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やなぎなぎに聞く、『俺ガイル』登場人物の“未来”を願う「芽ぐみの雨」制作秘話「完結してもキャラクターの物語は続いていく」

リアルサウンド

20/7/16(木) 16:00

 やなぎなぎが、アニメ『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。完』(略称:俺ガイル)OP曲シングル『芽ぐみの雨』をリリースした。アニメ第1期OP曲「ユキトキ」に始まり、第2期OP曲「春擬き」と、彼女と『俺ガイル』のタッグは今回で3度目となる。最終章を迎える同アニメに寄り添う「芽ぐみの雨」には、主人公・比企谷八幡をはじめ、ヒロインの雪ノ下 雪乃や由比ヶ浜 結衣らの青春群像の行方、そしてシリーズを見守り続けるやなぎなぎの登場人物たちに寄せる願いが詰め込まれた楽曲になった。

参考:やなぎなぎが語る、創作の原点とカップリングが映す過去の記憶「ネガティブな感情を持ったときの方が曲にしたくなる」

 新型コロナウイルスに伴い、アニメ放送と共に同シングルの発売も延期になったものの、同期間には配信シングル『Toy,Toi,Toy』などの作品をリリースし、7月23日には配信ライブ『color palette ~2020 Pink eve~』を控えるやなぎなぎ。インタビューでは、2013年から約7年に渡る『俺ガイル』との幸福な関係性を中心に、自粛期間での活動や配信ライブへの思いを聞いた。(編集部)

■普段から何かモノづくりをしていないと落ち着かない

ーーなぎさんは、新型コロナウイルスの感染拡大による自粛要請期間中、どのように過ごしていましたか?

やなぎなぎ(以下、やなぎ):予定していたライブなどのイベントがことごとくできなくなってしまったり、アニメの放送延期に合わせて作品のリリースも先延ばしになって……。私はそういった活動を支えに生活していたので、それが先延ばしになったぶん、自分の中に溜まったものを吐き出す場所がほしいなあと思って……私は普段から何かモノづくりをしていないと落ち着かない身体になってしまったので(笑)。それで『Toy,Toi,Toy』という配信作品を作ってみたり、自作のアニメーションをYouTubeにアップしたりして、(創作意欲を)ぶつける場を探していた感じです。

ーーそのYouTubeにアップされた「あの子は次亜塩素酸の匂い」は、楽曲とアニメーションをご自身で制作されたほか、音源や音の素材の配布も行っていましたね(※現在は配布終了)。

やなぎ:その時期はおうちで過ごされている方が多かったと思うので、その中で自分ができることは何だろうなあと思いまして。皆さんにステムデータを聴いてもらって、楽曲がどういうふうにできているのかを知ってもらえるのもうれしいですし、あるいは私みたいに創作意欲を持て余している方が、その素材を使って遊んでもらえたら楽しくなるのかな? という単純な考えではあったんですけど。

ーー6月に配信限定でリリースされた3曲+インスト入りの作品『Toy,Toi,Toy』は、どのようなコンセプトのもと作られたのですか?

やなぎ:もともとほかの楽曲の制作の合い間に遊びで作っていた音のパーツとか歌詞の一部分だとかを、せっかく時間ができたこの機会に、一つの作品として完成させようということで出来上がった作品です。1曲1曲が「おもちゃ」をテーマに自由に遊びながら作ったもので、「おもちゃから見た世界はどんな感じなのかな?」というところから広げていきました。コンパクトな作品ということもあって、全体の流れを考えて作る感じでもなかったですし、本当に自分が今聴きたいなあと思うものを作った、自分の趣味しかない曲たちです(笑)。

ーーしかも配信作品ではありますけど、なぎさんのオフィシャルサイトで歌詞カードをダウンロードできるようになっていて、それを印刷するとペーパークラフトとして遊べるという、手に取って楽しむ仕組みも用意されていました。

