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『シン・ゴジラ』は“コントロールルーム映画”だった? 速水健朗が庵野監督の意図を読み解く

リアルサウンド

16/8/15(月) 16:00

 皆『シン・ゴジラ』について語りすぎである。こちらが語ることがなくなるのでやめて欲しい。危機管理にまつわる行政組織論、右から左からの日本人論、震災、原発事故との関連した議論などはもちろん、鉄道に関する知識、上陸経路に関する考察、建築物からの視点などおもしろい議論がネットからいち早く出そろった感があり、うかうか後出しじゃんけんなんてできやしない。とはいえ、それでもまだ語り尽されてないのが『シン・ゴジラ』なのである。ここでは、僕が好きな本作の細部の話をしよう。本論は、“中央制御室映画”としての『シン・ゴジラ』である。

 告白するとセンターコントロールルームが出てくる映画が好きだ。中央制御室、またはオペレーションルーム。呼び方は、何でもいいが、情報を一元化して集積し分析官、オペレーターたちが見守る空間が登場する映画というジャンル分けが可能である。ちなみにコントロールルーム映画の代表に『アポロ13』がある。この映画は、打ち上げられた宇宙船の話だが、それを見守る中央制御室(ヒューストン管制センター)の話でもある。事件は、アポロ13号内部で起こっているが、それに対処するのはむしろ管制室のオペレーターたち。オペレーターが酸素圧力の数値を読み上げ「まさか…あり得ない」とつぶやくからこそサスペンス映画たり得るのである。

 『シン・ゴジラ』とのつながりでいえば、『新幹線大爆破』も新幹線の運行を見守るコントロールルームがふんだんに描かれた映画だった。爆弾が仕掛けられた新幹線がどこを走っているのかは、運行の管理を行う制御室の巨大モニターに表示されている。これは、国鉄の許可がもらえなかった映画なので、架空の制御室である。

 近年であれば『ジュラシック・ワールド』も素晴らしいコントロールルーム映画だった。恐竜たちのいるテーマパーク全体の情報管理が、この中央制御室のコンピューターで一元管理されている。『アポロ13』が乗組員の心拍数をモニターしていたのと同様に、ここではパーク内のガードマンたちの心拍数をモニターしている。恐竜に襲われた彼らがばたばたと殺されていくのが、モニタリングされている。本作のオペレーターは、主人公たちよりも気になる奴だ。恐竜マニアで『ジュラシック・パーク』のTシャツをこっそり着て、いつもコーラを飲んでいる。

 さて本題。『シン・ゴジラ』では、長谷川博己演じる官房副長官が、東京湾での海底での異変を受け、まずは情報を得るために首相官邸地下へと向かう。この官邸地下には、一元的に情報が集まる「危機管理センター」が設置されている。いわゆるコントロールルームである。オペレーター、分析官たちが集まり、危機管理の体制が整いつつあるという場面だ。主人公が最初に登場するシークエンスで、コントロールルームが登場する。これは、この映画がコントロールルーム映画であることの何よりの証拠である。

 『シン・ゴジラ』は“会議映画”だという声があるが、会議の場面と交互に描かれるのが、このコントロールルームである。会議は、メンバーが対峙する形で、全員が互いに顔を向け合って行われるものだ。だがコントロールルームは違う。基本的には、皆が正面のモニターを向いている。『シン・ゴジラ』の官邸執務室での会議の場面では、意思決定のための手続きのもどかしさが描かれるが、すでに目的が共有されているオペレーションルームの場面では、作戦の運用やそれにまつわる決断の場面が描かれる。会議は民主主義的手続きの場所だが、後者は決定に基づいて動く運用のための場所である。

 「危機管理センター」のオペレーションルーム(緊急災害対策本部)は、巨大な部屋にスクエアにデスクが並べられ、正面に巨大モニターがあり、その両脇に、4X4の小モニターが並んでいる。ちなみに調べてみると、実際の撮影場所はすぐに見つかった。ここは、湾岸の有明にある内閣府が管理する防災施設“東京臨海広域防災公園”のオペレーションルーム。約960㎡、座席数186の本格的なコントロールルームで、娯楽映画などの撮影にも有償で貸し出しが行われるという。あまりハイテクではない印象だが、『シン・ゴジラ』は、怪獣の存在以外はリアリティ重視で制作されていることもあるからリアリティ重視なのだろう。ここは、実際に災害発生時には首都圏広域の現地対策本部として使われる可能性があるオペレーションルームなのだ。

 この部屋のプロジェクションモニターのサイズは、300インチ(参考:東京臨海広域防災公園公式サイト)。この巨大モニターが4分割されて、上陸予想の地図、現地映像などが表示されている。ちなみに、映画の中ではオペレーションルーム以上に、これに付属する座席数52の「本部会議室」の方が多く登場していた。余貴美子演じる防衛大臣が、再上陸したゴジラへの攻撃の命令確認を首相から取る場面がこの本部会議室だった。

 この場面で思い出すのは、ビンラディン襲撃を題材にした キャスリン・ビグロー監督の『ゼロ・ダーク・サーティ』である。ビンラディン邸を突き止めたCIAが、数ヶ月かけて偵察を行うが、そのオペレーション・ルームはもっとハイテクな制御室として描かれていた(これも素晴らしいコントロールルーム映画! なんといっても世界最高峰のコントロールルームは、ホワイトハウスのそれだ)。ビンラディンが実際にそこにいる確実性はさほど高くはなかった。CIAの会議では、攻撃の判断をくだすかどうかを議論する会議の場面が描かれる。

