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樋口尚文 銀幕の個性派たち

滝藤賢一、怪優街道をぬけて優しき名優へ

毎月連載

第12回

18/12/6(木)

『榎田貿易堂』 (C)2017映画「榎田貿易堂」製作委員会

 多くの名バイプレイヤーがそうであるように、滝藤賢一がいつスクリーンやテレビで忘れられない顔になったのか、急には思い出せない。だがよくよく記憶をたどると、「この俳優は何だ?!」と最初に滝藤を認識したのは、2008年の原田眞人監督の映画版『クライマーズ・ハイ』だったはずである。未曾有の航空機事故の取材過程で精神を病む地域報道班の記者の役だったが、けっこう名の売れた俳優たちが居並ぶ報道の内幕劇で、滝藤はあまり見なれない顔だった。実際、まだ無名に近い滝藤をこの役に抜擢したのは、ワークショップで彼が気になっていた原田監督だった。この役への起用は、明らかに滝藤の俳優人生が軌道に乗る端緒であった。

 そもそも名古屋の名門高校に通っていた滝藤は、映画監督を志望していたが、実際の現場を知るにつけ監督には向いていない気がしてきた。そして1998年に仲代達矢の無名塾の塾生となる(同期には真木よう子がいた)。なんとなく滝藤の醸す雰囲気からすると小劇場出身のイメージだが、実は無名塾でどっぷりと正統新劇に浸かって、幾度もやめようと思いつつしごかれていたという。後輩の塾生と家賃を折半するために同棲するうちに結婚(その妻は早々に役者修行はやめて栄養士になったしっかり者)したが、なかなか芽は出ず、居酒屋やビデオショップなどのバイトを続けていた。

『SCOOP!』(C)2016映画「SCOOP!」製作委員会

 この無名塾にいた十年近い間、滝藤は無名塾の『どん底』『サラリーマンの死』などの公演に出ながら、『BULLET BALLET/バレット・バレエ』『助太刀屋助六』『ラストシーン』『ゴジラ×モスラ×メカゴジラ/東京SOS』『象の背中』といった映画にも出演していたようだが、申し訳ないことにまるで記憶がない。そんな流れのなかで、ふとつかむことのできた『クライマーズ・ハイ』のはまり役だった。もっとも、この映画では目立っても、お茶の間で認識されたのはもう少し後のことだろう。今どき映画や小劇場などで目だった特異な個性は、さらにドラマやCMへと引用されていってようやくポピュラーな顔となる。

 実はNHKのキャスティングは、主役こそ全国区のメジャー中のメジャーを求めるが、脇役についてはかねて穿った着眼がものを言っていた。古くは日活ロマンポルノの新鮮な俳優たちを旺盛にテレビドラマに引っ張り出したのも、研究熱心なNHKのディレクターたちであった。滝藤も、まだ無名の2006年にNHKの『生物彗星WoO』に駆り出されていてディレクターの慧眼ぶりに驚くが、続いて2009年の『白洲次郎』『外事警察』、さらに映画『ハゲタカ』を経て大河ドラマ『龍馬伝』と、NHKがらみの起用が続いて、このあたりで確実に滝藤の異貌はあまねく認知されたはずである。

『はなちゃんのみそ汁』(C)イメージフィールド株式会社

 特に『外事警察』のポーカーフェイスのクールで理知的な巡査部長の役は、滝藤という俳優の一解釈として、その後もこれに連なるイメージが反復されている。映画『64-ロクヨン-』の冷徹な警務部長役などもまさにこの延長にあるだろう。しかし、こういうちょっと感情の読めないエリートもこなせる滝藤だが、『クライマーズ・ハイ』の記者のように、心理的な重圧から徐々に不安定になってゆく役柄はその真骨頂のようで、強烈な印象を残した2013年のドラマ『半沢直樹』では銀行の出世頭だったのに精神を病み、ついに休職に追い込まれるエリートを熱演してみせた。

 滝藤はこういう「壊れる男」が似合うのだが、やや正体不明のイカれた役ももちろんはまる。2014年のドラマ『BORDER 警視庁捜査一課殺人犯捜査第4係』では警察に協力する裏世界の便利屋、2016年の映画『SCOOP!』の写真週刊誌グラビア班の副編集長などはそういうタイプのものだろう。いずれにしても、何やら滝藤にはどこかノーマルになりきれない、ノーマルではいられないムードの役柄が似つかわしい感じではあるのだが、そんな滝藤が2018年のNHKの朝ドラ『半分、青い。』でヒロインの楡野鈴愛こと永野芽衣の、娘思いの父を堂々のレギュラーで演じていたのは嬉しかった。畏怖の対象だったゴジラが人気者として認知されると「正義の怪獣」と見なされるようになったのに似て、すっかりお茶の間で「あの人」として認知された滝藤も長い「怪人」イメージから遂に「いい人」に転じた。

作品紹介

『はなちゃんのみそ汁』

2015年12月19日公開 配給:東京テアトル
監督・脚本:阿久根知昭
出演:広末涼子/滝藤賢一/一青窈/紺野まひる/原田貴和子

『SCOOP!』

2016年10月1日公開 配給:東宝
監督・脚本:大根仁
出演:福山雅治/二階堂ふみ/吉田羊/滝藤賢一/リリー・フランキー

『関ヶ原』

2017年8月26日公開 配給:東宝=アスミック・エース
監督・脚本:原田眞人
出演:岡田准一/有村架純/東出昌大/役所広司/滝藤賢一

『孤狼の血』

2018年5月12日公開 配給:東映
監督:白石和彌 脚本:池上純哉
出演:役所広司/松坂桃李/真木よう子/駿河太郎/滝藤賢一

『榎田貿易堂』

2018年6月9日公開 配給:アルゴ・ピクチャーズ
監督・脚本:飯塚健
出演:渋川清彦/森岡龍/伊藤沙莉/滝藤賢一/宮本なつ

『虹色デイズ』

2018年7月6日公開 配給:松竹
監督:飯塚健 脚本:飯塚健/根津理香
出演:佐野玲於/中川大志/高杉真宙/横浜流星/滝藤賢一

『平成仮面ライダー20作記念 仮面ライダー平成ジェネレーションズ FOREVER』

2018年12月22日公開 配給:東映
監督:山口恭平 脚本:下山健人
出演:奥野壮/犬飼貴丈/押田岳/大幡しえり/滝藤賢一(声の出演)

プロフィール

樋口 尚文(ひぐち・なおふみ) 

1962年生まれ。映画評論家/映画監督。著書に『大島渚のすべて』『黒澤明の映画術』『実相寺昭雄 才気の伽藍』『グッドモーニング、ゴジラ 監督本多猪四郎と撮影所の時代』『「砂の器」と「日本沈没」70年代日本の超大作映画』『ロマンポルノと実録やくざ映画』『「昭和」の子役 もうひとつの日本映画史』『有馬稲子 わが愛と残酷の映画史』『映画のキャッチコピー学』ほか。監督作に『インターミッション』、新作『葬式の名人』が2019年に公開。

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