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台湾のMaydayが日本で本格始動 訳詞担当のいしわたり淳治が、ディープな歌世界を読み解く

リアルサウンド

13/11/18(月) 12:27

 北京名物の鳥の巣スタジアムで計20万人を動員するなど、アジア圏域で圧倒的な知名度と人気を誇るスーパーバンド、Mayday。11月13日にリリースされた日本初のベスト盤『Mayday✕五月天 the Best of 1999-2013』では、当代きっての売れっ子プロデューサーの一人で、作詞家でもあるいしわたり淳治氏が訳詞を手がけている。ロマンあふれる歌詞でも注目を集めるMaydayの“歌世界”を、いしわたり氏はどのように受け止め、日本語詞へと置き換えたのか。インタビューではMaydayの魅力から、中国語詞と日本語詞の違いまで話が及んだ。

20131118ishiwatari2.jpg来春には映画『Mayday 3D LIVE MOVIE 「NOWHERE ノアの方舟」』の全国ロードショーも予定されている。

彼らはコミュニケーションとして音楽をやっている

――今回、いしわたりさんはMaydayの訳詞を手がけられましたが、彼らの歌の世界観と、日本で活動するミュージシャンの曲を比較して、歌詞のテーマや言葉の使い方などで違いを感じますか。

いしわたり:今回はベスト盤なので、Maydayのいろいろな時代の試行錯誤がそれぞれの曲に反映されているのでしょう。だから一概には言えませんが、失恋の歌が多い、という印象はありますね。K-POPの仕事をしたときにも失恋の歌が多いと思いました。

――失恋の歌が多い、というのは興味深いですね。恋愛における悲しみの側面を描く傾向があるのでしょうか。

いしわたり:例えばK-POPの話をすると、両極端ですね。すごく軽快なポップスと、思いっきりバラードです。どちらであれ、曲のテーマは恋愛がほとんどです。そういうところはアジア特有の感性だと僕は思います。日本の若いロックバンドに多い、“部屋のベッドで悶々と自問自答している”というような歌は少ないですね。

――たしかに日本のロックバンドの曲では、孤独がテーマとなった歌詞が多いかもしれません。

いしわたり:コミュニケーションがうまく取れずに悩む様が、ロックのテーマとして選ばれがちですね。Maydayがやっているのは、そういう出発点ではないロックだと思います。

――恋愛を通して、コミュニケーションをテーマ化していると?

いしわたり:そうです。むしろ、コミュニケーションとして音楽をやっていると言えるかもしれない。また、ひとつのメッセージを何度も畳みかけてくる強さがありますね。たしかにサビもだいたい同じことを繰り返し歌うし、風景描写もあまり多くないです。 日本のロックの歌詞が「会議室で考えた」とも言える、内向きな歌詞であるのに対して、Maydayはもっとストリートっぽいというか、「現場で生まれた」テーマ、人とコミュニケーションを取っていく中で生まれたテーマを、他者に投げることを大前提で歌っているように感じます。その違いは大きいでしょうね。

――そこには文化の違いもあると?

いしわたり:そうですね。日本では衝突は美徳ではありません。推測ですが、おそらく中国語圏ではそういうことではなくて、自分をしっかり持つ、出す、ということが大切なのだと思います。

――歌詞の流れや、曲の構成においても違いは感じますか?

いしわたり:日本語で歌詞を作る場合は、サビのメッセージから逆算して出発地点を決めることが多いのですが、Maydayの楽曲はメッセージに近いところから出発してサビに突入する印象がありますね。他の中国語圏のロックバンドに明るくないので一言では言えませんが、例えば「瞬間少年ジャンプ」という曲は特徴的です。サビが「ジャンプ」ということであれば、そこまではジャンプするまでの描写で、と考えそうなものですが、Bメロでもうジャンプしています。こういう階段の踏み方は日本の特に歌謡曲ではあまりないですね。日本の歌詞にはもう少しストロークがあるような気がします。あと、1番と2番のAメロが同じ歌詞、ということも日本ではなかなかないので新鮮でした。

――では、訳詞するにあたっては、そうした構成を踏まえながら、曲が持っている力強さを再現できるように仕上げをした、ということでしょうか。

いしわたり:内容が歪んでしまっては意味がないので、貫きたいスタイルやメッセージが、ぶれずに伝わり、目で読んだときに意味が明快で、かつテンポ良く進めるように、と気をつけました。また、中国語に馴染みがない人も多いので、どうしても聴きながら「このへんを歌っているな」と楔を打てるタイミングが少ないと思います。曲や歌詞の進行上どこで「。」がついているか、少しでもわかりやすくなるように、ということも考えました。

――「ひとり上手にならないで」「瞬間少年ジャンプ」など印象深いタイトルも多いですね。意味は原題に沿ったもの?