やなぎ:配信だと歌詞だけをじっくり見ることが少なくなるので、何かあったほうがいいだろうなあと思いまして。それに、どうせ文字情報を出すのであれば、より楽しいほうがいいのかなあっていう。

ーーそれら「あの子は次亜塩素酸の匂い」や『Toy,Toi,Toy』の試みからは、ただ曲を作って発表するだけではなくて、自分の音楽や作品を通していろんな楽しみ方を提案したいという、なぎさんの活動の指針のようなものが表れているのかなと思います。

やなぎ:そうかもしれないですね。やっぱり自分が何かを創るのが好きだから、その楽しみをもし自分の作品を通じて知ってくれる人がいたら、うれしいなあというのがあって。そういう部分が、作品のパッケージとかでも「ああしたい」「こうしたい」というアイデアとして出てくるんだと思います。

■今振り返る『俺ガイル』との出会い

ーー今回のニューシングル曲「芽ぐみの雨」は、TVアニメ『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。完』(『俺ガイル』)のオープニングテーマということで、今回はなぎさんと『俺ガイル』との関わりを改めて振り返りつつ、お話をお伺いしたく思います。最初の出会いは2013年放送のTVアニメ第1期(『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』)かと思いますが、当時、原作のラノベや脚本に触れて、作品にどのような印象を持ちましたか?

やなぎ:『俺ガイル』は登場人物がたくさんいて、メインになるキャラクターやヒロインも多いんですけど、一人ひとりのキャラクターが明確に色分けされていて、どの子のことも追い続けたくなる、どの子にも感情移入するぐらいキャラが立っていることは、最初の段階から感じていていました。話が進むにつれて、最初はこの子を応援していたけど、やっぱりこっち側も……って、自分がどんどん優柔不断になっていくんですよね(笑)。

ーーそれだけ各キャラにそれぞれの魅力が備わっていると。物語的にもラブコメ的な要素が軸にありますが、『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』というタイトルが示唆している通り、ベタなラブコメ展開ではないですよね。ちょっとひねくれた感じというか。

やなぎ:そうですね。「最終的にどこに向かうんだろう?」というのは、最初に読んだときにも感じたことで。ヒロインレースもそうですけど、主人公の(比企谷)八幡くんが、このキャラのままダークヒーローぶりを発揮していくのか、あるいは彼も何か別の要素で成長して道が開けていくんだろうか、ということも考えたりしましたね。

■自分たちで上げたハードルをまた超えていかねば……

ーーその第1期のオープニングテーマ「ユキトキ」は、当時どのようなイメージで作られましたか?

やなぎ:「ユキトキ」はタイトルに集約されていますが、雪解けをイメージして書いた曲になります。作中ではいろんなキャラクターたちがそれぞれに悩んでいますけど、みんなまずは壁を壊して、心を開いて飛び出していきたい気持ちがあると感じたんです。それを、自然の雪解けみたいに誰かの助けを待つのではなく、自分で雪を溶かして、誰かの手を取っていく、ということを意識して書いた歌詞でした。

ーー「雪」という言葉からは、本作のメインヒロインの一人、雪ノ下雪乃のイメージも浮かびますが、それも意図してのことでしょうか?

やなぎ:そうですね。作品のテーマ曲を作るときはいつも、特定のキャラクターだけの曲にはしたくないと思っていますけど、この曲では「雪」というワードを積極的に取り入れて、作品とのリンクを図ろうという部分はありました。

ーーまた、なぎさんはこの楽曲で初めて北川勝利さんに楽曲提供を受けましたが、北川さんとご一緒しようと思ったきっかけは?

