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ぴあ

いま、最高の一本に出会える

夏木マリはさらにラディカルになっていく 石野卓球、ゆず岩沢らと目指した新境地

リアルサウンド

16/4/28(木) 16:00

 セクシー歌手といえば、「あ~♡ 抱いてぇん~ 獣のように~」の夏木マリ。なぁんて言うのは、おそらく50代以上でしょうか。もちろん、後追いで知っている方もいると思いますが、妖艶なフィンガー・アクションでお茶の間に衝撃を与えた名曲「絹の靴下」がリリースされたのは、1973年のこと。今から40年以上も前のことです。逆に30代くらいの方にとっては、“オシャレでジャジーなシンガー”という印象があるかもしれません。『9月のマリー』(1995年)から『戦争は終わった』(2005年)にいたる10年ほどの間は、ピチカート・ファイヴの小西康陽がプロデュースに関わり、渋谷系の文脈で評価されたということもありました。音楽活動以外でいえば、女優として数々のテレビや映画、舞台にも出演しており、映画『千と千尋の神隠し』の湯婆婆役でお子様にもおなじみだったり。いずれにせよ、多才な存在であることはたしかです。

 

夏木マリ『朝はりんごを食べなさい』

 

 音楽面でいうと、ここ数年はロック色が強くなっていました。10年ほど前に結成したGIBIER du MARIE(ジビエ・ドゥ・マリー)というグループは、腕利きのスタジオ・ミュージシャンを集めたスペシャル・バンドで、なかなか渋いブルース・ロックを披露。例えば、Superflyに影響を与え、GLIM SPANKYも歌っていたジャニス・ジョプリンの「MOVE OVER」をカヴァーしていた、といえば、20代の方にも通じやすいでしょうか。ちなみに彼女は、このGIBIER du MARIEに参加したパーカッション奏者である斎藤ノヴ氏と、還暦を目前にした2011年に入籍しています。

 さて、そんな華麗な音楽遍歴を経てきた夏木マリですが、またまた新しい展開が始まりました。10数年ぶりとなるソロ名義のミニ・アルバム『朝はりんごを食べなさい』が、先日リリースされました。まず、そのヘンテコなタイトルのインパクトもさることながら、本人が〈バスケス〉というペンネームで書いたタイトル曲の歌詞の内容も、“健康のためにりんごを食べよう!”というような奇妙なもので、そこにアダムとイブやビートルズを引き合いに出すアイデアもユニーク。ゆずの岩沢厚治が書き下ろしたメロディは、爽やかなフォークロックに仕上がっているためサラリと聴かせてくれるのですが、楽曲からはどこか半端ないロックな匂いがぷんぷんと漂ってくるのです。

 そのことは、他のアルバム収録曲で顕著に現れています。冒頭の「Happy Together」は、GIBIER du MARIEを思わせるブルージーでハードなロックに徹しているし、忌野清志郎が亡くなる1年前に曲を提供してくれたという「神様へ」も同じ路線で硬派なサウンドに乗せたボーカルを聴かせてくれます。また、フラワーカンパニーズの鈴木圭介が曲を書いた「マグダラのマリア」もロック色が強いとはいえ、どこかシャンソンのような情感を感じさせるのが面白いし、電気グルーヴの石野卓球とのコラボとなった「逆走BBA」にいたっては、若者への怒りを吐露しながらダンサブルなエレクトロ・ロックに昇華しているという異色作。

 しかし、それら以上に強烈な一撃が、自身で詞曲を手がけた「60blues」でしょう。そのタイトルから想像される通り、これまでの60数年の人生を総括するような内容の歌詞で、レイジーなスロウ・ブルースの演奏に乗せてドラマティックに語っていくのです。女優ならではの表現力というにはストレート過ぎるくらいですし、ここまで自分の感情をさらけ出したベテラン歌手も異例ではないでしょうか。ロック・ミュージシャンですら、年齡を重ねると落ちついた作品を作っていくはずなのに、夏木マリのラディカルでエキセントリックな表現方法は突風のごとく前のめりになっていて、とにかく圧倒されっぱなし。この新作を聴く限りでは、まだまだこの路線で突っ走って行くんじゃないかなと思わせてくれるのです。まさに、「今を楽しみたいよ ハシャギたい 葬式までさ」という歌詞の通り、ライヴハウス・ツアーを敢行中の彼女は、そのままキレッキレに夏木マリ・ワールドを継続してくれることでしょう。

■栗本 斉
旅&音楽ライターとして活躍するかたわら、選曲家やDJ、ビルボードライブのブッキング・プランナーとしても活躍。著書に『アルゼンチン音楽手帖』(DU BOOKS)、共著に『Light Mellow 和モノ Special -more 160 item-』(ラトルズ)がある。

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