20131118ishiwatari.jpg少女時代やOKAMOTO’S、Superflyなど、数多くの人気曲の作詞を手掛けてきたいしわたり淳治氏。

いしわたり:字面は大事なので工夫しつつ、なるべく同じ意味になるようにしています。日本語と似ていても、言葉の意味が違うこともありますからね。たとえば「倔強(屈強)」という言葉は、マッチョなことではなくて精神的な意味で、日本語の「意地」のような意味だそうです。

――歌詞の内容で特に興味深かった点は。

いしわたり:別れた彼女に対して「僕の望みは君が幸せになってくれることだ」というような内容の歌詞がいくつかあります。その気持ちがわからない人は日本にもいないと思うんです。でも、日本の別れをテーマにした曲は「辛い」「悲しい」「忘れたい」までは多いですが、その先の優しさまでを歌う日本人は実は少ないです。新鮮でしたね。

中国語は、日本語よりもロックと相性がいい

――なるほど、一歩踏み込んで描いていることですね。同じテーマであっても、「自分だったらこう書くかな」と感じた点もあったのでは?

いしわたり:それはたくさんありました。例えば「孫悟空」という曲で、「沙悟浄は植毛でハゲを直して」って、あんまり……そっちにいかないですよね。そこ埋まっちゃったら、河童じゃないですから(笑)。そのシニカルさもMaydayならではのウィットなんでしょうね。それから、「君を一人にさせたくない」「君一人でこの世界の残酷を受け止めるだなんて」。そういうことを言う人は日本にあんまりいない。「もっといい人が現れたら 次の旅路は もっと幸せになるんだよ」「僕が一人でいることなんか忘れて」。何重にも達観した視点からメッセージが送られてきている印象ですね。

――もうひとつ伺います。日本のロックの歴史では、日本語をいかにロックのフォーマットに乗せていくか、というトライアルが繰り返されてきました。Maydayも英語圏ではないという意味では同様で、中国語をどのように乗せるか、ということは考えてきたと思うのですが。

いしわたり:日本語は母音がほとんどの発音についているので、特別に相性が悪いのだと思います。それに比べると中国語は、ロックと相性はいいですね。中国語のロックは、僕達には少し早口に聞こえますね? それは、一音節に乗せられる言葉の量が多いからだと思うんです。

  僕自身が作詞の仕事をするときも、日本語の難しさを感じることはあります。例えば海外の作曲家が作曲した歌は、だいたい英語で仮歌が入っていて、それを聞き取って日本語にすることが多いのですが、英語じゃないとかっこよさが出ない音符もあります。そういうものを全て拾い上げると歌として忙しくなってしまうので、あえてベタッとつぶして日本語っぽくしたり、逆に英語らしさを生かしたり……という設計図は作りますね。桑田佳祐さんのように、全て英語のように歌うとよく聞こえる、というアーティストは実は少ないのです。元が英語で入っていたからといって、必ずそのグルーヴ感を再現しなければいけないわけではなく、思い切って音符の量を減らした方がいいメロディで聞こえる、歌いやすくて歌詞が入ってくる、ということもあります。そこはケースバイケースですね。

――なるほど。最後に、いしわたりさんにとってのMaydayの魅力とは?

いしわたり:メッセージの発信力が素晴らしいと、映画(『Mayday 3D LIVE MOVIE NOWHERE ノアの箱舟』)を観て特に感じました。それがキャラクターなのか、バンドのカラーなのかまだわかりませんが、『ついていこう』と思える何かがある。求心力みたいなものですね。それはきっと、全ての曲に流れている彼らの「芯」のようなものがぶれていないからだと思います。それから、うまく言えないけれど「本物感」。一目で「これは本物だ」とわかる、付け焼き刃では決して持てない何かがあるんです。

 僕はエンターテインメントがアジアをつなぐとしたらそれは素晴らしいことだと思うので、今回のようなケースがもっと増えていってほしいと本当に願っています。オリンピックがあそこまで盛り上がっていて、スポーツに国境がないのであれば、音楽も同じことができるはず。音楽にも本当の意味で国境がなくなるといいですね。
(取材・文=神谷弘一)

20131118ishiwatari4.jpg『Mayday 3D LIVE MOVIE 「NOWHERE ノアの箱舟」』ジャパンプレミアでの様子。会場にはflumpoolのメンバーも登壇し、Maydayのメンバーに花束を贈呈した。

■映画『Mayday 3D LIVE MOVIE 「NOWHERE ノアの箱舟」』
2011年からスタートし、これまで約230万人を動員しているワールドツアー『MAYDAY NOWHERE World Tour』の様子を収めた3D映画。2014年の春より、全国順次ロードショー予定。

Mayday Japanese Official Website

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