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KSUKEがニューシングルに込めた、DJ/音楽プロデューサーとして思うこと 「日本人として世界と闘える武器とは何なのか」

リアルサウンド

20/7/26(日) 18:00

 DJであり音楽プロデューサーであり、バンド・コロナナモレモモ(マキシマム ザ ホルモン2号店)のメンバーでもあるKSUKEが、ニューシングル「Contradiction(feat. Tyler Carter)」をリリースした。イントロからバース、ビルドアップ、そしてドロップという、いわゆる“EDM”の明快な構成とロックのダイナミズムが融合し、聴く者のテンションがピークに達するまでの最短距離を貫くアグレッシブでストレートなインパクトは、KSUKEがアーティストとして活動する以前の、00年代や10年代の情熱に回帰し今に昇華したようにも思える。なぜ彼はここにきてこのような曲を作ったのか。その音楽遍歴をあらためて振り返ってもらうことでその真意に迫った。ポイントは世間の言う“EDM”とKSUKEの捉える“EDM”の違い。そこから浮かび上がる、彼が持つセンスの源とクラブカルチャーの魅力に注目してもらいたい。(TAISHI IWAMI)

“ジャンルとしてのEDMを作っている”という感覚はまったくない 

ーーKSUKEさんはDJ、音楽プロデューサー、ロックバンド・コロナナモレモモ(マキシマム ザ ホルモン2号店)のメンバーと、さまざまな活動をしていますが、そもそも音楽を発信することに携わるようになった経緯を教えていただけますか?

KSUKE:幼稚園の頃から親の勧めでクラシックピアノを習っていたんですけど、そういう環境の子供にありがちな、練習とか発表会とかが苦手なタイプでした。でも、親や兄、家族みんなが音楽好きだったことに影響されて、僕もだんだんといろんな音楽を聴くようになっていったんです。今の活動に繋がる転機となると、中学生の頃ですね。ゲームセンターに行くようになって、音ゲーを好きになったことと、それからしばらくしてELLEGARDENやマキシマム ザ ホルモンといった、当時台頭してきたロックバンドにはまったことが大きかったです。

ーー最初に手を付けたのはトラックメイクですか? バンドですか?

KSUKE:高校に入ってコピーバンドを組んだことが始まりです。目立ちたがりな性格もあって、その頃からステージに立つことで身を立てられたらいいなって、なんとなく思っていました。でも僕は根本的に一人が好きなんですよね。だから、大学に入ってからもバンドを組んでみたんですけど、どうもうまくいかなくて。それで、何か一人でステージに立てることはないか考えていたタイミングで、たまたま友達がクラブに連れて行ってくれたことがDJとの出会いでした。その時は、DJがブースのなかで何をやっているのか、具体的なことはまったく知らなかったんですけど、その姿が僕の目にはすごくカッコよく映ったんです。それで、DJとは何なのか、クラブに通ったり実際にクラブのバーテンダーとして働いたりして、吸収していきました。

ーーそしてDJになった。

KSUKE:DJを始めたことと並行して、パーティをオーガナイズするようにもなりました。それがけっこううまくいったんです。僕は出身が岐阜でDJ活動をやっていたのは名古屋なんですけど、その頃、名古屋でクラブに通っている人で、僕のパーティを知らない人はいなかったんじゃないかと思います。そのくらい盛り上がったんですよね。

ーーどんなパーティだったんですか?

KSUKE:僕がいろんなパーティに遊びに行ったなかで、ときどき疎外感を味わうことがあったんです。特に誰かに何をされたわけでもないんですけど、雰囲気的なことですね。

ーー“身内ノリ”みたいなことですか?

KSUKE:人を言葉で分けることにはちょっと抵抗がありますし、どう言えばいいのか難しいんですけど、例えばエッジィなファッションの人たちとか、ギャルとか、箱によっても音箱とかチャラ箱とか、目に見える色があるじゃないですか。それはそれでいい面もあるんですけど、僕はただ音楽を大きな音で感じたい人たちみんなが、フラットに楽しめる空間を作りたいと思ったんです。実際に、僕のパーティには、あらゆる職業、年齢、価値観の人たちが集まってくれました。みんなが自由に楽しんでいる光景を見て、最初は趣味で始めたところから、DJという職業の素晴らしさを実感するようになったんです。

ーー音楽的にはどのようなスタイルだったのですか?