やなぎ:北川さんの曲は私もずっと聴いていたのですが、その頃、北川さんはアニメの楽曲もたくさん手がけられるようになっていて、北川さんがもともとやられている渋谷系のサウンドと、それがアニメの曲になったときの独特の爽やかさが、すごくうまく融合しているなあと感じていたんです。お洒落だけど、アニメにもちゃんと寄り添ったポップさがあって。『俺ガイル』は学園ものの作品ということで、どこか間違った部分はありますけど、青春の要素もちゃんとあるので、北川さんの持つサウンドがオープニングとしてしっくりくるのではないかと思って、自分からお願いした経緯がありますね。

ーー2015年放送のTVアニメ第2期『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。続』では、引き続き北川さんとのタッグで「春擬き」をオープニングテーマとして制作されました。

やなぎ:2期では、キャラクターそれぞれがどこに辿り着きたいのか? という、物語の核の部分がちょっとずつ見えてきたので、「ユキトキ」の流れに沿いつつも、物語に寄り添うものとして作りました。歌詞にも取り込みましたけど、「本物」というテーマが物語の中心になりそうだと感じたので、その部分から広げていきました。「本物って一体なんだろう?」とか「本物って本当にあるのか? 今持っているものは偽物なのか?」っていう。

ーー作中の重要なシーンで八幡が吐露する「本物がほしい」という願いとシンクロさせたわけですね。だからこそ曲名も「春擬き」になっていて。

やなぎ:「本物の春は一体どこに?」という感じにしました。

ーーサウンド的には、「ユキトキ」の爽やかな雰囲気を継承しつつ、よりロック色が強まって、ドライブ感のある曲調になりました。

やなぎ:「ユキトキ」が『俺ガイル』のファンの方にもすごく受け入れていただきましたし、私の楽曲を普段聴いてくださっている方にも好評だったので、それに続く曲ということで、「ユキトキ」以上のものを作りたい! という気持ちが、私にも北川さんにも強くあって。なので「春擬き」はドライブ感だとかエモーショナルな部分をプラスしてもらいました。

ーーその意味では、今回の「芽ぐみの雨」は、前の2曲をさらに越えなくてはいけないという、ある種のプレッシャーもあったのでは?

やなぎ:自分たちで上げたハードルをまた超えていかねば……というのはありましたね(笑)。「春擬き」を作った時点では、アニメの3期が制作されるのかもわからない状態だったので、結果的に3部作みたいになりましたけど、今回が完結編になるということで、結構悩みながら作りました。

「芽ぐみの雨」は登場人物たちの完結後の“未来”をイメージ
ーー「芽ぐみの雨」は、その前2曲を踏まえつつ、どういうとっかかりで作り始めたのでしょうか?

やなぎ:歌詞に関しては、私にとって『俺ガイル』は、自分のメジャーデビュー後の活動の軸になっている部分があって、その物語がこれで終わってしまうということで、自分の中で「完結」というワードがズーンときたんですよね。なのでそこから「物語が終わってしまうならば……」ということで、世界を広げていきました。

ーーこの曲では「物語が終わったその先の話」がテーマになっていますが、例えば「ユキトキ」が雪ノ下雪乃、「春擬き」が比企谷八幡をモチーフにした楽曲だとしたら、この「芽ぐみの雨」はもう一人のメインヒロイン・由比ヶ浜結衣をイメージした部分もあるのかなと思いまして。

やなぎ:うーん……もちろんそういう部分もありますけど、物語の中には、結衣だけではなく、他のヒロインやキャラクターもたくさん登場しているので、自分の中ではその子たちの気持ちも取り込んで書いたつもりではあって。やっぱり物語に登場する全員分のハッピーエンドな結末というのは、どうしても見ることができないので、その意味では、物語はここで終わってしまいますけど、もしこの子たちの人生がその後に続いていくとしたら? ということは、今回の歌詞ですごく考えたところです。

ーー『俺ガイル』の全ての登場人物たちの未来に捧げる歌、でもあると。

やなぎ:そうですね。物語が終わった時点では、もしかしたらその子が望む結末ではなかったかもしれないけど、もしそこから続いていくとしたら、その頃の思い出とかも笑って話せるようになったりして、自分は自分なりのハッピーエンドを見つけにいける、いってほしいなっていう。

■恩恵を受けている側の人たちは気付かない部分がある

ーーそれだけ『俺ガイル』の世界やキャラクターに対する愛着が深いんでしょうね。ちなみに、その中でも特にお気に入りのキャラクターはいたりしますか?

