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「PARCO劇場オープニング・シリーズ」特集

『其礼成心中』が満を持してPARCO劇場へ凱旋! 吉田一輔が語る、三谷幸喜との制作秘話

全20回

第5回

20/8/7(金)

人間にできることは何でもできる!?
三谷文楽誕生までの試行錯誤

三谷幸喜が初めて文楽の作・演出に挑戦した『其礼成心中』は、2012年にPARCO劇場で初演され、大好評を得て翌年すぐに再演。以後も、全国各地で上演が繰り返されている新作文楽だ。大成功をおさめた、文楽と現代のヒットメーカーの出会い。吉田一輔さんは、直談判して三谷幸喜さんを文楽の世界に引き入れた、張本人でもある。

撮影:尾嶝太

「三谷さんが、文楽を観に来られた際に、共通の知り合いからご紹介頂き人形の解説等をした際に、『ぜひ文楽をやっていただきたい』という話をさせてもらったんですが、そうですね、驚くほどトントン拍子に決まりました。内容については、三谷さんは本を書くのが本業なので何の心配もありませんでしたが、文楽は太夫、三味線・人形遣いの三者の作業で行うものなので、何が可能で、何が不可能なのかということを、相談しながら創り上げていった感じです。三谷さんは、きっと人形が演じるということで、どんな表現ができるのか、すごく心配やったと思うんです。そのお話をしているなかで『人間にできて人形にできないことは何でしょうか』ということを尋ねられまして、僕は引くに引けなくなって、思わず『人間にできることは何でもできます!』と言ってしまいまして(笑)。『じゃあ、これやってみてください』と言われた動きは、案の定やったことのないものだったんですけど、その場で主遣いの僕と、左遣いと、足遣いの三人で、チョチョッと打ち合わせして、パッとやってみせたんですね。そしたら三谷さんが『おもしろい! 使えますねー』とおっしゃって、それがこの芝居の中でも、ちゃんと使われています」

それは主人公の半兵衛が、心中しようと川へ身を投げたつもりが、バリバリの水泳の達人で、クロールや背泳ぎを披露してしまい、客席が大爆笑となる場面。

「文楽の古典にも、泳ぐ動きはあるんですけども、たいてい平泳ぎみたいな手足をするので、クロールや背泳ぎはないんです。なのに急に言われてやってみたら、それなりに、ちゃんと見られるものができたんですね」

と、さりげなくタイトルを入れ込む余裕(!?)。文楽の修業は非常に厳しく、三人で一体の人形を遣う人形遣いの場合は、「足(両足だけを担当する足遣い)十年、左(左手だけを担当する左遣い)十年、主遣い(首<かしら>と呼ばれる頭部と右手を担当する)一生」などと言われるストイックな世界。それを知ってか知らずか、日本が誇る稀代のコメディ作家による容赦ない無茶ぶりに、瞬時にこたえてしまえる気概と実力がまぶしい。そういえば、ふだんは女形の人形を遣うことが多い一輔さんが、かなり強欲で図々しいけど憎めない、中高年のオヤジ然とした主人公・半兵衛役の人形を遣うのも、目を引いた。

撮影:尾嶝太

「最初からこのお話に関わらせてもらい、台本も真っ先に読んでいました。やはり、いちばんわかっている人間が、半兵衛という、狂言回しのような役割で話の中心になって動く役をやらないと難しいかな、と思ってやらせていただいています。僕らは修業中には、女形も立役(男役)も両方やっていくものですから、できないことはないんです。半兵衛は出づっぱりなのでこの役のみになりましたが、ほんとうはもうひと役、女形もやりたかったですね」

これからの文楽を背負って立つ世代らしい、果敢で柔軟な姿勢。実は一輔さんの師匠である女形遣いの第一人者・吉田簔助さんも、若いころから、新作や新演出、他分野のアーティストのコラボレーションなど、古典の枠に囚われない試みを積極的に行ってきた先達だ。

「師匠はいろいろなことにチャレンジされていたので、こうしたことにも理解があって、僕たちもやりやすいので、ありがたく思っています。なかには、反対されるような方もいらっしゃいますのでね。それでも、まあ時代とともに反応も変わってきているなとは思います。特に『其礼成心中』は、それはもう文楽関係のいろいろな方が観に来てくださって、とても高評価をいただいたんですよ。僕らから見たら、古い考えをお持ちと思われる、厳しくこわい方もいらっしゃいまして、そんな方が観に来られていると思うと、ものすごく緊張したものですが、そういう方たちも『ほんとうにおもしろかった』と心から言ってくださったんです。すごくうれしかったですねぇ」

古典へのオマージュもたっぷり
重鎮たちも納得の新しい文楽の世界

撮影:尾嶝太

『其礼成心中』というタイトル自体、文楽を代表する名作『曽根崎心中』のパロディ風。『曽根崎心中』は、元禄時代に実際に起きた心中事件に材を得た近松門左衛門が、事件からすぐに人形浄瑠璃に仕立て上げて当時大ヒットした作品で、これに影響された巷の男女の心中が流行したというのも、ほんとうの話。三谷幸喜はその逸話をヒントに、心中名所となってしまった場所近くで饅頭屋を営む半兵衛が、ひょんなことから便乗商売を始め、やがて自身が心中しかける羽目になり──と、抱腹絶倒の展開が続く喜劇を創り上げた。同じく近松の心中物『心中天網島』の見どころをそのまま再現する場面なども取り入れていていて、極上の三谷コメディであると同時に、文楽という芸術文化そのものへのオマージュが、そこはかとなく感じられる後味のよさ。伝承について厳格な立場を貫く方々も、これなら絶賛を惜しまないはずだ。

こうしてプロを感心させる一方で、これほど、文楽を初めて観る観客でいっぱいになった客席が、湧き返った作品もめずらしい。

「初演から8年経ちましたが、『其礼成心中』がきっかけで、文楽を観るようになったという方が、ほんとうに多いんですよ。人形遣いのほうも、初演のころはまだ足遣いも本舞台ではできていなかった子が、この場で勉強を重ねて、いまは立派な足遣いになっています。何度も上演させていただくことで、全員の芸歴もどんどん上がって、できることが増えてきています」

8年の歳月が、作品と演者と観客を、着実に成長させた。『其礼成心中』は、新たな文楽の財産演目になりつつある。

コロナ禍のために、3月からずっと舞台に立てない日々が続いた。

「人形遣いは体力が勝負ですから、毎日5キロほど歩いて足腰を鍛えていました」

5か月ぶりの舞台では、半兵衛のアクロバティックな動きも、ますますキレッキレになっているはずだ。

取材・文:伊達なつめ

作品情報

PARCO劇場オープニング・シリーズ
三谷文楽『其礼成心中』

日程:8月13日(木) ~ 2020年8月20日(木)
会場:PARCO劇場
料金:8,500円(全席指定・税込)

作・演出:三谷幸喜
作曲:鶴澤清介
出演:竹本千歳太夫、豊竹呂勢太夫、豊竹睦太夫、豊竹靖太夫、鶴澤清介、 鶴澤清志郎、鶴澤清丈'、鶴澤清公、吉田一輔、吉田玉佳、桐竹紋臣、ほか
囃子:望月太明蔵社中

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