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「K-INDIEチャート」日本版スタートを機に探る、韓国インディーシーンの今「レトロサウンドをどう現代的な感覚で実現できるか」

リアルサウンド

20/7/19(日) 12:00

 韓国インディアーティストに特化した音楽チャート「K-INDIEチャート」日本版の配信がスタートしている。同チャートは韓国最大手インディ・ディストリビューターである<Mirrorball Music>によるもので、日本では韓国の実力派アーティストを紹介するレーベル<Bside>が公式ライセンスを結び、WEBメディア「BUZZY ROOTS」とコラボして、最新チャートを公開中だ。そこで<Mirrorball Music>のイ・チャンヒ氏と<Bside>のキム・ソニ氏にインタビューを行い、「K-INDIEチャート」スタートの経緯から、SE SO NEONやHYUKOHといったアーティストが賑わせてきた韓国インディーシーンの現在についてまでじっくりと聞いた。(編集部)

(関連:コロナ禍でのライブ活動、海外シーンの動向は? アーカイブ配信、無観客、バーチャル……新たな4つのアプローチを探る

■「K-INDIE CHART」韓国での存在感
ーーまずはお二人が音楽業界に携わることになったきっかけを教えてください。

イ・チャンヒ:私がこの業界に入ったのは1998年です。元々ミュージシャン志望でバンドのボーカルをやっていました。メンバーの中にはプロデビューした人もいたのですが、僕は自分が音楽をやるよりは、サポートをしようということで方向転換して、ウンジンメディアという韓国の音楽流通会社に入って、アルバムの投資や流通などの仕事をし始めました。そのあとは、韓国のCJ ENMという、Mnetなどを持っている大きい会社で仕事をして、2009年1月に「Mirrorball Music」を設立して、インディー音楽の制作や配給、流通やライブの企画を始めて、10年間着々と仕事をし、韓国インディー音楽の中ではナンバーワンの会社として定着したという流れです。

――「Mirrorball Music」を立ち上げたきっかけは?

イ・チャンヒ:元々自分でバンドをやったり、バンド音楽やロックが好きで、韓国のライブハウスやクラブが沢山集まっている弘大(ホンデ)という日本の下北沢や渋谷のようなエリアに行って、そこにいる人たちと交流しながら、自然とインディー音楽が好きになっていきました。インディー音楽はメジャーに比べたら利益率が低いので、大きい会社ではそこまで興味がなかったんです。だから、インディー音楽に集中できるような会社を作ろうと決心しました。

――なるほど。ソニさんはどうですか?

キム・ソニ:2002年の日韓ワールドカップのときに、<Being Music Korea>という、日本のビーイングの韓国支社が出来たんですね。私は日本の音楽も好きだったので、レーベルマネージャーとして初めてこの業界に入って、そこでB’zやZARDのリリースの準備をしました。でも、ワールドカップのあとも韓国では日本のアルバムをそのまま日本語で発売できない状況で。そのあと転職してKBSという日本のNHKのような放送局の子会社の音楽部門に入社しました。そこで空前の韓流ブームから、サントラの制作や『冬のソナタ』の番宣担当になったり……その後韓国の会社の日本支社に転職することになって、2007年に日本に来たんです。そこでは日本のアーティストの音楽を韓国でライセンスしていたんですけど、韓国では海外アーティストのマーケットが非常に少なかったので苦戦していました。2013年に今のKakaoM、当時のLOENエンターテインメントが日本支社を作るということで日本オフィスでIUやHISTORYの展開をしました。そんな中、社内で<文化人>というレーベルが立ち上がったので、OOHYO(ウヒョ)などインディーアーティストの日本展開もサポートや制作をしながら、日本支社の設立を一緒に準備していました。残念ながら設立には至らなかったのですが、そのあと<TOY’S FACTORY>でインターナショナル部門のヘッドとして、RUANNなどを担当していました。

 私も元々ロックやインディー音楽などサブカルが好きで。KakaoMは資金力がある会社だったので、K-POPアイドル以外のジャンルも紹介しようとアピールしたんですけど、中々難しかったんですね。<文化人>で一部の仕事を手伝うことはできたんですけど、やっぱり自分でレーベルを立ち上げたいというのはこの業界に入ってから長年の夢だったので。ようやく昨年自分のレーベル<Bside>を立ち上げて、インディーアーティストを積極的に紹介することができるようになりました。

