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ジャスティン・ビーバー、21世紀最大のポップアイコンが4年ぶりのアルバム『Changes』で見せた“変化”とは?

リアルサウンド

20/2/14(金) 17:00

■21世紀最大のポップアイコンに訪れた“空白”

 ジャスティン・ビーバー。現代のポップカルチャーに触れる人々の中で、彼の名を知らない者はおそらくいないだろう。誰もが認める21世紀最大のポップアイコンである。

 この原稿が公開された本日2月14日、ジャスティン・ビーバーの新作『Changes』がリリースされた。DJキャレド、「I’m the One」(2017)やビリー・アイリッシュ「Bad Guy(with Justin Bieber)」(2019)など、近年は客演として名前を見る事が多かったが、今作は前作から5年というキャリア史上最長のブランクを経てのアルバムとなる。

(関連:ジャスティン・ビーバーの傑作『パーパス』が、海外&日本の音楽シーンに与えた影響は? 

 前作『Purpose』(2015)ではダンスミュージックシーンの代表的存在であるSkrillexとタッグを組み、トロピカルハウスやダンスホールを取り入れたダンスポップ主体のサウンドの中で、当時の失恋などで苦しむ姿を鮮やかに描き、グラミー賞ノミネートを筆頭に大きな成果を残した。それまでの“お騒がせセレブ”というイメージを打ち消し、改めてシーンの主役として復活することに成功したのである。

 しかし、同作のツアーを1年以上続けていた2017年7月、突如ツアーの中止が発表される。当時は「不測の事態」とのみ伝えられたが、『Changes』の制作を追ったYouTubeドキュメンタリーシリーズ『Justin Bieber : Seasons』でその裏側で何が起きていたのか、本人やチーム、そして現在のパートナーであるヘイリー・ビーバーによって語られる。

 端的に言えば、当時の彼は限界に追い込まれており、殆ど活動が出来ない状況に追い込まれていたのだ。

■メンタルヘルスやドラッグ依存の後遺症、そしてライム病との戦いの日々

 『Justin Bieber : Seasons』の第5話「The Dark Season」では、彼が10代前半からリーン(コデイン)やMDMAなどのドラッグに手を染め、完全に中毒状態に陥っていたという過去が自らの言葉で語られる。また、決して良かったとは言えない家庭環境についても取り上げ、彼が幼くしてスターダムへ登りつめていく激流の中で、心の拠り所となる場所が存在しなかった事が判明する。

 ドラッグ中毒に対する危機感を抱いた彼は2014年にドラッグを断つが、不安を抱え精神的に参っている状態が続いた。根本的な問題は解決出来ていなかったのである。ジャスティンは自身がADHDであり、生きているだけで多大なストレスを感じている事、ドラッグ依存の後遺症の治療を続けていること、そして2019年の検査で、自身がライム病(細菌による感染症であり、精神神経系に影響を与え、うつ病や不安症といった症状を引き起こす)であることを知ったと語る。

 この検査によって不調の原因が分かった事から、彼は適切な治療を受ける事が出来るようになり、ヘイリーや周囲のメンバーのサポートによって助けられながら、復帰への取り組みを続けていった。そして、同年の『コーチェラ・フェスティバル』のアリアナ・グランデのステージにて、ジャスティン・ビーバーは復活を果たした。今でも彼は健康状態を保つために、治療を続けている。

■前作で得た自信を踏まえた、自身のルーツ=R&Bへの“再挑戦”

 この復活をきっかけに、ジャスティンは自身のクリエイティビティを最も発揮できる、最も自分らしくいられる場所であるスタジオに戻ってきた。そこで彼は、自身の音楽のルーツであるR&Bに改めて向き合う事を選択する。自身のInstagramでも「R&BIEBER」とポストし、来るアルバムがR&Bへ重きを置いた内容となることを宣言した。

