『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が、記録的なヒットを飛ばしている。本作品の主人公はもちろん竈門炭治郎であるが、この『無限列車編』に限って言えば、“炎柱”煉獄杏寿郎の物語であると言っても過言ではないだろう。本稿では、そんな煉獄役を演じる声優・日野聡のキャリアについて紐解いていきたい。

　日野は10代の頃から児童劇団に所属。当初は舞台役者を目指していたが、吹き替えの仕事を紹介されたことをきっかけに本格的に声優の仕事をするようになる。はじめは吹き替えがメインだったが、2003年にアニメ『一騎当千』の周瑜公瑾役を射止めたことを皮切りに、2005年には『灼眼のシャナ』の坂井悠二、2006年には『ゼロの使い魔』の平賀才人と、ライトノベル原作アニメの中でも長期シリーズ化された人気作で立て続けにメインキャラクターを務め、アニメ声優としての頭角を現した。

　そこから現在に至るまで、『NARUTO -ナルト-』シリーズのサイ、『弱虫ペダル』の新開隼人、『ハイキュー‼』の澤村大地など、名だたるタイトルの人気キャラクターを演じ続けてきた。

　日野の活動は、声優以外でも多岐にわたる。音楽面では、キャリアの長さとキャラクターの多さゆえ、担当したキャラクターソングは数多い。また、『日野聡vs立花慎之介 平成ニッポン・国取り合戦ラジオ!!』（ラジオ関西）から始まった立花慎之介とのユニット・ELEKITER ROUND 0の活動も約10年になる。声優同士が組んだ音楽ユニットは今でこそ珍しくないが、10年近くにわたり継続的に活動してきたELEKITER ROUND 0は、声優アーティストによる音楽ユニットの先駆けの一組と呼んで差し支えないだろう。今年12月にリリース予定のベストアルバムの発売をもって実質の解散となるが、今までに8枚のアルバムをリリースし、ライブの開催やMVの制作、作詞にも挑戦しており、精力的な活動を行ってきた。

　さらに、日野は午年生まれの同い年の男性声優7名によるユニット「DABA」の一員として、リアル脱出ゲームやサバイバルゲームに挑戦するなど、その活動は声優という職業の垣根にとらわれない。

　高い演技力で様々なキャラクターをこなす日野だが、低く落ち着いたその声質は、リーダーシップを感じさせるキャラクターが特にハマり役と言える。今回、『鬼滅の刃』で演じた煉獄杏寿郎もそうだ。たてがみのような黄色と赤の髪に、見開いたような力強い目は、焼き付くようなインパクトを放つ。強烈なのは見た目だけではない。声が大きい、どこを見ているかわからないなど癖の強さを持つ一方、圧倒的な強さを誇り、面倒見がよく頼りがいのある煉獄は、作中でも屈指の人気キャラクターだ。そんな煉獄役に日野がキャスティングされたことについては、ファンのみならず共演者からも「イメージ通り」との声があがるほど。炭治郎役の花江夏樹などは、キャストが決まる前、原作を読んでいた時点から、煉獄を日野の声でイメージしていたという。多くの期待に応えるように、劇場版では、激しい闘いの中、煉獄の燃え盛るような信念と決意がほとばしる、素晴らしい演技が披露されている。

　栄枯盛衰が激しく、業界自体もめまぐるしく変わり続けている声優業界において、第一線に立ち続けている日野。長きにわたって活躍を見続けられるということは、ファンにとって得難い幸福でもある。ここへきて新たな代表作を得た日野が、この先も長く魅了してくれるのを楽しみにしたい。

■満島エリオ
ライター。 音楽を中心に漫画、アニメ、小説等のエンタメ系記事を執筆。rockinon.comなどに寄稿。満島エリオ Twitter（＠erio0129）