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橘ケンチ×秋山真太郎が語る、“紙の本”の色褪せない魅力 「本は装丁も含めてひとつの作品」

リアルサウンド

19/9/27(金) 12:00

 EXILE / EXILE THE SECONDのパフォーマーとして活動する傍ら、LDH ASIAの一員として日本の伝統的な魅力を発信したり、読書の面白さを伝える「たちばな書店」というプロジェクトを行うなど、幅広い分野に進出している橘ケンチ。劇団EXILEのリーダーでありながら、映画『僕に、会いたかった』の共同脚本を自ら手がけ、7月には自身初の短編小説集『一年で、一番君に遠い日。』(キノブックス)を上梓した秋山真太郎。ほぼ同時期にLDH JAPANに所属し、年齢も近い二人には、熱心な読書家であるという共通点もある。そんな二人は、なぜ読書に心惹かれ、その読書体験を自らの活動にどう反映しているのか。新サイト「リアルサウンド ブック」のオープンを記念して、EXILE TRIBEを代表する読書家である二人に登場してもらい、“紙の本の魅力”について語り合ってもらった。(編集部)

橘「秋真は僕より少し年下だけど、同じ目線の仲間」

――今日は「たちばな書店」という読書プロジェクトを運営しているケンチさんと、今年7月に『一年で、一番君に遠い日。』という小説を上梓した秋山さんに、本について語ってもらいたいと思います。本題に入る前に、二人の出会いについて教えてください。

秋山真太郎(以下、秋山):初めてケンチさんに会ったのは、まだケンチさんがLDHに入る前でした。当時、僕が所属していた事務所の先輩が、クラブで演劇をするということで見に行ったら、胸のあたりまでドレッドヘアーの派手な人がいて、それがケンチさんでした。僕は上京したばかりだったので、「東京にはすごい人がいるんだな。この人、どこでバイトしてるんだろう?」と思って(笑)。それがすごく印象的だったので、当初は僕が一方的に知っている感じでした。

――実際、ケンチさんはどこでバイトしていたんですか?

橘ケンチ(以下、橘):その頃はLDHが初めて出した、MATSUさんディレクションの「LMD」というアパレルショップがあって、そこで働いていました。その関わりの中でクラブでの演劇の話を聞きつけて、見に行ったんじゃないかな。お互いにちゃんと面識ができたのは、その後すぐです。僕がEXPGでインストラクターをやらせてもらうことになって、演技も始めて。秋真(注※秋山真太郎の呼び名)はすでに役者をやっていたので、演技に関しては僕の先輩ですね。だから、秋真は僕より少し年下だけど、同じ目線の仲間という感じです。出会ったのは25歳の頃だから、もう15年くらいの付き合いになります。

秋山:一緒に舞台もやりましたね。

橘:二人で共演した初舞台は、MATSUさんとÜSAさん主演の『CROWN 眠らない夜の果てに…』という作品でした。僕のセリフは一行しかありませんでしたが、それすらどうやって言えばいいのかわからなくて。ほかの人が喋ってるときは、どこにどう立ってたらいいんだろう? という感じで。

秋山:ケンチさん、DVDではカットされましたが、バック宙していましたよね?

橘:着地に失敗して、青山劇場にすごい音がこだましたんだよね……。

秋山:それで劇場が静まりかえって、そこは収録されなかったっていう(笑)。

――『魍魎の匣』で堂々たる主演を務めた橘さんにも、そんな時代があったんですね。

橘:長いセリフもちゃんと言えるようになりました(笑)。

秋山「僕らの世代は通じ合う部分が多いにあります」


――二人はお互いの本に関する仕事についても、普段から色々と話し合っているのですか?

橘:そういう話をするようになったのは、ここ1、2年くらいだよね?

秋山:2017年にLDHが新体制になって多くの関連会社が立ち上がり、世界展開を視野に入れることになったタイミングで、僕ら所属タレントもプレイングマネージャーのような役割でビジネスに携わるようになりました。そこで、自分なりに新しい分野を開拓しなければいけないと考えて、脚本やプロデュースといった分野だけではなく、幅広く勉強するようになったんです。自分は俳優業しかしてこなくて不安もあったので、ビジネス本も読むようになりましたし、自分たちのアイデアで新しい試みができないか、ケンチさんとも色々と話をするようになりました。

橘:プロデューサー業には昔から興味はありました。だから、LDH ASIAのプロデューサーの一人として、日本文化にまつわる仕事をさせてもらえるようになったのは嬉しいです。僕や秋真のほかにも、TETSUYAがLDH kitchenでコーヒー店「Amazing Coffee」をプロデュースしたり、NAOTOがLDH Apparelで「STUDIO SEVEN」というブランドを立ち上げたり、(小林)直己がLDH USAでアメリカでの活動に携わったりしています。自らビジネスに携わる30代後半以上のEXILE TRIBEメンバーは、情報を共有するためにコミュニケーションをとる機会が多くなりました。僕らは、LDHとしてのビジネスとアーティストの意向をつなぐ位置にいる感じです。

