立川直樹のエンタテインメント探偵
笠井叡『高丘親王航海記』、沢田研二のライヴ、大阪城公園『SAKUYA LUMINA』……新年早々“トバして”観たエンタメは確実に自分の血肉になっている
毎月連載
第17回
笠井叡迷宮ダンス公演『高丘親王航海記』(C)bozzo
前回はお正月のひきこもり報告だったが、外に出てからは自分でもあきれるくらいにトバしている。
1月6日に大分県竹田市に昨秋オープンした総合文化ホールでDRUM TAOの新春公演に始まり、24日の世田谷パブリックシアターの笠井叡・迷宮ダンス公演 『高丘親王航海記』まで、日記と手帳をチェックしてみると、舞台の上のものから野外のアートイベント、展覧会まで合わせて10本余り。それに加えて『メリー・ポピンズ リターンズ』から『サスペリア』までと、実に振り幅の広い感じで試写も観ているから、こう書くと、いつ仕事をしているのと思われてしまいそうだ。
でも、そうして観たものは確実に自分の血肉になっている。新しいところから遡っていくと。1960年代に大野一雄、土方巽に出会い、舞踏家として活動を始めた笠井叡が演出・振付・台本を担当、天井桟敷とも関わりがあった榎本了壱が意匠・舞台美術・映像・衣裳を担当して笠井叡をはじめとしてBATIKの黒田育世、コンドルズの近藤良平、酒井はな……といった個性ある実力派が勢ぞろいして繰り広げられた澁澤龍彦の遺作『高丘親王航海記』は“水先案内”でも紹介したが、予想以上に不思議な、言葉では形容不可能なアート・エンタテインメント空間が創出されていたし、“宝塚歌劇団”出身の月船さららが主宰する演劇ユニット“メトロ”が“赤坂RED/THEATER”で上演した『陰獣』も舞台でなければ表現不可能なおもしろい演し物になっていた。
10年前の旗揚げからの全作品の作・演出をしている映画界の鬼才・天願大介の江戸川乱歩の原作の扱い方もユニークで、客演のサヘル・ローズも実に魅力的だった。
同じように舞台でなければ表現不可能な演し物ということでは、本当に全速力でトバしている感じの宮本亜門演出・脚色の『画狂人 北斎』と、万有引力の今年の最初の公演『リヴォルヴィング・ランターン ~劇場を運ぶ100人の俳優たち2019年版~』も出色の出来映え。新国立劇場小劇場と、荻窪に新しくオープンしたオメガ東京と場所は違っても出演者たちのアンサンブルのレベルの高さと、舞台美術のユニークさ、映像のうまい使い方という点では、描かれるものは違っていても、おもしろさは抜群で、これだから舞台通いはやめられないと改めて思ったのである。
そして特筆すべきは日本武道館で行われた沢田研二のコンサート、70YEARS LIVE 『OLD GUYS ROCK』。往年のヒット曲『カサブランカ・ダンディ』を何と柴山和彦の弾くエレクトリック・ギターだけのバックで歌って幕が開いてから、ファニーズの時にビートルズを観に来た話から70歳でここにいられて幸せだ、正直者は損もしないけど得もしないというMCなどが入って最後までギター1本をバックにトバし続けるライヴはかなり強力で、新曲もたっぷり、妙にヒット曲に傾ることのない全体の構成は、沢田研二の硬派なスピリットが全開していた。
あとおもしろかったのは、大阪城公園の特設会場で開催されている映像や光で構成されているナイトウォーク・ショー『SAKUYA LUMINA』。未来の大阪に住むアキヨという少女がうっかり時空の扉をくぐってしまい、現代にタイムスリップしてしまい、大阪城公園で迷子になってしまったアキヨと一緒に帰り道を探す冒険をするというコンセプトのもとにカナダのモーメント・ファクトリーというチームが作り上げたものなのだが、この頃流行りの中身のないプロジェクション・マッピングとは完全に一線を画していて、かなりおもしろいヴィジュアルとストーリー展開の絡み合いを楽しむことができる。
こうして報告したものは全て現場に行かないことにはその良さがわからないものだが、それは上野エリアで開催されていたルーベンス展とフェルメール展についても言えること。両方の展覧会ともルーベンスとフェルメールだけではなく、同時代の画家や影響を受けた彫刻作品なども展示されていたし、ルーベンス展では4K映像で驚くべき美しさの『三連祭壇画』も見ることができた。