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いきものがかり水野良樹の うた/ことばラボ

w/塩塚モエカ(羊文学) 後篇

隔週連載

第37回

塩塚モエカとの対話も最終回に。キャリアも表現のタイプも違っているけれど、表現者として行き当たるもの、乗り越えていくものは実は共通していたりする。そのことが確認された先には、コラボの可能性も!?

水野 最近、職業作家みたいに、いろんな方に楽曲提供をさせていただいていて、そういう時期がしばらく続いていたんですけど、先月久しぶりにいきものがかりの曲を書くことが多かったんです。それがすごく大変で、なんだか全然違うんですよね(笑)。

塩塚 どういうことですか。

水野 前にも言った通り、いきものがかりというのは自分とは全然別の存在なんですよ。でも、世の中に出すときにはやっぱり自分の作品なんですよね。世の中からは、僕の考えがそこに反映されていると思われるというか。だから、自分じゃないものと自分との整合性をとらないといけないんですけど、それが頭の中でうまく整理できなくて(笑)。そこが、いきものがかりの曲を作るときの、自分にとっての難しさで……。

塩塚 それは、どうやって乗り越えるんですか。

水野 どうやっていいのかわからないんですよ。ただ頑張る、みたいな感じです(笑)。

塩塚 テーマは、やっぱり自分のなかから探してこないといけないですよね。

水野 そうですね。

塩塚 それを、バンド像に寄せていくということですか。

水野 そうなんですけど、デビュー当時からだいぶ変遷があって、最近はかなり自分が出てきてるんですね。やっていくなかで軸になるテーマというのもポコポコできていったんだけど、それを吉岡の声でどう歌うかということがすごく難しいんですよね。

塩塚 確かに、人の声で考えるのは大変ですよね。

水野 例えば僕らの「ありがとう」という曲の、“ありがとう”という言葉は最高に平たい言葉ですよね。誰でも使うし、間口が広すぎるくらいの言葉だから、そういう言葉を堂々と歌うというのはけっこう難しいと思うんです。でも、それをできるのが吉岡の声なんですよ。それが彼女のすごさなんですけど、逆に言うと、それくらい間口が広くて大きなことじゃないといけないという感じになっていったんです。

塩塚 ああ、なるほど。

水野 だから、例えば「今日電車に乗ったら向かいに座っていた女性がちょっと悲しそうな表情で、携帯を持つ手が震えてた」みたいな話は、ちゃんと物語になると思うんですけど、そういう細かい話はいきものがかりでは書けないんですよ。電車に乗る、というのでもけっこう難しいくらい。何か乗り物に乗って移動するということをモチーフにする、というくらいでギリギリなんです。だから、「38歳、男性」という僕個人の感覚や思うことがどんどん大きくなってるなかで、いきものがかりで書くべきこととの整合性をとっていくという作業は、今の自分のなかでは“どうしたものかねえ”という感じなんですよね。

塩塚 私も、バンドをはじめてまだそんなに時間が経ってないですけど、はじめたころに言いたかったことと今言いたいことは全然違うし、もっと言えば“今、何を言ったらいいのか全然わからない”と思うときもいっぱいあって……。はじめたころは反骨心というか、思春期抜けたてみたいな時期だったので、「世の中に対して思ってても言えないことがいっぱいあるだろ」みたいな感じでやってたんですけど、そういう感じではだんだんなくなってきたなと思ってるんです。でも、お客さんが求めてるのは最初のころの反骨心むき出しの感じだからラブソングをまっすぐに歌ったりできないとか。そういう悩みがあったりします。

水野 それぞれに悩みがありますよね(笑)。でも、そういうことを繰り返していくんでしょうね。

塩塚 思い切って、みんなが「こんなの、歌うの!?」というようなラブソングを1回歌ってしまえば、面白くなるのかなという気もしてるんですよ。

水野 あの……、変な先輩風を吹かせるようですが(笑)、それは絶対そうだと思いますよ。僕が「じょいふる」という曲を書いたのがデビューして4年目だったんですけど、それまではメロディアスなバラードが多くて品行方正なグループというふうに言われ、取材のときには「この歌詞の意味は何ですか?」「この歌詞で伝えたいことは何ですか?」みたいなことばかり聞かれて、まだ20代で若かったから“何で、こんなことばかり聞かれなきゃいけないんだよ”と思ったりしてたんです(笑)。歌詞に意味がある、歌詞にメッセージがあるというふうにみんなが考えることに対してイライラしてて、だからナンセンスな歌をやりたいと思って、そのチャンスを探ってたら、CMのお話をいただいて“これだ!”と思ってやったら……。