秋山:同じ会社でタレント業やアーティスト業をしているという共通項があるから、僕らの世代は通じ合う部分が大いにあります。僕らの発想は、表に立ってエンタテインメントに携わってきたからこそ生まれるもので、アイデアを共有するとみんなその感覚がわかるから、「いいね!」という肯定からスタートします。そこから、いかに実現していくかを考えるというやり方です。そうして練ったアイデアを裏方の仕事を専門にしてる人に相談すると、実現するに当たってどんなリスクがあるのかをしっかり精査してくれる。そういう流れができつつあります。

――そうしたコミュニケーションを取る中で、お互いに本を勧めあったりもするのですか?

橘:本屋さんに行って、「これ、秋真は知ってるかな?」と思ったらLINEで共有したり、日常的に情報交換はしています。秋真は盆栽が好きなので、盆栽師の平尾成志さんの本を見つけたら、写真に撮って送ったり、好きそうな本があったら購入して渡したり。

秋山:僕もこの前、六本木に日本茶バーがあるのを知って、ケンチさんにLINEを送りました。情報の共有は大事ですね。

橘:秋真が作ってくれたLINEグループには、秋真と俺とNAOTOと直己とTETSUYAとAKIRA、KUBOちゃん(KUBO-C)とAyaちゃん(Dream Aya)とSHOKICHIが入っています。

秋山:でも、これだけの人数になると、なかなかみんなで集まるようなスケジュールは組めなくて、僕だけが突っ走って色々投稿している感じで、ちょっと恥ずかしくなっています(笑)。

橘:あれはあれで良いと思うよ。必要になったら、ちゃんと機能するときがくるはず。

橘「秋真のアイデンティティが滲み出た作品」


――秋山さんは『一年で、一番君に遠い日。』を執筆するにあたって、ケンチさんに相談をされたそうで。

秋山:二人とも本好きという共通項がありましたし、ちょうどケンチさんが「たちばな書店」の朗読イベントで良いショートショートの作品を探していたので、作家の田丸雅智さんを紹介したんです。その時は、僕自身もショートショートを書き始めていたタイミングだったので、「ある程度の文量になったら、本にして出版したいんです」と相談しました。

――ケンチさんは出来上がった同書を読んで、どんな感想を抱きましたか?

橘:秋真のことはよく知っているから、客観的に読むのは難しかったけれど、だからこそ彼のアイデンティティが滲み出た作品であることは強く感じました。全編を通じて、「役者」「東京」「自分の武器」という3つのテーマが描かれていると感じました。物語によって文体を変えていて、そこに個性を感じました。作品によって演じ分けているような印象もあり、デビュー作ならではの新鮮さもある。

秋山:そういう風に読んでいただけたのは嬉しいです。作品ごとに文体を変えるのは、すごく意識したポイントでした。ジャンルを問わずにいろいろな本を読んできたので、その影響があったと思います。Twitterで感想を読んでいても、その意図を汲んでくれる感想は多かったです。読者の反響というところでいうと、自分ではわかりやすくするために、あえてあまり説明をせずに書き進めた物語に対して、少しわかりにくいという感想があったりと、今後の執筆の役に立ちそうなものもたくさんありました。読み返せば反省点も多いのですが、みなさんの感想を真摯に受け止めて、今後の執筆に活かしていきたいです。

――出版後は二人でトークショーも開催していました。今後も二人でコラボ企画を行う予定はあるのですか?

橘:「たちばな書店」で読み聞かせの配信をしているんですけど、そこで秋真の本を二人で朗読しようという企画を考えています。僕が本の中から作品を選定して、秋真に提案している段階です。読み聞かせで映える作品はどれかという観点で考えています。

――演じるという観点だと、ケンチさんは「褒め師」が気になっているとのことでした。

橘:おそらく、自分が一番ハマる作品かなと。

秋山:「褒め師」に関しては、舞台や映像にするなら主人公にどんな衣装を着せてどんな小物を持たせるかまでイメージしているんですけれど、小説の場合はある程度、読む人の想像力に委ねたいと思ったので、あまり細かな描写はせずに、なるべく会話だけでストーリーを展開させています。実際にビジュアルを作ると、また違ったイメージの作品になると思います。

秋山「本は装丁も含めてひとつの作品」


――今現在、二人が読んでいる本についても教えてください。

橘:スティーブン・R・コヴィーの『7つの習慣』(1996年)を読んでいました。ビジネス書/自己啓発書の名著とされる一冊で、自分の中に原則をしっかり作っておけば、それに基づいた人格ができていくし、すべての出来事の原因は自分の中にあると捉えて、外に責任を求めるべきではないと説くものです。それを読むと、頭の中が整理されて、タスクが明確になる感覚になります。

