Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

美空ひばりの歌声はなぜ時代を超えて人の心を震わせる? 『紅白』AI歌唱で復活する「あれから」を機に考察

リアルサウンド

19/12/31(火) 17:00

 大晦日に放送の『第70回NHK紅白歌合戦』(NHK総合)に、AIでよみがえった美空ひばりが出演、秋元康が作詞・プロデュースを手がけた新曲「あれから」を歌うことが発表された。それに先駆け12月23日にはメモリアル映像も公開され、出演した北野武が「美空さんの歌の最高傑作と思うほど良い歌」とコメント。現在Apple MusicやSpotifyでもプレイリスト「美空ひばりが紅白で歌う名曲のすべて」が公開されるなど、美空ひばりを知らない世代にもその歌声が広がっている。没後30年経った現在も世代を越えて愛され続ける、美空ひばりの魅力とは?

美空ひばり(AI歌唱) / あれから(ミュージックビデオ)

上手さを越えた凄さ

  美空ひばりは、9歳でデビューし天才少女歌手と呼ばれた。52歳で亡くなるまでにレコーディングした曲数は1500曲、オリジナル楽曲数は517曲を数え、「柔」「悲しい酒」「愛燦燦」「川の流れのように」などの名曲をいくつも生み出した。1988年には病床から復帰したばかりの身体で東京ドームコンサート『不死鳥/美空ひばり in TOKYO DOME 翔ぶ!! 新しき空に向かって』を開催し、変わらぬ歌声を披露して伝説のコンサートとなった。生涯最後のシングル曲となった「川の流れのように」は、秋元康が作詞を手がけたことでも知られる。昭和から平成になった日の1989年1月11日に発売、ミリオンヒットを記録して(現在は200万枚以上)彼女の代表曲になった。

 例えば東京五輪が開催された1964年に発表された「柔」は、紅白で2度歌われ、「川の流れのように」に次ぐヒット曲として知られる。凛とした力強さ、リスナーに語りかけるようなニュアンス、自在に操られるビブラートに引きつけられる。まさに今から雌雄を決しようという雄々しさと、畳の上の矜持が見事に表現されていた。女性歌手でありながら、あの凄みは美空ひばりにしか表現出来ないだろう。

 「悲しい酒」は1966年に発表。寂しげにつま弾かれるガットギターに続く美空ひばりの歌声は、まるでヴィオラかヴァイオリンなどの弦楽器のようだ。低音から高音へかけての流れるようなスムースさ、細かいビブラートが加えられた語尾のニュアンスなど、表現の細かさに驚かされる。男を忘れられず一人酒を飲む女の情念が表現された、感情の込められ方は尋常ではないほどで、途中で涙をこぼしながら歌っている映像がいくつも残っている。

 また紅白で歌われたことはないが、「愛燦燦」(1986年)も晩年の名曲として名高い。70年代〜80年代の美空ひばりは、来生たかお、坂本龍一、イルカなど幅広いジャンルのアーティストと共演しており、「愛燦燦」は、シンガーソングライターの小椋佳が作詞作曲を務めた。ここでの美空ひばりの歌声は、母親のように実に母性的で、聴く者をとても優しく包み込んでくれている。

 そして「川の流れのように」では、川の流れに例えながら、「愛燦燦」とは違う角度で人生というものを歌い上げた。こちらは実に力強く、スケールの大きな歌声が魅力だ。病と闘い、人生や命というものと深く向き合った彼女だからこその表現は、すべてを悟ったような清々しさがあり、聴く者を癒やすと同時に、力強く背中を押してくれる。歌の上手さはもちろん、そうした技術的なものを越えた凄さが、どの歌声からも感じられる。

感動を呼ぶ命を削った歌声

 AI美空ひばりが歌う「あれから」は、没後30年を迎えた今年9月に放送された『AIでよみがえる美空ひばり』(NHK総合)で実現した。NHKやレコード会社に残る膨大な音源・映像を元に、最新のAI技術によって、美空ひばりを現代によみがえらせる試みだ。プロデュースと作詞を「川の流れのように」を手がけた秋元康が手がけ、作曲を佐藤嘉風が手がけた。AIの開発には、初音ミクなどで有名なボーカロイドを手がけたヤマハのエンジニアが携わり、AIが自ら考える領域を増やすことで格段に美空ひばりに近づくことができたという。SF映画ではないが、シンギュラリティの一歩手前で生まれた奇跡の歌声だと言えるだろう。

 そんな「あれから」の歌声は、30年ぶりに届いた懐かしい家族からの手紙のように身近で実に温かい。平成という時代を振り返りながら、この30年の様々な苦難を乗り越えて来たすべての人を労らってくれるような優しさがある。肩をそっと抱くように歌われる表現力、細かいビブラートなど、まさしくお嬢そのもの。中盤にはセリフもあり、少しハスキーさを持った声と語りかける言葉は、空からずっと見守ってくれていたんだなと感じさせ、そこに込められた深い愛情が胸に刺さる。

[NHKスペシャル] AIでよみがえる美空ひばり | 新曲 あれから | NHK

 日本のマリア・カラス、戦後歌謡界の女王、お嬢……美空ひばりを形容する言葉はいくつもある。どれもが彼女の歌のすごさを言い表し讃えたものばかりだ。その人生は壮絶。短いながらも結婚生活を送ったが、数多くの悲しい出来事も経験し、病に打ち勝ち見事な復活劇でファンを感動させたこともある。そうした自身の人生や経験と重ねながら歌われる美空ひばりの歌は、彼女の人生そのもの。“人生を賭して”という言葉はよく聞くが、美空ひばりほどの命を削った歌声は、聴いたことがない。だからこそ時代を越えても、唯一無二なのだろう。改めて彼女の歌を聴けば、そのひとつひとつが、彼女の命の一片なのだということを感じるだろう。

■榑林史章
「THE BEST☆HIT」を経て音楽ライターに。オールジャンルに対応し、インタビュー本数は延べ4,000本。現在は日本工学院で講師も務める。

美空ひばり(AI 歌唱)『あれから』

■リリース情報
美空ひばり(AI 歌唱)『あれから』
CDリリース: 2019 年12 月18日(水)
COCA17777 ¥1,350(税込)
<CD収録内容>
M1.「あれから-シングル・バージョン-」
M2.「あれから-NHKスペシャル・バージョン-」
M3.「あれから-シングル・バージョン-(オリジナル・カラオケ)」
全曲配信中

■関連リンク
公式ホームページ

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む