――お二人の出会いと、K-INDIE CHARTがスタートするまでの経緯も教えてください。

キム・ソニ:韓国の仲良くしているインディーミュージシャンの紹介で出会って、みんな仲が良かったので自然と交流が深まりました。それでチャンヒさんが2011年にK-INDIE CHARTをスタートしたんですけど、その前から私も韓国のインディーアーティストを紹介したいという気持ちがあって。チャンヒさんも韓国のインディーアーティストを世界に発信できればなという思いはずっとあったので、それで意気投合して。二人で5年前から準備はしていたんですよね。実際にどういう形で紹介するかなど相談しながら、やっと今実現できた感じですね。

――チャートの仕組みはどうなっているんでしょうか。

イ・チャンヒ:K-INDIE CHARTは、インディーアーティストのアルバムの販売チャートです。CD、LPなどの販売チャートで、韓国でCDの販売を主にやっているオンラインストアと、数は少なくなりましたがオフラインのレコードショップの売り上げを各店舗からもらって、Mirrorball Musicが2週間に1回、まとめて集計をしたものがチャートになっています。最近はデジタルストリーミングやダウンロードなどのデータがもっと重要になってきたので、そのデータも早いうちに一緒に集計できるようにと考えております。

――今後は全部合算したランキングになっていく予定もあるということですね。

イ・チャンヒ:そうですね、合算するかバラバラにするか、まだ具体的には決まってはいないのですが、ストリーミングのトレンドも反映する予定があります。

――チャートを始めてから、リスナーやアーティストからはどんな反応がありますか?

イ・チャンヒ:このチャートを作った理由の一つとして、まだ一般的に知られていない良い音楽を紹介したいという思いがあって。だから、アーティストは当時大歓迎してくれました。KBSのラジオ番組では定期的にこのチャートを紹介してくれたり、メディアからも関心が高まっていて、当初はムック本にして紙の印刷物として放送局に配布していました。そんなふうに最初はミュージシャンや業界で興味が高まっていきました。アーティスト自身が宣伝してくれるので、そこからリスナーやファンに広まって、どんどん重要なチャートだという認識になっているようです。

――元々ソニさんも日本に広めたいという思いがあったということでしたが、具体的に今回日本進出に至った経緯は?

キム・ソニ:<Bside>で、韓国インディー音楽を紹介するために日本版「K-INDIE CHART」を作りたい、という考えにMirrorball Musicさんも賛同してくださって、お互いにモチベーションが高まりました。実は5年前から一緒にやりたいという話はずっとしていたんですけど、タイミングがなかなか合わなかったんですね。というのも、データのアーカイブが蓄積されて、翻訳して出すという作業があるのですが、私はネイティブではないので、日本語の確認作業が必要だった。それを一緒にできるクルーをずっと募集してきて。今は自分でレーベルも立ち上げて、「BUZZY ROOTS」というKインディー専門メディアのスタッフも<Bside>クルーとして一緒に翻訳作業をしてくれたり、韓国サイドでMirrorball Musicさんのデータを収集して定期的にアップデートしてくれるスタッフもいて、やっと日本で展開できることになりました。

――良い人に巡り合えて実現できたんですね。

キム・ソニ:そうなんですよ。いい出会いに本当に感謝しています。ちょうど最近SE SO NEONやHYUKOHらの人気もあって、K-POP以外の音楽に興味を持ったり、好む人が増えてきたのも非常にいいタイミングだなと思いました。むしろ5年早められなくて良かったのかもしれません(笑)。

■日本の音楽シーンは“多様性”があることが長所
――お二人は、日本のリスナーや音楽シーンにどういった印象を持っていますか?

イ・チャンヒ:多様な音楽が存在するということが、日本の音楽シーンの大きい長所だと思います。多様性が存在するのは、音楽を聴いてくれるリスナーや、CDを購入して、ライブを観てくれる文化的な体験サイクルがあるからですが、そういう点が印象的ですね。

キム・ソニ:私はずっとメジャーレーベルやマネージメントに関わっていましたが、色々なジャンルの音楽が存在する日本のマーケットには非常に興味がありました。実は、私自身がオタクでもありますが(笑)、韓国のアーティストを日本で紹介したい、日本のアーティストも韓国で紹介したいと思っているので、日本の音楽シーンにより愛情を持っているかもしれないですね。

――たしかにオタク気質というか、熱心な音楽ファンも多いですね。

キム・ソニ:日本のリスナーは色々な音楽を自分でディグって聴くところが良いですね。音楽を聴いてくれる層が広いところは羨ましいです。音楽やアートに対してマニアックなリスナー、ユーザーがいてくれるのはすごくいい環境ですね。

――なるほど。では、具体的に最近人気のあるアーティストについて教えていただくことはできますか?