KSUKE:僕がクラブで遊び始めた頃は、いわゆるエレクトロハウス、JusticeとかDigitalismの全盛期で。

ーー国内のDJだと、DEXPISTOLS、80KIDZやDJ KYOKOさんが登場した時期ですよね? ロックとの距離も近いシーンだったので、バンドをやっていたKSUKEさんにもハマったのではないかと思います。

KSUKE:音ゲーが好きなこともあってエレクトロには興味がありましたし、ロックも好きだし、もともと雑食で、その頃から持っている感覚は今の活動にも繋がっていると思います。今挙げられた日本のDJも、いろんな音楽の要素を採り入れていて、KYOKOさんは僕と同じ岐阜県の出身だったこともあって、憧れの存在でした。そのあと、海外ではZeddやSkrillexがヒットして、EDMのブームが起こって、僕はそこに乗っかった感じですね。

ーー10年代のEDMは本当に大きなムーブメントでしたが、KSUKEさんにとっては何だったのでしょう。

KSUKE:EDMについて話すのは、すごく難しいんですよね。俗に言う“EDM”と、僕や多くのアーティストが思う“EDM”には、差があるように思っていて。

ーーそれはどういうことですか?

KSUKE:リスナーサイドにとってのEDMって、“イントロ→バース→ビルドアップ→ドロップ”というわかりやすい構成ありきの音楽ジャンル、限定的な意味合いが強いですよね? それに対して、僕にとってのEDMが何かと問われると、文字通り“電子音を使ってダンスミュージックを作る”こと。だから、一般的なEDMの概念はわかりますし、そういう展開の曲を意識的に作ることもありますけど、そこに“ジャンルとしてのEDMを作っている”という感覚はまったくないんです。

ーーなるほど。前提が異なると話がズレてきますよね。

KSUKE:特定の構成がEDMと認知されるようになった背景としては、おそらく『ULTRA MUSIC FESTIVAL』のようなダンスミュージックのフェスがオンラインで配信されるようになったことが大きいんじゃないかと思うんです。フェスはものすごい数の多種多様な人々が集まるじゃないですか。そのなかで、かかっている曲を知らなくても、どこで盛り上がればいいか一発でわかるビルドアップからドロップの展開と、それによって生まれる熱狂が世界中に発信されたことで、日本も含め多くのリスナーが衝撃を受けたんだと思います。

ーーそのことについてはどう思いますか?

KSUKE:素晴らしいことだと思います。フェスとクラブはまたノリが違いますけど、僕らが本当に体感してほしいクラブカルチャーへの入り口にもなったと思いますし。

ーーそのEDMは死んだのかどうか。私は、EDMの次にどんなジャンルの音楽がくるのか、という視点で見ていたんです。しかし、あの規模感でまた別のジャンルが流行るとか、かつてのジャンルがリバイバルするとか、ある程度の傾向はあるにせよ、そういう繰り返される流れ自体が変わったのではないかと思います。

KSUKE:そうですよね。時代的なことで言うならば、いろんなジャンルの音楽をアーティストそれぞれの解釈でミックスして、新しくてオリジナルなものを生み出そうとしているんだと思います。だから、もはやDJでもそれらを一括りにしてジャンル分けすることは難しい。そのなかで、いわゆるEDMはどうなったのか。多くの人が“EDM”と一言で言いますけど、そういう曲を作るのってめちゃくちゃ難しいんですよ。トラック数も多いし、ミキシングの作業も大変。要するに、あのムーブメントにいたアーティストは、打ち込みのトラックメイクに極めて長けた人が多いんです。だから、今のクラブシーンやヒットチャートを見ていても、そのテイストって、けっこうな割合で入ってるし、残ってるじゃないですか。

ーーはい。

KSUKE:でも、そうやっていろんなジャンルのいいところを取り入れてミックスすることって、流行り廃り関係なく、僕らがずっと前からやってきたことなんです。そこにDTMの発達もあって優れたトラックメイカーがたくさん出てきて、スタイルが多様化するなかで、いい曲がたくさん生まれている。そういうことなんだと思います。だから、どうまとめたらいいのか、それもまた難しいんですけど、“EDMというムーブメント”は確かにあったけど、“EDMという音楽”は初めからなかったようにも思いますね。強いて言うなら、その構成やサウンドが地盤として固まって、拡散されていってるのが今なんじゃないでしょうか。

