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『野ブタ。をプロデュース』が15年後も色褪せない理由 「青春アミーゴ」とリンクする青春の痛み

リアルサウンド

20/5/23(土) 6:00

 「青春アミーゴ」がエモい。

参考:『野ブタ。』修二と彰、どっち派? 15年後の大人たちにも憧れの存在であり続ける2人

 劇中の役名、修二(亀梨和也)と彰(山下智久)名義で歌う『野ブタ。をプロデュース』(日本テレビ系、以下『野ブタ。』)の主題歌「青春アミーゴ」。2005年の本放送当時、「エモい」というワードは現在ほどは一般化されていなかったと思うが、当時この言葉があったら最もこの言葉が似合う曲大賞1位(勝手に作りました)を捧げたい。

 メロウでエモーショナルなメロディで「地元じゃ負け知らず」「信じて生きてきた」の部分で亀梨と山下の若く細い喉を絞リ出すような高音の絡み合いが、心の柔らかい部分のど真ん中を刺して、何度聞いても泣ける。これぞ青春の痛み。そしてこの感覚がまるごとドラマの魅力とリンクしているように感じる。

 『野ブタ。』は、高校生活を円滑に、学内の人気者でいるために、表面を繕って生きている修二と、マイペースのお坊ちゃん彰が、自分の良さを上手に表現できずイジメにあっている少女・信子(堀北真希)をプロデュースして学内の人気者にしていくというもの。

 髪で顔を隠しうまく笑えない信子が徐々に変わっていく解放感と救済感を描く一方で、毎回、最後に修二がちょっと不穏なモノローグをつぶやき、そこから「青春アミーゴ」がかかる。主人公・修二の内面をミステリー仕立てにした続きが気になる仕掛けが見事で、毎回、ドラマが終わって、面白かったーという気分と同時に、どこかモヤモヤが残るところにこのドラマの妙味はある。

 暗い少女を魅力的に変化させていくゲーム感覚、学内にはびこる虐めに対抗する明るい前向きさというポジティブ面の裏側で、じわじわとあぶり出されていく修二のほの暗さ。自分が優秀なゆえに周囲の人々を軽んじ、器用に彼らをあしらいながら立ち回っていた修二の生き方は、観ている側の鏡にもなる。

 昔ばなし『王様の耳はロバの耳』のように、いつだって私たちは、社会に適応するために本音を隠す技術が求められている。2005年から15年経ったいま、さらにその傾向は顕著になっているといっていいだろう。SNSが発展して、匿名の発言権が強くなり、裏アカを持つのが当たり前のようになった。相手と違う意見を言って険悪になりたくないから、なんでも「そうですね」と受け止めて、好きではないものを「好き」、面白くないものを「面白い」とその場をやり過ごしながら、本当の気持ちは、裏アカや鍵アカにそっと吐き出したり、匿名アカで厳しく批判したりして、心のバランスをとっている。いまは、『野ブタ。』の前半に描かれたような直接的な虐めよりも、こういう内面の分断のほうが広がっているような気さえする。だからこそ、『野ブタ。』がいま放送されても色褪せることなく高い支持を得るのではないだろうか。

 そんな悩みを全力で演じるメインキャストの亀梨和也、山下智久、堀北真希、戸田恵梨香(修二の彼女・まり子役)といまをときめく人気者の若き姿がまぶしい。山下演じる彰だけ、原作小説にはないドラマのオリジナルキャラ。修二と対照的なマイペースさで、人に何を思われようと気にしない彰さえ、第6話で、次第に学内で受け入れられていく信子に対する想いが募ってきて、「野ブタ(信子のあだ名)がみんなのものになるのはいや」「俺だけのものにしたい」と言い出す。それによって修二は自分の心と向き合っていく。修二と彰のコンビのバランスがよくできている。

 亀梨と山下は現在、ジャニーズ事務所の中堅として頼もしい存在感を示しているが、15年前は初夏、ぐんぐん伸び盛る新芽のようだった。修二と彰がおのおのビルの屋上にいる場面は、ある種の野心や自信をもちながら世界を上から客観的に眺めているような怖いもの知らずの若さを感じる。だが新芽のエネルギーは強いものの物体としては柔らかくてちょっと弱いところもある。若さの両義性の絡み合いは骨の成長のように痛みを伴う。やんちゃだけど脆い若さそのもののような亀梨と山下を、ロケ撮影多めで、当時の街の様子を残しつつ撮影し、街と俳優たちの少年期のいい記録にもなっている。第1話の冒頭、平行して走っている2本の電車が交錯する瞬間もエモい。2本の電車は修二と彰を表しているのか。はたまた修二と信子なのか。

 人気絶頂のころ、結婚して引退してしまった堀北と、着実に大人の俳優として成長を見せる戸田恵梨香のぷくっとした頬の愛らしさは眼福。イジワルな女子生徒たちが描かれるなかで、彼女たちはひたすら純粋に善意の象徴として描かれている。信子のことが好きな男子(若葉竜也)と信子、修二とまり子がダブルデートして、それを彰が尾行する第5話が4人の個性がめいっぱい出ていて面白い。

 未熟な部分も込みでその日その日を必死で生きている10代のひな鳥のような柔らかな心を追ったドラマのなかで、謎の書店の店長役の忌野清志郎や、話のわかる教頭先生役の夏木マリなど、素敵な大人たちがちょっと変人に描かれているところも魅力。周囲の目をいかに気にせず己の思ったとおりに生きていくことができるか。当たり前のようになっている社会の仕組みはほんとうに正しいのか。いま、芸能人もSNSを通して政治にも意見を表明する人が増えてきたけれど、清志郎はずっと、歌を通して問いかけていた。清志郎を知らない人も楽しめるドラマではあるが、知っている人にはやっぱり切なくなるドラマである。(木俣冬)

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