やなぎ:個人的には、「あーしさん」と呼ばれている、三浦優美子ちゃんというキャラクターが好きでして。その子はクラスの中心的なグループにいて、最初は主人公とぶつかったりするんですけど、話が進むにつれて、根はすごくピュアということが見えてくるんです。最初の印象のときだと、自分がもし高校生の時代にそばにいたら、あまり友達にはなれそうにないなと思っていたんですけど、そのギャップに気付いたら、すごく仲良くなりたいと思えるキャラクターになって。そういう部分って、自分が中心にいるとあまり見えないですけど、俯瞰して見るとすごく見えてくるんだなと思いました。

ーー『俺ガイル』の登場人物は、みんなクセはあっても根はいい人ですよね。他人のことを考えすぎて悩みを抱えることが多かったり。

やなぎ:そうなんですよね。基本、みんな突き詰めるといい子っていう。考えすぎて、ねじ曲がったみたいな子が多いですよね。

ーーそういう部分は「芽ぐみの雨」の歌詞にも反映されているように感じました。1番のサビの歌詞で言うと〈ずぶ濡れでも きっと誰かには芽ぐみの雨だった〉という部分からは、自分が悲しみに濡れていたとしても、他人のことを思いやるような心を感じられて。

やなぎ:そうですね。八幡くんも、自己犠牲というか、自分のことをいちばん下に考えて周りをどうにかするようなところがあって。ただ、それって恩恵を受けている側の人たちは気付かない部分があると思うんです。でも、私たちはその物語を俯瞰で覗き込んでいて、全部が見えているので、そういう部分は歌詞にしたいなと思いましたね。

ーーなおかつ、この曲の歌詞は物語的な構成になっていて、歌詞の中で〈完全なハッピーエンドなんてない〉と言及しつつ、最後にはちゃんと幸せな結末が描かれているところが、素敵だなと思いました。なぎさんとしては、やはりこの曲を幸せなものとして完結させたい思いがあったのでしょうか?

やなぎ:それはあったと思います。自分が『俺ガイル』の物語で見られる部分というのは決まってしまっていて、その続きはどうしても見られないですけど、それでキャラクターたちがいなくなってしまうわけではなくて、自分の中で「もし続きがあるのならこうかもしれない」と考えてしまうところがあって。今回で物語として完結はするけど、このキャラクターたちの物語はずっと続いていくんだろうな、っていうのが最後に描きたかったところですね。

ーー歌詞の話で言うと、Dメロのコーラス部分に〈フェアリーテイル〉という一節があったり、「ユキトキ」「春擬き」の歌詞に出てきた言葉の引用も散りばめられていますよね。

やなぎ:はい。今回は歌詞を書くときにまず、「ユキトキ」と「春擬き」の歌詞を横に並べるところから始めたので。そこから言葉を抜き出したり、(「ユキトキ」の歌詞に登場する)〈アザレア〉を〈ツツジ色の花〉という形に置き換えて書いていたりしています。思いがけず3部作という形になったので、これまでのことも、今思っていることも全部詰め込みたくて。タイトルの「芽ぐみの雨」も、「芽ぐみ」のところは、本来の「恵み」という言葉と、春を予感させるワードのダブルミーニングになっていて、「ユキトキ」からの流れが浮かべばいいなあと思ってリンクさせました。

ーーこの曲のタイトルはすごく象徴的で、「恵み」でもあり「雨」でもあるということ、喜びも悲しみも表裏一体で隣り合わせであるという、その塩梅が歌詞にも表れていて、『俺ガイル』の物語と相まってグッとくるんですよね。

