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和田彩花の「アートに夢中!」

ニューヨークが生んだ伝説の写真家 永遠のソール・ライター

毎月連載

第34回

現在、Bunkamura ザ・ミュージアム(東京・渋谷)で開催中の『ニューヨークが生んだ伝説の写真家 永遠のソール・ライター』(3月8日まで)。2017年に同館で日本初の回顧展が行われ、大きな話題を呼んだソール・ライター(1923-2013)。画家として出発し、1950年代からニューヨークで第一線のファッション写真家として活躍したライターは、1980年代に商業写真から退いた後、58歳で世間から突如姿を消し、89歳でこの世を去った。しかし2006年、ドイツの出版社から刊行されたカラー作品集で再注目を集め、その天性の色彩感覚は「カラー写真のパイオニア」と呼ばれ、人々を魅了している。同展は世界初公開作品を含む写真やカラースライドをはじめ、豊富な作品資料などから、ライターの知られざる一面を紐解くもの。和田さんが感じたライターの写真の魅力とは。

記録的なモノクロ写真

2017年に開催された『ニューヨークが生んだ伝説 写真家 ソール・ライター』展を見た時も、この人の写真好きだなって思ったんです。だから今回また見ることができるのは嬉しかったですね。

特にライターの作品は、気負うことなく、サラッと見られるところが好きです。

前回と今回で、ずいぶんと自分の作品の見方が変わりました。いままではただ、綺麗だな、好きだなって思って見ていたのですが、感覚的な見方だけではなくなったというか。

ソール・ライター《レミィ》1950年頃、ゼラチン・シルバー・プリント ⒸSaul Leiter Foundation

基本的に彼のスナップ的なモノクロ写真というのは、街中の瞬間を捉えた、記録写真のようだと思うんです。きちんと被写体を決めて、ピントをあわせて、撮るぞって感じがしない。ブレていることもあるし、ピントがまったく合ってないものもある。

展示風景

そう思いながら見ていたのですが、展示されていたコンタクトシートを見ると、実は連続して撮影されていることに気付かされたんです。

こういうコンタクトシートを一つの作品として見た時に、どう撮ったのかとか、どういう位置から撮ったのかとか、いろんなことがわかるんですよね。そこから構図の面白さとかも見えてくるので、記録的なのに、ただの記録に収まっていない感じがします。

特に最初の方に展示されていたモノクロ作品を見ていると、そういったライターの瞬時に撮影され、かつ、連続した目線が面白いなと思いましたね。でもモノクロから今度はカラーに目を移してみると、また印象や視点などいろんなことが変わってくるんです。

作り込まれたカラー作品の面白さ

特に商業的なカラー作品が面白いなと思いました。一瞬、スナップ写真と同じように記録的に撮影されているかと思わされるんですけど。

でもやっぱりモデルさんを使って、服を見せたりする商業写真ではそうはいかない。そこには必ずどう撮るか、どう撮ったら綺麗か、よく見せられるかという意図が入ります。モデルさんも撮られることがわかってますしね。だから記録的には撮れない。

そうすると、意図的に画面が作られていることが、比較するとよくわかるんです。それが本当に面白くて。こんなに違いが出てくるんだって。

ソール・ライター《『Harper's BAZAAR』》1959年2月号、発色現像方式印画
ⒸSaul Leiter Foundation

その中でも気になったのが、『Harper's BAZAAR』で使用されたこの作品です。わざわざモデルさんよりも前にパネルのようなものを入れている。撮影している時に偶然写り込んでしまった? とも考えられますが、どう考えても不自然ですよね(笑)。でも街中でありそうな一瞬を切り取ってもいる。ああ、こういうことあるよねって。わざと記録的にしようとしているところが、ライターの技であり、個性であり、面白さの一つだなって思いました。

そのほかにも、扉や鏡、ショーウィンドウ、格子、そして覗き見するように窓を効果的に使用したりしている。発想が面白い。それがまたいい効果を生み出し、写真をさらに面白くしているなって思いました。

でも実はその商業的なものも、スナップ的な写真となんら変わりなく撮影されていることが、ほかのコンタクトシートからわかるんです。しかも、モデルさんを盗み撮りしているような、オフショットのようなコンタクトシートも残っているから面白いですね。

画家としての出発
写真家としての成功

ソール・ライター《セルフ・ポートレート》1950年代、ゼラチン・シルバー・プリント
ⒸSaul Leiter Foundation

最初にも言いましたが、約3年前に見た時と違って、今回は感覚的ではなく、作品をもっと理解できたんじゃないかと思います。色のことや構図、写真の持つ効果とかを。

それにライターという人は、街の効果をとてもよく知り尽くし、それを落とし込むことができる人。特に商業写真は、街をどう使えば画面的に面白いか、人を惹きつけるか、わかってやっているのがよくわかりました。

ソール・ライター《薄紅色の傘》1950年代、発色現像方式印画 ⒸSaul Leiter Foundation

もともと画家として出発したことが、彼の作品の原点にあるのではないかと思います。

ものを見る、捉える視点というのがとても絵画的。本人は写真を撮る時は絵のことを考えなかったとは言っていますが。

でも説明の中に、彼がキュビスムから影響を受けているということが書かれていたんです。それはとてもわかりやすい説明でしたね。確かにいろんな素材を効果的に使って、キュビスムのように多様な視点を写真の中に生み出している気がします。

ライターは「私には哲学はない。私にはカメラがある。」という言葉を残しているのですが、ある意味、写真って、絵画に比べてとっても身軽。その身軽さがライターからは滲み出ているんです。だから彼の作品は誰が見ても身近なものに感じて、その世界にひたれるのかもしれません。そういうところが多くの人を魅了して、ファンを生んでいるのではないでしょうか。

この展覧会を通して、写真ってそんな難しいものじゃないよ、みんなもっと楽しんでって言われているような気がしました。


構成・文:糸瀬ふみ 撮影(和田彩花):源賀津己

プロフィール

和田 彩花

1994年生まれ。群馬県出身。2004年「ハロプロエッグオーディション2004」に合格し、ハロプロエッグのメンバーに。2010年、スマイレージのメンバーとしてメジャーデビュー。同年に「第52回輝く!日本レコード大賞」最優秀新人賞を受賞。2015年よりグループ名をアンジュルムと改め、新たにスタートし、テレビ、ライブ、舞台などで幅広く活動。ハロー!プロジェクト全体のリーダーも務めた後、2019年6月18日をもってアンジュルムおよびハロー!プロジェクトを卒業。一方で、現在大学院で美術を学ぶなどアートへの関心が高く、自身がパーソナリティを勤める「和田彩花のビジュルム」(東海ラジオ)などでアートに関する情報を発信している。

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