 ビンラディン襲撃の場合、現実の作戦実行に許可を出すのは大統領である。「アメリカは大統領が決める、あなたの国は誰が決めるの?」のカヨコ・アン・パタースンの台詞のとおり。そして、実際の作戦は、オバマ大統領以下、安全保障会議のメンバーが、ホワイトハウスの「シチュエーションルーム」に集合し、そこにリアルタイムに送られてくる作戦の映像を見守りながら行われたらしい。もちろん、詳細はシークレットである。とはいえ、2011年、米海軍の特殊部隊がビンラディンを襲撃した際、その“シチュエーションルーム”の様子を映した写真は、ホワイトハウスによって公開されて話題になった。(参考:flickr掲載写真

 この実際のシチュエーションルームを見ると、まったくハイテクではなくて笑ってしまう。白い壁紙がださ過ぎる。現実は、ハリウッド映画とは違うのだ。各自がノートPCを開いているし、今は懐かしいLANケーブルでインターネットにつなげている。紙コップで持ち込まれた飲み物が生々しい。映画だと気を遣うところだ。紙コップはない。ところで、この写真は、『シン・ゴジラ』における立川の対策本部の画を彷彿させる。

 物語の中盤、ゴジラの首都襲撃を受けて、官邸地下の「危機管理センター」は放棄される。放棄しなくてはいけないコントロールルーム。皆が慌てて撤退する場面が描かれる。そのあとにガランとしたオペレーションルームのカットがある。“中央制御室映画”ファンにとっては、もっとも切ない場面だ。

 そして、官邸機能は立川の広域防災基地に移管される。長谷川博己率いる“巨大不明生物災害対策本部”も、この立川の予備施設内に急ごしらえの本部機能を設置される。ここには、巨大モニターの代わりに小さな液晶テレビが置かれている。ここが、ホワイトハウスの“シチュエーションルーム”の生き写しである。個々の長机には、ノートPCが開いたまま置かれているが、まんまLANケーブルがつながれている。いまどき見ない。ちなみに、皆大好き泉補佐官の前に置かれたPCだけはずっと閉じている。泉はずっと政局や出世についてしゃべっているが、まったく仕事をする気配は見せない。

 こうして確認してきたように『シン・ゴジラ』は、“中央制御室映画”だ。とはいえ、コントロールルームに集まったで主人公が新しい事態を知ったり、観客が状況を把握したりといった場面は、さほど多くはなかったかもしれない。しかし、長谷川博己がゴジラの第三形態への変化を見て「まるで進化だ」とつぶやいたりするのは、コントロールルームのモニター越しに情報を得ていると考えるべきだろう。その辺は、映画を観る側が想像を働かせないといけない部分だ。

 ちなみに『シン・ゴジラ』には、こうした主人公回り以外にも、多くのコントロールルームが登場する。東京都庁の対策本部は、半円形にデスクが並べられ、正面に大モニターがあるタイプのコントロールルームだ。また、自衛隊では、市ヶ谷の本部、多摩川に陣を敷いた指揮所の2つも、センターモニターによって随時情報が寄せられるコントロールルームである。それぞれに違った制御室が描かれている。

 そして、物語のクライマックスの舞台、科学技術館の屋上の指揮所もまたコントロールルームだ。だがついにセンターモニターはなくなった。変わりに、ゴジラが視認できる場所が選ばれている。情報が一元化される場所としても、ここは現場に近い指揮所でありコントロールルームでもある。

 さて、主人公回りという意味合いにおいては、官邸地下、最初の巨災対本部(特に施設として見るべきものがあるわけではない)、立川の仮巨災対本部、科学技術館屋上という具合に、ゴジラ対策のオペレーションルームは、4段階に変化する。4段階のチェンジという意味では、ターゲットのゴジラの変態と同じである。ゴジラは、第4形態になってまさに手が付けられない完全生物になるのだが、逆にコントロールルームは、どんどんショボくなっていく。それでもゴジラに立ち向かわないといけない。『シン・ゴジラ』は、そんな映画である。「そんな」がどんなかというと、最初から最後まで、とことんコントロールルームと向き合った映画であるということだ。

 そもそも総監督の庵野秀明は、コントロールルームに意識的なクリエイターであるのは間違いない。『エヴァンゲリオン』という作品は、まさにコントロールルームを描いたアニメだった。青葉シゲル、伊吹マヤといったキャラは、そのオペレーターだった。そこを撤退する場面こそが、エヴァのクライマックスだったはずだ。逆に、あれ以上のクライマックスが描けなかったからこそ、エヴァは終わらせ方に失敗したのだ。

 『シン・ゴジラ』の物語のラストについて。まだゴジラとの攻防の余韻も残る科学技術館屋上での主人公とカヨコ・パタースンの会話で物語は締められる。凍結した標的、そして破壊し尽くされた都市がこの場所の前に広がる。ここは、ゴジラとの共存という意味が加わった未来への復興のためのコントロールルーム。そう見るべきだろう。

■速水健朗
1973年生まれ。雑誌編集者を経てライターに。著書『タイアップの歌謡史』『1995年』『フード左翼とフード右翼』『東京β』『東京どこに住む?』ほか。ラジオ番組『速水健朗のクロノス・フライデー』(TFM)などのパーソナリティーのほか、テレビのコメンテーターとしても活躍中。

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■公開情報
『シン・ゴジラ』
全国東宝系にて公開中
出演:長谷川博己、竹野内豊、石原さとみ
脚本・総監督:庵野秀明
監督・特技監督:樋口真嗣
准監督・特技統括:尾上克郎
音楽:鷺巣詩郎
(c)2016 TOHO CO.,LTD.
公式サイト:http://www.shin-godzilla.jp/

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