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大高宏雄 映画なぜなぜ産業学

『TENET テネット』大ヒット! コロナ禍でゆったりした映画館に慣れた観客を迎える映画興行界の「特別な秋」

毎月29日掲載

第26回

20/9/29(火)

『TENET テネット』(C)2020 Warner Bros Entertainment Inc. All Rights Reserved

前回お伝えした「特別な夏」の映画興行のありようが、「特別な秋」に移りつつある。その理由は2つある。本来なら、9月19日から100%に緩和されるはずだった座席販売が、「飲食」(飲み物含まず)の館内持ち込みの有無によって、まちまちになった。「100%以下(飲食なし)」と「50%以下(飲食あり)」に、各映画館の対応が分かれたのである。もう1つが、クリストファー・ノーラン監督の今年最大クラスの話題作『TENET テネット』(9月18日公開)の興行において、IMAXシアターをはじめとする大スクリーンで鑑賞する観客のシェア(興収)がかなり高くなったことだ。後者は十分に予想されたが、前者は全くの想定外であった。そこから、コロナ禍のなかにおける映画を見る観客の変化を感じる。

映画館は5月末以降の再開に伴い、これまでは「50%以下」の収容人数でチケットを売っていた。これが、全面的には元に戻らず、二分化状態が当面の間続く。いくつか考えられることがある。「50%以下」で、ゆったり観られたことに慣れ親しんだ人たちが結構多いのではないか。このコロナ禍では、間隔をあけた座席で映画を観ることが、広く浸透したように思える。消毒液の設置、体温測定、マスク着用の義務(推奨から義務になった)、換気の徹底性など、映画館側の感染防止対策は万全に行われているとして、それだけでは安心できない観客も相当数にのぼると推測する。映画館内の混み合い、密状態を避けたい。そのように思う観客は、「50%以下」の映画館を選ぶ。慣れとは、こういうことである。

ただ、映画館側からしたら、そのような状態では、いつまでたっても平時の収益は見込めない。大ヒット作品が出たとしても、スクリーン数の拡大により、その作品に数字が加算されるだろうが、シネコン全体では興収が伸びることはない。洋画を中心に、大作、話題作の新作の数が限られていることと、どうしても座席50%限定がネックになる とともに、二分化した状態は、顧客の心理面を浮き彫りにすることだろう。100%可能な映画館にしても、さきに指摘した慣れが生む鑑賞姿勢がある一方、満席状態は少ないとしても、空いているのに、隣に座られたら嫌だという人もいるに違いない。ネットで余裕をもって購入したが、映画館に来たら左右に観客が座っていた。ありえることである。そんな心配をしたくないから、最初から「50%以下」を選択する。映画館にとって飲食収入は大きいが、観客側の心理面を考慮すると、いろいろな見方ができる。観客側が安心の度合いを求めれば求めるほど、映画館側は収益面でシビアな状態を余儀なくされる。

今述べてきたのは、主にシネコンに関することだが、「100%以下」が多いミニシアターでも同じことが言える。シネコンと違い、館内スペースは当然小さい。これまでは出かけていたが、さきのシネコンのような事態を想定して、行くのを躊躇する人が出てくるかもしれない。ミニシアターだからといって、作品オンリーで足を運ぶわけではないだろう。とくに平時には年配者が多い特徴のあるミニシアターでは、ただでさえ集客を落としている。緩和を受けて、「100%以下」の座席販売は止むに止まれぬ選択だろうが、今後の様子を見てみないと、どのような興行展開になるか予断は許さない。シネコン、ミニシアター含め、緩和による大きな変化は見込めないような気がする。

『TENET テネット』に話を移せば、大ヒットであるのは間違いない。最終の興収で20億円は超えてくるだろう。冒頭で述べたように、本作はIMAXシアターなど、大スクリーンでの集客が高い。IMAXシアターの興収シェアは、スタート時では全体の約25%を占めた。これにより、1人あたり単価が1600円台に上がった。ここが、大ヒットのもっとも重要な点だ。大スクリーンで見る。映画の原点がそこにあり、『TENET テネット』は、まさにそこを突き詰めてきた感がある。ただ、大都市(圏)と地方の比較では、約48%対約52%の興収になったことも指摘しておきたい。通常の作品では、両者がここまで拮抗することはない。単純に言えば、『TENET テネット』は都会向きということだ。

中身に深く触れる余裕はないが、映画のなかで随所に登場する逆行する時間軸の映像が見どころで、1回観ただけでは理解できないとの喧伝のされ方が、強く響いた人には響いたということだろう。これは、ノーラン監督のこれまでの作品、作風の上に立った映画のありようであり、ある程度それを知悉した映画に関心の高い観客への発信が、非常に強力だったということを示す。しかも、それを受け止めて、映画館に足を運ぶ多くの観客がいた。それは、映画を映画館で見ることの素晴らしさを広く知らしめることにつながっていたと思う。『TENET テネット』は、人々を大スクリーンへと誘う魔力を広範囲に放った。そのとてつもない意味こそ、今年の映画興行の白眉でもあったろう。

「特別な秋」は、これまでと全く様相の違った興行の実相、映画の在り方をあからさまにしている。それらは、映画館における、映画館で観る映画のさらなる可能性と深く結び合っているようにも感じる。いくつもの「特別」な日々が、これから続くかもしれない。今後も、厳しい興行に変わりないだろうが、少しなりとも光明を見い出したい。そんな思いを『TENET テネット』からもった 。


プロフィール

大高 宏雄(おおたか・ひろお)

1954年、浜松市生まれ。映画ジャーナリスト。映画の業界通信、文化通信社特別編集委員。1992年から独立系作品を中心とした日本映画を対象にした日プロ大賞(日本映画プロフェッショナル大賞)を主宰。キネマ旬報、毎日新聞、日刊ゲンダイなどで連載記事を執筆中。著書に『昭和の女優 官能・エロ映画の時代』(鹿砦社)、『仁義なき映画列伝』(鹿砦社)など。

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