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平辻哲也 発信する!映画館 ~シネコン・SNSの時代に~

12月に新文芸坐となって20周年を迎える老舗名画座にもコロナ禍がもたらした興行スタイルの変化が。

隔週連載

第48回

20/10/25(日)

2本立て興行を続ける名画座「新文芸坐」(東京・池袋)が12月12日、20周年を迎える。日本映画の特集で人気だが、コロナ禍を機にオンラインでの前売り券販売、休憩時間をたっぷり取って、プログラム編成にも変化を持たせた。

新文芸坐は池袋駅東口から徒歩3分、パチンコチェーン「マルハン」のビルの3階に。エレベーターを降りると、右には券売機、左には昨年亡くなった和田誠さんの人気コラム「お楽しみはこれからだ」のイラストが飾られたコーナーが目に飛び込んでくる。

和田誠さんのイラストコーナー

前身は1956年に誕生した「文芸坐」。1960年代は松竹チェーンとして知られ、姉妹館「人世坐」の閉館後は名画座として営業。長らく2館態勢でファンの支持を集めたが、映画産業の環境変化などに伴い、1997年3月に閉館。その後、「マルハン」が跡地を買い取り、2000年12月から「新文芸坐」としてオープンした。座席数は264席。2本立て興行をメーンに、オールナイト興行なども行い、年間約700本を上映。1スクリーンの映画館としては最多の上映本数だろう。追悼上映の企画や監督、俳優によるトークショーも人気となっている。

座席数264席の劇場

通常興行は一般1450円、学生1350円、シニア(60歳以上)・障がい者・小学生以下(3歳以上)1200円、ラスト1本1000円(シニア・友の会950円)という価格設定。「友の会」(1年間有効、入会金2000円)に入会すれば、招待券1枚がプレゼントされ、通常興行が1150円に割引されるというのも魅力だ。

開館以降、基本的に2本立て全席自由席でやってきたが、コロナ禍を経て、一部興行スタイルを改めたという。「(混雑が予想される)特別興行とオールナイトでは、オンライン販売を始めました。全席自由席だと、来てみないと混雑状況が分からないということもありますから。休憩時間もこれまでの15分から30分程度に変え、外出券もお配りして、途中退席ができるようにしました。ロビー以外は飲食禁止にさせていただいているので、外で食事やトイレを済ませてもらうなど、できるだけ密を避けるようにしたんです」と1987年から勤務のベテラン・マネジャーの矢田庸一郎さんは話す。

勤務30年以上のマネジャー、矢田庸一郎さん

コロナ禍では、これまで足繁く通ってくれたシニア層が遠のいた。このため、緊急事態宣言解除の6月からは、若者向けのラインナップに切り替えた。ウォン・カーウァイ監督特集や新作『オン・ザ・ロック』が公開中のソフィア・コッポラ監督の2本立て(『ヴァージン・スーサイズ』2000年、『ロスト・イン・トランスレーション』2004年)には予想以上に若者が集まり、没後10年を迎えたアニメ界の鬼才・今敏監督の特集は朝から完売となる盛況ぶりだった。

ロビーに飾られている今敏監督のイラスト入りサイン色紙

「オンラインで映画を見る若い人も増えましたし、シネコンでは宮崎駿監督の旧作が人気になるなど、旧作に注目が集まっているのかもしれないですね。名画というのは、大げさに言えば、『駅馬車』(1939年)のような古典的な名作という印象がありますが、今の若い人から見れば90年代の作品も、もう十分、名画なんですね。格好もおしゃれなお客さんが多いんですよ」と矢田さんは客層の大きな変化に驚く。

旧文芸坐から30年以上のキャリアになる矢田さんの思い出は? と聞くと、話は尽きない。「文芸坐時代、『座頭市』(1989年)を撮り終えた後くらいに勝新太郎さんがお見えになりました。存在感がすごかったです。新文芸坐になってからは、森崎東監督特集、森田芳光監督、大林宣彦監督特集……。森崎監督が『ペコロスの母に会いに行く』でキネ旬ベストテン第1位を取った後での特集(2014年)だったのですが、当時、ご自身もご病気を患う中、遠方のご自宅からトークショーに駆けつけていただきました。森田監督特集(2019年)では全28作品を上映し、各作品の上映後に、奥様で映画プロデューサーの三沢和子さんとライムスター宇多丸さんが解説していただくという試みもやりました。『花筐HANAGATAMI』公開記念の特集(2017年)では大林監督もサプライズでお話をしていただき、奥様や娘さん、さらに出演者の方々も、いろんな方が駆けつけてくれてくれました。大林ファン含めて、場内全体が大林ファミリーに染まったような雰囲気に感動しました」。

ロビーの様子

閉館を乗り越えて、新たに20年に映画ファンに愛されてきたが、名画座ならでは、の難しさも感じているという。矢田さんは「映画の黄金時代を知っている人たちは亡くなり、50〜60年代のプリントも、この20年で取り寄せにくくなっています。現状、ブルーレイを含め、デジタルでの上映が7割程度です。一方、画一的なシネコンとは違う、名画座の良さが見直されている気もします。これからも、探りながらやっていくしかないと感じています」と矢田さん。12月に迎える20周年に向けた企画にも期待したいところだ。

映画館データ

新文芸坐

住所:東京都豊島区東池袋1-43-5 マルハン池袋ビル3F
電話: 03-3971-9422
公式サイト:新文芸坐

プロフィール

平辻哲也(ひらつじ・てつや)

1968年、東京生まれ、千葉育ち。映画ジャーナリスト。法政大学卒業後、報知新聞社に入社。映画記者として活躍、10年以上芸能デスクをつとめ、2015年に退社。以降はフリーで活動。趣味はサッカー観戦と自転車。

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