ねて曲に様々な人の人生の色が差されてきた影響もあるのだろう。

 中盤のMCで井上が冒頭の発言や、何度も音楽ファンとして通ったなんばHatchという場所への思い入れや、せめて配信でもライブが実現したことの喜びを話し、残念がっているファンにはこのライブだけでなく、思い通りに行かないことも人に助けられたり、別の夢を見たりしながら歩いて行って欲しいと言った。ああ、このツアーでこのバンドはとてつもなく強くなったんだなと感じた発言だ。そしてファンに向けて「そんなあなたへ」と演奏した「Your song」。今回ほど〈辿り着くことがことが全てか 刻んだ時間が全てか〉という問いかけの中にいると感じたことはない。今年、SHE’Sが多くの共感を得たのは井上竜馬といういう個人が今を生きて素直に出てくる感情を一切隠さなかったからだろう。同時にこのツアーファイナルを示唆しているような曲にも受け取れた。

 緊張感のある前半を「Your Song」で解き放って、後半も熱量と確かさを両立した演奏を展開し、「Ghost」ではまるでウェンブリーアリーナに立ってるバンドか? と思わせるような大きな8ビートを作り出し、後半はポップな「Blowing in the Wind」や「Dance With Me」で同期との見事な調和を見せた。時にシンセベースも操る広瀬臣吾(Ba)は生ベースのフレージングもさらに洗練されている。目立つソロパートなどを設けないこのバンドのリズム隊だが、90’sから現行の洋楽テイストまで実現しているのは明らかに二人の力だと思う。以前より歌い出しのBPMを遅くした「The Everglow」はその分、ビートが入って加速していく体感が増したし、無観客生配信で高いテンションで挑み、後半、少し前のめり気味で歌う井上に思わず笑ってしまった。

SHE’S 井上竜馬(写真=ハヤシマコ)

 本編最後のMCで井上は、ツアーができたことで感じたのはライブっていいものだなということ、そしてそれ以上でも以下でもないと言い、生きてる限り音楽をやろうと思うけど、自分にはそれしかないと思って苦しんだり消えてしまったりはしないとも言った。観客を入れられないことが決まった前日の夜も今回のツアーを回ってきたことを幸せに思ったといい、「俺たちは何度でもステージに上がるので……生きてね」と。シンプルではあるが、そのことこそが一番言いたかったことに違いない。本編ラストはその言葉をじっくり聴き手一人ひとりの心の奥底に定着させるように丁寧に「Tragicomedy」を歌う。メンバーもコーラスを真剣に重ねていく。ぽつりぽつりと鳴らされるピアノがむしろ雄弁だ。「Sleep Well(Epilogue)」に繋いで、興奮に包まれた画面の向こうのファンにおやすみを言うようなエンディング。心という見えないものとどう向き合うのか。それをアルバムとツアーを通して、より多くのフィードバックを得て育ててきたこの1年。リスナーの日常と奇しくもリンクした『Tragicomedy』の旅はここで一旦終了しつつも、この日以降も曲たちはいい意味で一人ひとりの心に根を張るだろう。アルバムのアートワークがこんなにも腑に落ちたことはなかった。

 アンコールでは来年の東京、大阪での野音公演も発表され、ある種4人の素朴で有機的なバンドであることの楽しさを示す「Curtain call」で終演した。12月10日のツアー後日談的なYouTube配信ではさらなる重大発表もあるという。こちらも前を向いて2021年の目標を立てたくなった。そんな帰着をもたらす2時間15分のドキュメントだったのだ。

SHE’S(写真=ハヤシマコ)

■石角友香
フリーの音楽ライター、編集者。ぴあ関西版・音楽担当を経てフリーに。現在は「Qetic」「SPiCE」「Skream!」「PMC」などで執筆。音楽以外にカルチャー系やライフスタイル系の取材・執筆も行う。

■公演概要
『SHE’S 10th Anniversary「Back In Blue」』
2021年5月8日(土)大阪城音楽堂
開場16:30/開演17:30
問い合わせ:SOUND CREATOR  06-6357-4400

2021年6月26日(土)日比谷公園大音楽堂
開場17:00/開演18:00
問い合わせ:HOT STUFF PROMOTION 03-5720-9999

TICKET 指定席 ¥4,800(税込)
※未就学児入場不可。小学生以上有料。

<FC先行予約>
受付期間:12月5日(土)20:30~12月13日(日) 23:59
受付はこちら

【注意事項】
・入場時に検温チェックや消毒、 マスク着用等のお願いをする場合あり。
・安全面を最大限に考慮した上で追加券売が可能となった場合には、 段階的に観覧エリアを変更。
・荒天中止。

周年公演特設サイト

■生配信番組情報
【絶対に直接伝えたい】SHE’S 生配信特番
日時:12月10日(木)20:00~
番組視聴はこちら

■関連リンク
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