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「人ってなんだろう? 仕事ってなんだろう?」森ガキ侑大監督が語る映画『人と仕事』

ぴあ

『人と仕事』 (C)2021『人と仕事』製作委員会

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有村架純、志尊淳が出演するドキュメンタリー映画『人と仕事』が8日(金)から公開になる。本作は、新型コロナによって人々の暮らしが大きく変わってしまった中で、ふたりがさまざまな人に話を聞き、日本の"今”を体感していく様を描いている。監督を務めた森ガキ侑大は、カメラを回しながら迷い、考え、変化を遂げる中で繰り返し自分自身に問いかけたという。「人ってなんだろう? 仕事ってなんだろう?」

数々のCMやMVを手がけ、『おじいちゃん、死んじゃったって。』(17)で長編監督デビューを果たした森ガキ監督は、『さんかく窓の外側は夜』(21)に続く新作の劇映画を準備していた。しかし、新型コロナウイルスの影響により断念。そこで河村光庸エグゼクティブプロデューサーから予定されていた映画に出演するはずだった有村、志尊とドキュメンタリー映画を制作する企画を持ちかけられる。学生時代にドキュメンタリーを制作していた森ガキ監督は「本当はもうドキュメンタリーは撮りたくなかったんです」と振り返る。

「苦しいですし、現実と向き合わなければならないですし、絶対に誰かから叩かれるじゃないですか(笑)。だからもし再びドキュメンタリーをやるとなったら絶対に苦しい想いをするなとは思ったんですけど、それよりも先に"コロナ禍の現実はいましか撮れない”と思ってしまったんですよね。そうなったら自然と“やります”と言っていて。本当は家でゆっくりしようと思ってたんですけど(笑)身体は表現したいと思ったんでしょうね」

そこで監督は、保育士や介護福祉士、農家など“エッセンシャルワーカー”と呼ばれる人たちの現状をとらえることから制作をはじめた。しかし、森ガキ監督は「エッセンシャルワーカーがいて、リモートワーカーがいて……って入り口から撮影を始めたんですけど、よくよく考えていくと、どちらも同じ“人間”なんですよね」と笑顔を見せる。

「だから、特定の職業に囚われていると前に進めなかったんです。そこで河村プロデューサーにも何度も相談して、自由に取材をしても良いようにしてもらって、その中で次第に人ってなんだろう? 仕事ってなんだろう?ってことを考えるようになってきた。そうなった時に、誰に話を聞きたいのか?何を聞きたいのか?被写体が明確になっていきました」

そこで監督がカメラを向けたのは、コロナ禍の日本で孤独やさみしさ、不安を抱えた人々の姿だ。森ガキ監督は『おじいちゃん…』では祖父の死をきっかけに集まった家族がそれぞれに感じている疎外感や孤独を、『さんかく窓…』では霊が見えたり、呪いをかけることができる力を持ってしまった人間の孤独を描き出してきた。その視点は本作にもしっかりと継承されている。

「みなさんには本作は異色作だと思われているかもしれないですけど、その視点は変わらないですし、そこは映画に“出てしまう”ものなんでしょうね。孤独な人たちをずっと見つめてきたという自覚はありますし、自分自身も誰と寄り添って生きていくんだろうと常に考えています。だから、人間って一体、なんだろう?と常に考えてはきたんですけど、コロナによってみんなの価値観が変わった気がする。だからもう一度、自分の生き方を考え直す意味でこの映画に着手した部分はあります」

有村架純、志尊淳と共に迷い、考え続けた映画づくり

森ガキ侑大監督

本作は“コロナ禍”を描いたドキュメンタリーだと思われがちだが、その視点や、そこで描かれるドラマ、語られる声はコロナ禍に突入するよりも前から存在していたものだ。貧困、孤独、分断、他者に対する無関心……すべてはずっとそこにあった。

「コロナ禍というのはひとつの“通過点”ですよね。この映画はコロナによって浮き彫りになった社会の問題を描いているし、コロナが始まるよりも前から社会の分断はあったと思うんです。だから、その部分はコロナに関係なくずっと変わらずあるもので、みんなで考え直さなければいけないテーマだと思っています」

ただ、本作はドキュメンタリーだ。脚本でキャラクターを作り込むこともできなければ、結末を用意して撮影に臨むこともできない。さらに有村架純と志尊淳は“役を演じる俳優”ではなく、コロナ禍を生きるみなと同じ“人間”としてカメラの前に立つことを求められた。ふたりは誰かの話を“聞く”だけではなく、時にカメラを向けられ、いま思っていることを“話す”ことを求められる。

「なので正直、撮影が始まる前は、ふたりには嫌われるだろうなと思っていました。すごく好きな俳優さんだからこそ、そこはすごく苦しかったです。でも、この映画を良いものにするためには、彼らにイヤな質問も投げかけないといけない。ふたりきりで話してもらう場面も撮影したんですけど、その場では“この映像は絶対に使わないでほしい”って言われたんですよ。でも作品全体を考えると、この映像はあった方が良い。ふたりはきっとそのことを理解してくれるはずだと思ったので、その映像を使って編集したものを『一度、全体を観てほしい』ってお願いしたら、理解してくれました」

劇映画の場合、監督の判断は“最終決定”になることが多い。この映画はどうなるのか?この映像は使われるのか?捨ててしまうのか?すべては監督が判断する。しかし、本作で森ガキ監督は「ふたりに嘘をつかないで、正直にすべてを言う」ことを決めて、撮影を進めたという。

「だから撮影の途中でふたりから『この映画はどうなるんですか?』って聞かれても『わからないんです』と答えました。それは苦しかったですね。映画監督として“わからないです”ということは正直、怖い。それは劇映画では監督の自分が責任をとらないということですよね。だから劇映画では“わからない”とは絶対に言わないですけど、今回は“わからない”ということがひとつの演出。僕も迷っていて、ふたりも迷っている。それでいい。それも演出なんだと思ったんです。だから僕もふたりには嘘をつかないで、正直にすべてを言うことは決めていました。結果的にふたりはある段階から、すべてをこちらに委ねてくれた。それはすごくありがたかったです」

森ガキ監督は、これまでの劇映画で描いてきた視点や想い、問題意識をしっかりと引き継いで、ふたりの俳優とコロナ禍の日本で共に迷い、人から話を聞き、立ち止まってはまた考え続けた。その過程が本作には詰まっており、そこで描かれる、語られる内容は現代を生きる誰もが知っている、誰もが感じているものだ。

「人と仕事のことをずっと追い続けてきて、エッセンシャルワーカーとかリモートワーカーとか関係なく、仕事というのは“生きること”なのかな、と思うようになりました。仕事とは生きること、生きていることが仕事。そう考えた時に、これから生きることや、仕事を探していこいうとしている子どもたち、未来を生きる子たちが今、どのように生きているのかが観たくなったんです」

こう語る森ガキ監督が本作のラストでどんな風景を描くのか? 映画館のスクリーンで監督とふたりの俳優と一緒に“その場”に立ち会ってもらいたい。



『人と仕事』
10月8日(金)公開
(C)2021『人と仕事』製作委員会

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