イ・チャンヒ:韓国では今、大きく分けるとイージーリスニング系とレトロサウンドという2つのジャンルが非常に流行しています。特に、レトロサウンドを現代的な感覚でどうやって実現できるかがポイントです。例えばイージーリスニングインディー音楽は、静的でメロディー中心の作品で赤頬思春期(BOL4)などの音楽が人気で、レトロなインディー音楽はJANNABI(ジャンナビ)のようなバンドサウンドが人気です。特にレトロサウンドは、70年代から80年代のサウンドを現代的にリバイバルしたものですが、ポイントは斬新なサウンドにすること。現在のサウンドを含め、どうやって洗練されたサウンドとして表現するのかがポイントです。

キム・ソニ:韓国ではレトロと新しさを合わせた“ニュートロ”がここ数年人気で、日本の渋谷系もネオ渋谷系として流行ったり、HIPHOPもちょっとジャジーな感じだったり、イージーリスニング系のサウンドがトレンドになってきています。それは韓国というより、全世界でのトレンドなんじゃないかなと思います。

■コロナ禍における韓国でのライブ事情
――韓国で人気の高い日本のアーティストはいますか?

イ・チャンヒ:SEKAI NO OWARIは韓国のAXホール(現YES 24 Live Hall)という2000キャパくらいのところでライブをやっていて、知名度が高いですね。

キム・ソニ:あと、ONE OK ROCKは特に人気がありますね。以前一緒にインタビューしたリア・キムさんとか業界でも好きな人多いし。それからシティポップもトレンドなので、弘大では昭和の日本の音楽も、Night TempoのようなDJがVaporwaveやFuture Funkスタイルで流したりしています。

――日本では新型コロナウイルスの影響で以前のようなライブができなくなってしまっているんですが、韓国では今どういう状況ですか?

イ・チャンヒ:以前はインディーアーティストの活動の多くを占めているのがライブだと言えるくらいだったので、韓国でもすごく損害が大きいです。韓国ではオンラインライブを“レンソン(LAN線)ライブ”と呼ぶのですが、視聴者がライブを視聴し、口座振り込みなどで支援する形で増えてきています。キャパが小さいライブハウスより、リミットがないのでむしろ良い実績に繋がるケースも見られます。

――日本では、ソーシャルディスタンスをとったり、キャパシティの50%以下といった指標のもとで徐々に再開していく見込みもあります。韓国のライブハウスではそういったルールなどはありますか。

イ・チャンヒ:韓国も日本と似たような状況で、小規模のライブはソーシャルディスタンスを保ちながら再開できるようになってきています。ただ、インディーアーティストが出演する大型フェスはキャンセルや延期が多く、まだ厳しい状況ですね。席がある場合は隣の席を必ず空けて座ったり、キャパの50~70%程度のチケット販売をして、座席の間隔を1~2メートル離れて配置したりする場合もあります。

――日韓をつなぐ架け橋として、お二人が今後やっていきたいことを教えてください。

イ・チャンヒ:今、K-INDIE CHARTが良いスタート地点だと思うので、どんどん重要なポジションに成長できればと思います。チャートをきっかけに日本と韓国のアーティストが音楽で交流しながら、日本のいい音楽も韓国で紹介したいです。もちろんライブもやりたいですが、オフラインだと今はどうしてもリスクが高いので、オンラインでできることをやっていければ、と。オンラインでコラボをしたり、一緒に作品も作れたらなと思います。

キム・ソニ:<Bside>やK-INDIE CHARTを通じて日本のリスナーに韓国のインディー音楽を知らせて、日韓の交流ももっと広まってほしいし、逆に韓国でも日本のインディー音楽を紹介できる機会があればいいなと思います。日韓のアーティストでのコラボがたくさん実現して、音楽だけじゃなく、カルチャーの交流がもっと活発になってほしいという思いもあります。コロナの影響で準備していた韓国アーティストの来日公演はしばらく難しいと思いますが、その代わり日韓でオンラインフェスを企画していて、メディアと一緒に組んでやっていければと思っています。(村上夏菜)

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