秋山:僕は小説からビジネス書までなんでも読むタイプで、今日は稲垣栄洋さんの『生き物の死にざま』(2019年)という本を読み終わりました。生き物が最後、どんな風に一生を終えるのかが描かれた一冊で、とても興味深かったです。直木賞、芥川賞、本屋大賞といった大きな賞の作品は必ず読みますし、書店員の新井見枝香さんが選書している新井賞もチェックしています。絵本も好きで、特にショーン・タンという作家の本は芸術的で素晴らしいので愛読しています。

――今は電子書籍やオーディオブックもありますが、そうした中で紙の本にはどんな価値があると考えていますか?

橘:僕は電子書籍も読みますが、一枚一枚ページをめくる感覚が好きで、プロダクトとしての本に魅力を感じるので、結局、紙の本を選ぶことが多いです。新しいテクノロジーがどんどん出てきても、本好きはいなくならないと思います。

秋山:本は装丁も含めてひとつの作品だと思います。僕も今回、本を出版するにあたって、モノとしても魅力的な作品にしたいと考えて、装丁にはこだわりました。原稿を送ってあとはお任せという感じではなく、実際にデザイナーさんの仕事場を訪れて、一緒に文字の色を考えたり、絵を書いて持っていったりして、その中でデザインを組んでもらいました。本は映画と一緒で、能動的に選んでお金を払って取りにいく情報だと思うんです。本に書かれた内容を理解するには、読解力や想像力が必要で、読者側にも努力が求められます。その意味でハードルが高いメディアですが、だからこそ価値があるのが紙の本なのだと思います。

――二人は読んだ本から影響を受けるタイプですか?

橘:僕は大いに影響を受けます。だから毎日読むし、「この人がこう感じるのなら、僕の考えもあってるのかな」と、答え合わせをするようなときもあるし、精神的なパワーをもらうこともあります。だから、ビジネス書や実用書を読むのが好きなんでしょうね。人格形成にも役立つと思うし、存在として大きいです。

秋山:知らないことが多いので、本を読んで勉強して活動に活かしています。小説の場合は、原作を探しているというところもあるので、映像化したい作品を探すという作業も兼ねながら読んでいます。最近は、読んでいないと不安になるくらいで、それなのにどんどん積ん読が重なって行く状況(笑)。一度、全部リセットして、シェイクスピアとか万葉集とか旧約聖書とか、人類史に影響を与えたような古典を読んでみようかと思ってるところです。

橘:僕と秋真で、本との関わり方がぜんぜん違うのも面白いよね。僕は自分の人生に役立てたくて本を読んでいるけれど、秋真はもっと純粋な好奇心で読んでいる。でも、本好きにはどこか通じるところがあって、先日「LDH TV」の収録で光浦靖子さんと高知に行ったんですけれど、光浦さんも本好きということでお互いに親近感がありました。きっと本好きは、本を読んで新しい発見をすること自体が幸せなんだと思います。アメリカの投資家のウォーレン・バフェットという人は、一日500ページ本を読むことを推奨していて、大富豪なのに小さい家に住んでいるんです。彼にとっては、豪邸に住んで贅沢に耽ることより、本をたくさん読むことの方がずっと興味深いことなんだと思います。読書はそういう風に、自分を崇高な精神状態にしてくれる力もあるのかもしれません。

――二人は今後、本を通じてどんなことをやっていきたいですか?

橘:EXILE TRIBEならではのビジネス本を出すのも面白いと思うし、本自体をプロダクトとして捉えて、アートワークを重視した本も作ってみたいですね。飛び出す絵本のような、ページをめくると仕掛けがあって遊べる本にも興味があるので、そういうのを作るワークショップみたいなこともやってみたいです。オーダーメイドで一冊から本を作れるような書店も面白いかなと。本屋にいって、ショートショートを自分で何篇か選んで、表紙も選んで、その場で一冊にまとめてもらって自分だけの本を持ち帰られるようなことができたら良いですよね。

――世界に一冊しかない本になるし、ギフトにもよさそうですね。

秋山:一話単位で気軽に買えるのは、作家にとってもプラスになりそうですね。僕自身はやはり、長編を書きたいです。今回書いてみて、原稿を書き終わってから本を出すまで、思いのほかスピーディーにできるとわかったので、2020年のオリンピックが終わった頃には出したいと思っています。2020年はLDHとしても「LDH PERFECT YEAR 2020」という年間を通じた祭典を開催するので、僕らも本というジャンルで一緒に盛り上げていけたらと考えています。


(取材・文=西森路代/写真=三橋優美子)

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