やなぎ:たぶんみんなが、全員がどうにかハッピーエンドになれる道を探しているんだけど、どうやらそれはないっていうことに気づいたときに、だったら「どうすればいいのか?」というところですよね。自分はもちろん、他の誰かもきっと痛みを受けているんだろうし、でもそれは必要なもので、永遠に続いてほしいと思った時間が違う形になってしまったけど、それも自分の長い人生の時間でみたらほんの一部で、その先にもしかしたら自分のハッピーエンドがあるのかもしれないっていう。どうなるのかわからないも含めて、そういう全部がキャラクターたちを作る要素になっているということが、歌詞の中で表現できていればいいなと思います。

■自分の中でも「芽ぐみの雨」で出し切った感はあります

ーー今回も作曲・編曲は北川勝利さんですが、どのようにお伝えして曲を作ってもらったのですか?

やなぎ:あまり多くは言っていないですけど、北川さんも今回で『俺ガイル』が完結になることはご存知だったので、疾走感だとか、完結による切ない部分を相談しながら作っていきました。

ーー前の2曲もそうでしたが、今回はそれ以上にギターの主張が強いアレンジになっていますね。

やなぎ:そうですね、今回はさらに激しく、「えらいことになったな」っていうギターソロが入ってます(笑)。デモの段階で北川さんの仮ソロが入っていたんですけど、それも結構熱い感じになっていて。本番のレコーディングで松江(潤)さんに弾いていただいたときは、そのフレーズに導かれて「俺も熱く弾いたよ」とおっしゃっていました(笑)。

ーー歌入れの際に特別意識したことはありますか? 前の2曲を踏まえた部分もあったかと思うのですが。

やなぎ:もちろん前の2曲も意識していましたけど、今回はとにかく「終わってしまう」というのが自分の中で大きくて。でも、悲しい気持ちを前面に出すわけにはいかないので、その気持ちを伝えたい部分では、思い切り切なく息を抜いてみたり、(歌い方の)使い分けで歌のバランスをうまく表現できればと考えていました。

ーー例えば、キャラクターたちを俯瞰で見守るようなイメージもありましたか?

やなぎ:どうでしょう? そういう気持ちもあるし、でも、あまりにも長く付き合いがあるので、中に入ってしまうような気持ちも混ざっていたと思います。半々ぐらいの気持ちですかね。

ーーなぎさんも一緒に青春を送った作品ですものね。

やなぎ:そうですね。出会ってから7~8年は経ちますので。自分の中でもこの曲で出し切った感はありますね。もうこれ以上は難しいかもしれないです(笑)。

ーーMVは、「ユキトキ」と「春擬き」のMVの要素も織り交ぜつつ、アート感のある映像に仕上がりました。

やなぎ:今回は切り絵の世界がたびたび登場するんですけど、切り絵って一枚だけだとぺったりとしてますけど、それを何層にも重ねてもらって、それをカメラで追いながら撮っていただいていて。それは、物語というものは一つの要素だけではなく、無限にある要素が多重に重なって構成されているイメージが自分にはあったので、物語の始まりから終わりを(切り絵の)多重構造の世界で表現したかったんです。

ーー映像の構成的にも物語のような流れになっていて、最初は切り絵の女性がテレビのエンドロールを眺めているところから始まりますが、最後はテレビをはさんで切り絵の男女が向かい合うシーンで「めでたし」と締めくくられます。これは野暮な質問になるのですが、なぎさんは昨年ご結婚されたので、このハッピーエンド感はもしかして、ご自身の心境も反映されているのかなと……。

やなぎ:それはないですね(笑)。今回はとにかく『俺ガイル』のキャラクターたちのために用意した未来というところなので、そこに自分の幸せというのは上乗せしていないです。私はそういうのはあまり音楽に還元できないので(笑)。

■大人は知識が増えていく一方で、忘れていることも増えている

ーー失礼しました。せっかくなのでカップリング曲のお話もお伺いしたいのですが、今回のなぎさんが作詞・作曲された「彼は誰星(かわたれぼし)」は、どのようなモチーフから生まれた曲ですか?