日本ならではの良さを追求していきたい

ーーKSUKEさんの作品だけにフォーカスしても、ほんとうにさまざまな曲がありますよね。2020年に入ってからも、1月にリリースしたシングル「Ohayo!」と、今回のニューシングル「Contradiction(feat. Tyler Carter)」では、まったく表情が異なります。

KSUKE:曲を作る前提として、聴いてくれる人たちを躍らせたい、とにかく楽しんでもらいたいと思っているので、僕のことを知っている人たちには、キャリアを通して統一感も感じてもらえているとは思いますけど、コンセプトによってまったく異なるタイプの曲が生まれますね。「Ohayo!」は「beatmania」に提供したゲーム音楽なので、疾走感のある部分もあれば、それだけだとプレイ中に手が疲れちゃうんで、ちょっと休めるパートもある。そういった要素を“1日の生活”に当てはめて作ったんです。「Contradiction(feat. Tyler Carter)」は、新型コロナウイルスの影響で、予定がいろいろなくなっちゃいましたけど、フェスやクラブで盛り上がる曲にしたくて、2017年くらいからブラッシュアップを繰り返して温めてきた曲です。だから展開がすごくシンプル。そこに、バトルもののアニメ『THE GOD OF HIGH SCHOOL ゴッド・オブ・ハイスクール』のオープニングテーマのオファーをいただいたので、さらにアクション性を求めて完成した曲ですね。

[Official – The God of High School – OP] KSUKE – Contradiction feat.Tyler Carter (TV Version)

ーーもともとロックがお好きだったと伺いましたが、ご自身の曲で、過去にここまでロックに接近した曲となると、「TAKE OFF feat. Toyo from New Breed」(2015年アルバム『SPACE SHOUT』に収録)くらいですかね?

KSUKE:エレクトロとロックを融合させた曲は、これまでにも何曲かあったんですけど、バランス的にはそうかもしれません。もっと突き詰めると、イントロがあってバース、ビルドアップ、ドロップと、ここまではっきりと多くの人がEDMだと思う展開の曲に、ロックの要素をミックスした曲は初めてですね。

ーーゲストボーカルにIssuesのタイラー・カーターを迎えた経緯を教えてもらえますか?

KSUKE:いろんな人にトラックを聴いてもらうなかで、タイラーに歌ってもらえたらいいねって、話はしていて。オファーしたらほんとうに歌ってくれることになったんです。

ーー原作は韓国で、アニメの制作は日本。そのタイアップ曲をアメリカ人のタイラー・カーターが歌ったことで、海外からの反応もいつもより多かったんじゃないですか?

KSUKE:そうですね。アニメが好きな人は世界中にいますし、Issuesは本国では知名度の高いバンドなので、「タイラーがアニメの曲を歌ってるぞ。しかもEDMだ」みたいな反応も多くもらいました。いい意味でも悪い意味でも、意外性を感じてもらえたんだと思います。僕は否定的な意見が出てこそだと思っているので、いろんな声があることは、すごく興味深いですね。

ーーサウンド面では、ロック然としたギターワークがエレクトロにすごくハマっていると思いました。

KSUKE:バースでは生で弾いたギターを思いっきり鳴らしたんです。ドロップは、シンセをギターっぽい感じにして、でもそれだけだとパワーが足りないと思ったので、後ろにうっすらギターを足したんですけど、それがうまくいきました。

ーーイントロ~バースの歌メロが拍に対してズレているのはわざとですか? ダイレクトに響くポップな強さを維持したまま、“Contradiction”すなわち“矛盾”を演出したようにも感じたのですが。

KSUKE:そこは狙っていなくて、偶然ですね。タイラーの歌い方もあると思うんですけど、僕もミックスの時に「あれ?」って、思いました。でも、そこをグリッドに沿って綺麗に合わせようとするとグルーヴがなくなるというか、逆に変になっちゃうからそのまま残したんです。歌が完璧に合っているのはドロップの前だけですね。ギターの音もズレたまま残してるんですけど、そういうバランス感覚は、コロナナモレモモでマキシマム ザ ホルモンというロックバンドの曲に、電子音をはめてリアレンジさせてもらった経験が活きていると思います。

ーー歌詞と“矛盾”の関係性についてはいかがでしょう。

KSUKE:歌詞はタイラーが書いてくれたんですけど、「特に深い意味はない」とのことでした。何か特定の出来事に向けたものではなく、つじつまが合わないことって誰の心の中にも大なり小なりあるもので、そのことで悩んだりうまくいかないことがあったりしても大丈夫だよって、そういうことですね。だから、歌詞に対する解釈は、彼と僕でもまた異なると思います。

ーーでは、KSUKEさんの抱える矛盾とは?

