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年末企画:麦倉正樹の「2019年 年間ベストドラマTOP10」 “多様性”から一歩踏み出した関係性の結び方

リアルサウンド

19/12/22(日) 12:00

 リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2019年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに分け、国内ドラマの場合は地上波および配信で発表された作品から10タイトルを選出。第5回の選者は、無類のドラマフリークであるライターの麦倉正樹。(編集部)

1.『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』(NHK総合)
2.『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』(NHK総合)
3.『俺の話は長い』(日本テレビ系)
4.『きのう何食べた?』(テレビ東京系)
5.『時効警察はじめました』(テレビ朝日系)
6.『まだ結婚できない男』(カンテレ・フジテレビ系)
7.『詐欺の子』(NHK総合)
8.『わたし、定時で帰ります。』(TBS系)
9.『べしゃり暮らし』(テレビ朝日系)
10.『本気のしるし』(メ~テレ系)

 昨年も同カテゴリーのベスト選出に参加したが、改めてそのリストと比較してみると、正直今年は個人的に、“前のめり”になって観たドラマが少なかった印象がある。「好きな役者が出ているから」以上の意味と強度を持つドラマが、果たして今年、何本あっただろうか。そのなかでも『いだてん』は、そこに投じられた労力や熱量、入念な準備、キャストの数など、あらゆる意味で突出していた。何よりもまず、東京オリンピックを来年に控えた今、この国とそこに生きる人々が、かつて「オリンピックに対して、どのような思いを抱いてきたのか」を振り返ることが、これほどのアクチュアリティをもって胸に響いてくることに衝撃を受けた。改めて、宮藤官九郎をはじめ、スタッフ一同に賛辞を送りたい。ただし、「落語」をめぐる挿話には、少々疑問をもったことも否めない。たたでさえ重層的で複雑な物語に「落語」の部分がある種の“とっつきにくさ”や“混乱”を与えてしまったのではなかったか。少なくとも自分はそう感じた。

 『腐女子、うっかりゲイに告る。』もまた、非常に感銘を受けたドラマだった。セクシャリティの問題を扱ったドラマではあるものの、それを超えた青春物語としての“瑞々しさ“と“痛み”が、確かにそこにはあった。主演の金子大地と藤野涼子を讃えたい。映画『ボヘミアン・ラプソディ』の大ヒットを受けたタイミングということもあり、全編で使用されたクイーンの楽曲も非常に効果的だった。そして、同種のドラマというとやや語弊があるが、同性カップルの日常を描いた『きのう何食べた?』も、非常に丁寧に作られたドラマとして、強く印象に残っている。西島秀俊と内野聖陽がキャスティングされた時点で大きな反響のあったこのドラマだが、ことさら気負うことなく、ごく自然体で臨んだように思える彼らの好演は、同性カップルの“リアル”以上に、人としての当たり前の“気遣い”や“誠実さ”といったものを浮かび上がらせており、その意味でも、非常に意義深いドラマだったのではないだろうか。

 つい最近の話ではあるけれど、『俺の話は長い』は、毎回とても楽しく観た一本だ。実家住まいのニートが主人公であること、30分のエピソード×2という大胆な構成など、かなり先鋭的なドラマになるかと思いきや、そこで描き出されるのは、現代にアップデートされた「ホームドラマ」としての、悲喜こもごもの味わいだった。得意の屁理屈で相手を煙に巻く、生田斗真演じる主人公・岸辺満の台詞をはじめ、びっしりと書き込まれた台詞とその掛け合いの妙味には、毎回驚かされた。とりわけ、生田斗真とその姉を演じた小池栄子の掛け合いは、まさしく“絶品”と言っていいだろう。できれば、続編の制作にも期待したい。ところで、主人公一家の姓が「岸辺」なのは、ひょっとして山田太一脚本による往年の名作ドラマ『岸辺のアルバム』(TBS系)を意識していたのだろうか? どちらも川沿いに暮らす、家族の話ではあるけれど。

 と、ここまで見てきて、上記3作品に共通していたのは、「自分とは違う他者と、どう誠実に向き合うことができるのか」というテーマではなかったのか? という思いが湧いてきた。昨年のテーマが“多様性”だったとするならば、今年はさらにそこから一歩踏み出して、そのような他者と、どのように関係性を取り結ぶことができるのか? にあったのではないか。恋愛とも友情とも異なる……あるいは、それらが交じり合った、ある種の“人間愛”に基づいた関係性。その要素は、13年ぶり(!)の復活を遂げた『まだ結婚できない男』にも感じられたし、最終的には単なる男女の“イチャコラ”ドラマに陥ってしまったことが個人的には残念だったが、波瑠主演のドラマ『G線上のあなたと私』(TBS系)にもあったように思う。さらに言うならば、今の日本における「働き方」の問題を、実は群像劇のように描き出していた『わたし、定時で帰ります。』にも、それは確かに感じ取れたように思う。自分とは異なる価値観をもった人物を、即座に排除・拒否するのではなく、その価値観をどのように解きほぐしながら歩み寄っていくことができるのか。それが今の社会にとっては“肝要”ということなのだろう。

 

 それ以外では、12年ぶり(!)の復活を遂げた『時効警察』の相変わらずの“くだらなさ”……もとい“面白さ”(とりわけ、吉岡里帆のはっちゃけた芝居!)、いわゆる「オレオレ詐欺」の問題を、ドラマとドキュメンタリーを併用しながら描き出した中村蒼主演の単発ドラマ『詐欺の子』、テーマ自体にさほど目新しさはないものの、漫才シーンにおける間宮祥太朗と渡辺大知の抜群の輝きと、演出家・劇団ひとりの手腕が光った『べしゃり暮らし』、全国ネットしていない地方局発信のドラマではあるものの、TVerで全話無料視聴することのできた、深田晃司監督の野心作『本気のしるし』などが印象に残った。

【TOP10で取り上げた作品に関連するレビュー】
『いだてん』がドラマ史に残る画期的な作品となった理由 “オリンピック”で重なった昔と今
小説の衝撃をドラマに昇華 『腐女子、うっかりゲイに告る。』が描いた世界を単純化しないこと

■麦倉正樹
ライター/インタビュアー/編集者。「リアルサウンド」「smart」「サイゾー」「AERA」「CINRA.NET」ほかで、映画、音楽、その他に関するインタビュー/コラム/対談記事を執筆。Twtter

■放送情報
『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』総集編
[NHK総合]
12月30日(月)
午後1:05~3:20 〈第1部〉前・後編
午後3:25~5:40 〈第2部〉前・後編
[NHK BSプレミアム]
1月2日(木)
午前8:00~10:15 〈第1部〉前・後編
1月3日(金)
午前8:00~10:15 〈第2部〉前・後編
作:宮藤官九郎
音楽:大友良英
題字:横尾忠則
噺(はなし):ビートたけし
出演:阿部サダヲ、中村勘九郎/綾瀬はるか、麻生久美子、桐谷健太、斎藤工、林遣都/森山未來、神木隆之介、夏帆/リリー・フランキー、薬師丸ひろ子、役所広司
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/idaten/r/

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