やなぎ:私は常々、昔に作ったどこにも公開していない曲を、今の自分が作れる音で残しておきたいと思っていて、この曲の冒頭のピアノのフレーズも、私がデビュー前に作っていた曲にあったものなんです。これはそのフレーズを派生させて作った曲で、歌詞は「夜が来て、夜が明けていくたびに、自分は何かひとつ忘れているんじゃないか?」ということをテーマに書いています。人は特に大人に成長していくにつれて、知識が増えていく一方で、忘れていることもたくさん増えている気がしていて。

ーーたしかに。「忘れる」というのは、それがどんな思い出にせよ、少し寂しい部分がありますが、この曲ではそういう儚い部分を表現したかったのでしょうか?

やなぎ:そうですね。さっき自分の幸せの部分は曲に還元できないと言いましたけど、自分が曲を書く源として、ネガティブな気持ちや感情を浮上させるためということが大きいので。幸せな部分は自分の中で完結してしまうので、逆にネガティブな部分をどうにかしたくて、「これを吐き出すにはどうしたらいいのか?」というところから、曲作りが始まったりするんです。この曲も「忘れちゃってるのは嫌だな」という気持ちを浮上させたくて出来た曲です。

ーー個人的には、歌詞の内容や童話っぽい作りになっていることも含めて、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」を思い出しました。

やなぎ:たしかに。夜が明けるとカンパネルラがいないっていう悲しさはありますよね。表立って意識してはいなかったですけど、私は「銀河鉄道の夜」が人生のバイブルなので、無意識に影響された部分があるのかもしれないです。

ーー歌詞の〈いついつ尻尾を掴めるかな〉というフレーズから、アニメ映画版の『銀河鉄道の夜』を連想してしまったんですよね。ピアノや電子音で作られた幻想的なサウンドも、細野晴臣さんが手がけた映画版のサントラに近しい部分があるので。

やなぎ:ああ、あれも人生のバイブルなので(笑)。私は「銀河鉄道の夜」で構成されている部分がかなり大きくて、本当に大好きなんです。サントラの復刻版(2018年12月にリイシューされた『銀河鉄道の夜・特別版』)も買いました(笑)。

ーーさて、なぎさんは7月23日に配信ライブ『color palette ~2020 Pink eve~』を開催予定です。当初4月に予定していたコンセプチュアルライブ『color palette ~2020 pink~』が12月に延期となったなか、配信ライブも企画された意図は?

やなぎ:今は直接お会いしてのライブは難しいですし、私もこの期間中に他のアーティストの方の配信ライブを観ることが多くて、これもひとつの形として成立するものなんだなと感じまして。ライブ会場にいると、聴いてくださってる方の感想や印象をリアルタイムで受け取るのは難しいですけど、配信だとチャットやTwitterのハッシュタグなどを通じてリアルタイムで知ることもできますし、配信だからこそ楽しめる内容も作っていけると思うんです。なので、もともと予定していた『color palette』の内容とは少しだけ変更して、12月のライブとの違いを見せられたらなと考えています。

ーーちなみに自粛期間中にご覧になった配信ライブで刺激を受けたものはありますか?

やなぎ:私のすごく好きな新居昭乃さんの配信ライブには刺激を受けました。昭乃さんが一人でピアノと対面しながら行う「Little Piano」というステージがあるんですけど、その配信ライブを拝見させていただいたら、お客さんからリクエストを募って、その場で昭乃さんが歌う曲を決めるという恒例のコーナーで、昭乃さんがチャットを見ながら「この曲を聴きたいのねー」って選んでいる姿がすごく新鮮で。なので私も、MCのときは(チャットの反応を)見られるようにして挑もうかなと思っています。(流星さとる)

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