KSUKE:ちょっと話が逸れるかもしれませんが、“EDM”とか“クラブ”という言葉が雑に扱われすぎていると思うんです。“渋谷のハロウィンに合う音楽=EDM”からの“街がクラブ化した”みたいに、風紀の乱れの象徴のように言われることがあるじゃないですか。

ーーあそこで騒いでいる人たちが、実際にどれだけクラブに通っているのかっていう。

KSUKE:そうなんですよ。クラブって、もっとちゃんとエンタメしてますよね。

ーーそう思います。堅い言い方になりますけど、人間形成においても重要な場所に成り得ます。

KSUKE:僕は部活もしてなかったし、ずっと一人でアニメを観たりゲームをしたり、パソコンを触ったりしていたので、コミュニケーションが苦手で。でもクラブに行くようになってから、先輩という存在に触れて、音楽のことやDJのことをたくさん教わったし、お酒の飲み方とか、やっちゃいけないこととか、勉強という言葉は好きじゃないけど、大切なことをたくさん学びました。とは言え、決して綺麗なことばかりではない。でも、それって昼でも夜でもどこの場所でもそうで、クラブだけが突出して乱れているわけではないのに。DJだってそう。立派に生計を立てられる可能性があるし、もっと憧れられてもいい職業だということは、伝えていきたいですね。

ーーコロナ禍における、今後の活動についてはどうでしょう。

KSUKE:クラブって、そもそもソーシャルディスタンスを保つのは難しい場所だし、ユーザー側の立場になると、医療や最低限の生活と密接に関わる場所への関心よりも、後回しになってしまうのもわかります。そんななかで、僕らはとにかく安全に楽しんでもらいたという気持ちをしっかり持って活動していくことなんじゃないでしょうか。何が正解か、僕は医者でもないのでわかりませんけど、とにかく今は、考えることが大切だと思っています。

ーー今はどんなことを考えていますか?

KSUKE:DJに関しては、今は休むという選択を取っています。表現活動としては、今だからこそできることをやっていこうと。クラブでの人との出会い、現場でのインプットが減ることは痛いですけど、そのぶん、DJとしてだけでなく、クラブに付随するいろんな表現がどのように成り立っているのか、あらためてちゃんと調べたいと思っています。

ーー曲作りについてはいかがですか?

KSUKE:今までも意識していなかったわけではないんですけど、日本国内にしっかり目を向けて、日本ならではの良さを追求していきたいですね。海外のダンスミュージックに憧れるだけではなく、日本人として世界と闘える武器とは何なのか。だから、このタイミングで「THE GOD OF HIGH SCHOOL ゴッド・オブ・ハイスクール」というアニメのタイアップを手掛けられて良かったです。原作は韓国で、それが日本のクリエイターによってアニメ化され、作品のテーマ曲を日本人の僕が作って、アメリカ人のタイラーが歌う。そこで日本ってすげえなって、思ってもらえたら嬉しいですね。

ーー音楽における日本らしさとは何ですか?

KSUKE:今までも和のフレーズを入れた曲は作りましたけど、例えば琴を使うとか、単純にそういうことじゃなくて、日本人の生活や人間性だと思うんです。アニメやゲーム音楽、J-POPもそう。日本人って、子供の頃にピアニカかリコーダーを必ず習うじゃないですか。メロディを最初に教わるんですよね。

ーーピアニカを入れる手縫いの布ケースを、母に作ってもらった記憶があります。

KSUKE:でも打楽器は習った人はほとんどいない。海外は、部屋が広いとかそういうこともあると思うんですけど、子供の頃から打楽器との距離が近いらしいんです。そう考えると、日本人がメロディを重視する傾向って、生活から生まれた国民性でもある。だから、そういうことに抗うことなくやっていけば、自ずともっとおもしろい曲ができるんじゃないかと思います。

■リリース情報

「Contradiction (feat. Tyler Carter)」
配信開始日 
・フルバージョン:2020年7月3日(金)
・テレビバージョン:2020年7月7日 (火)
配信はこちら

オフィシャルサイト

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