 実は、ジャスティンがR&Bと正面から向き合うのは、今作が初めてではない。『Believe』(2012年)でのツアー中に制作された楽曲を集めた『Journals』(2013年)では、R&Bのプロデューサーを多数招集し、リスペクトしてやまないアッシャーやクリス・ブラウン、さらに当時のR&Bサウンドを更新したThe Weekndやフランク・オーシャンなどを彷彿とさせる楽曲に取り組んでいる。しかし、当時はポップアイドルとしてのイメージが強く、またあくまでサイドプロジェクトという位置付けもあり、本人の望むような評価を得ることは出来なかった。

 しかし、ジャスティンは音楽性の探求を続け、『Purpose』以降はプロデューサー主導の楽曲制作から距離を置き、より自身のクリエイティビティを反映した制作プロセスに取り組んできた。同作の成功によって得られた自信と、理想的な制作環境を手に入れた今だからこそ、彼は『Journals』のリベンジをすることを決めたのではないだろうか。『Journals』のサウンドの中心を担っていたプー・ベアを今作のメインプロデューサーに起用していることからも、今作における気合いが伝わってくる。

■現代におけるポップアイコンの在り方を改めて定義する『Changes』

 この原稿を書いている時点で公開されている『Changes』の楽曲を聴いてみると、どれも単なるルーツの再現ではなく、『Purpose』同様にしっかりと今の現行トレンドを踏まえた“最新型のポップミュージック”に仕上がっている。昨年末にリードシングルとして公開された「Yummy」では宣言どおりR&Bを基調としつつも、トラップビートを取り入れ、エモーショナルに歌い上げながらもきっちりとフロウを乗りこなすという離れ業を見せている。

 客演においてもケラーニやサマー・ウォーカーといった同世代の若手R&Bシンガーの起用が目立ち、先輩ミュージシャンを多く起用した『Journals』とは異なり、あくまで自分達の世代としてのR&Bアルバムを創り上げようという意図が伝わってくる。実際に、「Get Me」ではどこまでも沈み込むようなサウンドの中で囁くように歌うジャスティンとエモーショナルに力強く歌うケラーニのコントラストが印象的な、実に素晴らしい1曲になっている。トラックリストにはポスト・マローンやトラヴィス・スコットといった同世代ラッパーの名前もあり、共にトレンドを更新するアーティスト同士、どのようなサウンドを創り上げるかに注目したい。

 今のジャスティン・ビーバーは、互いに支え合える理想的なパートナーであるヘイリーと結婚し、長年にわたって作品を創り上げてきた信頼出来るチームの中で、自身のクリエイティビティを存分に発揮出来るという、キャリア史上初めて理想的な環境に辿り着く事が出来た。これまで自分の為に音楽を作ってきたと語る彼だが、今はその想いを伝えたい相手がいる。それはヘイリーであり、サポートしてくれた人々であり、そして何よりもこれまでずっと彼を支持してきたファンである。暗闇から抜け出した彼には、今は語るべき言葉がある。

 「朝ベッドから起き上がる事が簡単なことだと思う人たちもいるだろう。でも俺にとっては大変なことなんだ。俺と同じ問題を抱えている人たちに伝えたいんだ。君は一人じゃない。」(『Justin Bieber : Seasons』より)

 ヘイリーはジャスティンについて、「彼にはストーリーがある。だからみんな惹かれるの」と語っている。

 ポップカルチャーの醍醐味は、アーティストの創り上げるパーソナルなストーリーに共感し、まるで自分がその一部であるように感じる事にあるのではないだろうか。様々な問題に囲まれながら生きる現代のリスナーにとって、そのストーリーはさらに大切なものになっている。『Changes』はこれまでのジャスティン・ビーバーのキャリアにおいて最もパーソナルで、かつ挑戦的な1作となるだろう。2020年のポップカルチャーにおける最重要作とも言える本作を聴いて、是非21世紀最大のポップアイコンに訪れた「変化」を確かめていただきたい。(ノイ村)

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