塩塚 私もタオルをグルグル回したりしてましたよ(笑)。

水野 (笑)。それが、それまでのイメージをひとつ崩すことになったんですけど、そういうタイミングって絶対ありますよね。

塩塚 今そういう岐路に立ってるな、と自分では感じています。私は今まで、自分が作ったものに対して、人から違うと言われることがなかったんですよね。バンドのメンバーも、歌詞について何か言ってくるようなことはないし。でも、タイアップとかで依頼された人から「この歌詞の意味、わからないです」と言われたりすると、自分のクセが見つかったりして、成長していける感じがするし、おもしろいです。

水野 僕がガチガチに構成したメロディーを書いて、その歌詞を発注しようかな(笑)。アイドルの方の曲とかいいかもしれないですね。

塩塚 「こういうイメージで」とか言ってください(笑)。

── では、塩塚&水野コンビのアイドルソングが生まれることを期待しつつ、この対談の感想をお願いします。

塩塚 水野さん、いきものがかりさんが、自分たちのイメージと言いたいことの間で悩んだり、私が普段感じているのと同じようことを感じたりされてるなんて思いませんでした。音楽のタイプ少し違うかもしれないけど、そういう共通点があるというのを知れたのはすごくおもしろかったです。

水野 おもしろかったですね。もちろん作品も素晴らしいんですけど、たぶん自分とは違うタイプの書き手の方のお話をうかがえて……。この対談のシリーズではいろんな方とお話させていただいているんですけど、けっこうそういうことが多いんです。隣の芝生が青く見えるという話ではないですけど、違うところに立っている書き手がお互いに惹かれ合うというか、そっちの能力を欲しいなっていうのを今回も感じたんですね。でも、その揺れ動く感じがおそらくはこれからも作っていく上で大事なんだろうなと思いました。

取材・文=兼田達矢

プロフィール

水野良樹(いきものがかり、HIROBA)

1982年生まれ。神奈川県出身。
1999年に吉岡聖恵、山下穂尊といきものがかりを結成。
2006年に「SAKURA」でメジャーデビュー。
作詞作曲を担当した代表曲に「ありがとう」「YELL」「じょいふる」「風が吹いている」など。
グループの活動に並行して、ソングライターとして国内外を問わず様々なアーティストに楽曲提供。
またテレビ、ラジオの出演だけでなく、雑誌、新聞、webなどでも連載多数。
2019年に実験的プロジェクト「HIROBA」を立ち上げ。

羊文学

塩塚モエカ(Vo&G)、河西ゆりか(B)、フクダヒロア(Dr)からなる、繊細ながらも力強いサウンドが特徴のオルナティブロックバンド。
2017年に現在の編成となり、EP4枚、フルアルバム1枚をリリース、限定生産シングル「1999 / 人間だった」が全国的ヒットを記録。EP「ざわめき」のリリースワンマンツアーは全公演ソールドアウト。
2020年8月19日に「砂漠のきみへ / Girls」を配信リリースし、メジャーデビュー。12月9日にニューアルバム『POWERS』リリース。しなやかに旋風を巻き起こし躍進中。詞曲を手がける塩塚は、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの「触れたい 確かめたい feat.塩塚モエカ」に参加するなど、ソロでも活躍が期待される。

<羊文学 Tour 2021 “Hidden Place”>
・2021年1月31日(日)名古屋 BOTTOM LINE
・2021年2月11日(木・祝)大阪 CLUB QUATTRO
・2021年2月26日(金)東京 STUDIO COAST

水野良樹の対談を終えて
言葉から広がっていくイメージというか、言葉の表面上だけではなく、その背景にあるものがうまく表現されたときのほうが伝わるんじゃないか、ということを最近気にかけてものを考えていたので、そこをまさにやられている方が対談相手だったのは、自分にとってはすごく得がたい体験だったし、うれしかったですね。最近、何かね。もうちょっと開ける気がするんですよ。自分のなかで。開けるというか……、塩塚さんみたいにはできないと思うんですけど、書き方が変われそうな気が最近してて。それを方法論に落とし込むことができるんじゃないかという予感がしてます。そういう時期にお話できた塩塚さんは、身体的な感覚とか、五感で感じるものを言葉を入り口にして表現することの極みにいるような人だから、今回の話はすごく参考になると思います。

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