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野島伸司はアニメに向いている脚本家? 『ワンエグ』が描き出す、思春期の美しさと脆さ

リアルサウンド

21/3/23(火) 12:00

 「野島伸司がアニメ脚本を手掛ける」――原案・脚本を手掛けるオリジナルアニメ『ワンダーエッグ・プライオリティ』(日本テレビ系)のニュースが報じられたのは、昨年12月。野島伸司といえばご存知、フジテレビでの『101回目のプロポーズ』『ひとつ屋根の下』など、傷を抱えつつも寄り添う優しい物語路線や、TBSでの『人間・失格~たとえばぼくが死んだら』『未成年』『高校教師』などの社会派路線、日本テレビでの『家なき子』などの衝撃作など、時代や放送局に合わせて、様々なカラーの作品を手掛けてきた脚本家だ。

 ところで、ここ数年、一流どころの実写脚本家がアニメーションに進出するケースが相次いでいて、岩井俊二がいち早く『花のアリス殺人事件』(2015年)で監督・製作・企画・プロデュース・原作・脚本・音楽等全てを手掛けていたり、NHK大河ドラマ『どうする家康』が発表されている古沢良太もドラマと映画で『コンフィデンスマンJP』シリーズを描きつつ、アニメーションでコンゲーム(信用詐欺)を題材とした『GREAT PRETENDER』(2020年)の脚本・シリーズ構成を手掛けていたり。さらに、今年公開が予定されているアニメーション映画『犬王』では、古川日出男の著書『平家物語 犬王の巻』を湯浅政明監督がアニメ化、キャラクター原案は松本大洋、脚本は『逃げるは恥だが役に立つ』(TSB系)、『アンナチュラル』(TSB系)、『MIU404』(TSB系)など、今、最も売れっ子の脚本家・野木亜紀子が手掛ける。うっかりしたら魅力的な実写脚本家がどんどんアニメ界に流出してしまうじゃないか……などと思っていたら、このニュースがあったわけだ。

 野島伸司×『約束のネバーランド』などのCloverWorksが手掛けるアニメは、いったいどんな物語になるのか。実際に『ワンダーエッグ・プライオリティ』を第10話まで観た現時点で断言してしまおう。野島伸司ほどアニメに向いている実写脚本家は、他にいないのではないかと思うほどのクオリティである。

 主人公は、不登校でオッドアイの14歳の少女・大戸アイ。物語はアイが深夜の散歩途中で出会った謎の声に導かれ、「エッグ」を手に入れるところから始まる。

 「未来を変えたいなら、今はただ選択しろ」――初回は無料と言われ、アイはためらいつつも、ガチャポンで「エッグ」を入手するのだ。この展開だけ観たとき、野島伸司が脚本を手掛けた鈴木梨央×岸優太主演の深夜ドラマ『お兄ちゃん、ガチャ』(日本テレビ系)路線かと勝手に思った。

 しかし、翌日アイが玄関を出ると、見知らぬ校舎にいて、エッグを割れと謎の声に言われる。エッグから出てきたのは見知らぬ少女で、同時に「ミテミヌフリ」と呼ばれる無数の敵が出現するのだ。

 ミテミヌフリが攻撃するのはエッグから生まれた少女のみ。それがわかり、逃げることをやめたアイだが、屋上で自殺した親友・小糸の彫像を見つける。親友を救えなかった思いが蘇り、「もうみて見ぬフリはしたくない!」と戦うことを決意したアイは、敵を倒し、少女を救うが、チャイムが鳴ると、エッグの中の少女の姿は消滅してしまうのだった。

 それでも少しあたたかくなっている彫像に、希望を見出すアイ。エッグから生まれた少女たちは皆、自殺した少女たちで、チャイムが鳴るまで逃げ続けることに成功するたびに別の場所に行くらしい。アイは戦い続けることで、自殺した親友・小糸を蘇らせられるのではないかと考える。

 さらにアイは、自身と同じく戦い続ける少女・ねいると、リカ、桃恵に出会う。口数が少なく合理的なねいるは妹を、元ジュニアアイドルでお調子者でお喋りなリカは「財布」「デブ」とバカにしていた自身のファンを、長身でボーイッシュで同性にモテモテの桃恵は友人を、それぞれに生き返らせるために、ミテミヌフリと戦い続けている。

 彼女らにはそれぞれ、いじめられていた過去や、両親の離婚、母であることよりも「女」であることを選び続けている母と顔も覚えていない父、同性愛的な行為を迫られて拒絶してしまった友人など、様々なモノを抱えている。

 また、エッグから生まれる少女たちも、アイドルの追っかけをしていた「後追い自殺」だったり、痴漢として突きだした男が父親の会社の専務だったことから、父が解雇され、母に責められたり、宗教による洗脳があったり……。

 しかも、この作品の大きな特徴は、「少女(しかもおそらく14歳の)しか登場しない世界」だということ。「目的脳」である男子の自殺と違い、「感情脳」の女子の自殺の場合、「死の誘惑にのまれる」ことがあるというのだ。

 『お兄ちゃん、ガチャ』的世界かと冒頭だけ思ったが、むしろ男子校を描いた『人間・失格』の世界観のほうが近いではないか。

 しかも、最初は美しい絵柄によって、野島伸司のエグい世界観がポップで見やすくなるのだろうかと思ったが、それはむしろ逆。美しくポップな絵柄だからこそ、思春期特有の少女たちが抱える心の闇や、人間関係で起こる摩擦、生々しく醜い感情や、「大人」という生きもののグロテスクさが、終わらない悪夢のように空恐ろしい不気味さを持って迫ってくるのである。そして、畳みかけてくるうつ展開の中で、少女たちの心が次第に近づき、手を携えて共有する、刹那の明るく楽しい時間の美しいこと、むごいこと。

 まるで連ドラではコンプライアンスの問題や予算の都合により、もはや自由に描けなくなってしまった野島伸司の想像力・妄想力・想像力・創造力の鎖を切って、自由に羽ばたかせるのが、アニメという媒体であるかのようだ。

 さらに驚かされるのは、SNSを見る限り、従来の野島伸司ファンだけでなく、というよりむしろ野島伸司ワールドを知らない10~20代の若いアニメファンがズブズブとその世界観にハマり、魅了されているということ。

 なぜ90年代から2021年の今まで30年近くもの間、全く古びることなく、時代時代に応じた「思春期の美しさと脆さ、危うさ」を描き続けられるのか。そして、思春期の真っただ中の世代から中高年までの心を震わせることができるのか。まるで野島伸司自身が「思春期」の中に冷凍保存されている、あるいは「思春期」というパラレルワールドを永遠にループし続けているんじゃないかと思えるほどの秀作なのだ。

■田幸和歌子
出版社、広告制作会社を経てフリーランスのライターに。主な著書に『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)などがある。

■放送情報
『ワンダーエッグ・プライオリティ』
日本テレビほかにて、毎週火曜深夜放送
原案・脚本:野島伸司
監督:若林信
キャラクターデザイン・総作画監督:高橋沙妃
企画プロデュース:植野浩之(日本テレビ)、中山信宏(アニプレックス)
制作:CloverWorks
(c)WEP PROJECT
公式サイト:https://wonder-egg-priority.com/
公式Twitter:WEP_anime(https://twitter.com/wep_anime)

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