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和田彩花の「アートに夢中!」

2020年の展覧会を振り返る

毎月連載

第53回

新型コロナウイルス感染予防対策のため、多くの美術館が休館せざるを得なかった2020年。それでも、和田さんは展覧会に通い続けました。そのなかで特に印象に残った展覧会とは?

2020年は、3月に発令された緊急事態宣言で美術館がしばらくの間休館してしまったこともあり、展覧会に行くことがままならない年でした。見に行った展覧会の数を数えてみたんですが、ここ10年くらいで一番少なかったです。芸術祭なども中止になって伺えなかったですし…。美術館に行きたいときに自由に行ける状況って、じつはとてもすばらしいことだったんだなって実感しました。

だから、いろいろな美術館が再び開館したは本当に嬉しかったですし、美術作品を見る楽しさや喜びが自分には必要不可欠なものなんだって再確認しました。そして、自分はなによりも油絵が大好きなんだと再確認もできました。美術作品は、彫刻や写真、インスタレーションなどさまざまな形のものがありますが、私はそのなかでも油絵に心惹かれるんです。見ているだけで癒やされて、力をもらえるような気持ちになる。いままでは頻繁に美術館に通っていたので、じっくり考えることはなかったのですが、特殊な状況下で改めて認識しました。大好きなものとしばらく距離を取ったからこそ、わかることもあるんですね。

一番うれしかったアーティゾン美術館の開館

伺った美術館や展覧会は少なかったのですが、そのぶん一つひとつの展覧会が強く印象に残っています。そのなかで今年一番うれしかったのはアーティゾン美術館の開館。前身となるブリヂストン美術館も好きでしたが、1回くらいしか伺えないまま閉館してしまいました。なので開館を5年近くずっと楽しみに待っていたんです。

今年1月18日に開館したアーティゾン美術館

アーティゾン美術館は開館記念展の『見えてくる光景 コレクションの現在地』(1月18日~3月31日)のように、すでに持っている約2800点の収蔵品だけで大きな展覧会が開けます。それだけでも素晴らしいのに、鴻池朋子さんのように現代美術の作家さんと組んで、『石橋財団コレクション×鴻池朋子 鴻池朋子 ちゅうがえり』(6月23日~10月25日)のような、いままでにない企画展に挑戦しているのも尊敬します。さらに、オーストラリアの現代美術といった、一般的にも知られていない分野の作品も新しく収蔵して展示してくれるのも嬉しいです。だから、訪れるたびに新しい発見があって、自分の世界が広がっていくような気持ちになれるんですね。あと、美術館のある京橋や銀座は、普段あまり行くことがない大人の街なので、アーティゾン美術館に行こうと思うだけでちょっとウキウキしちゃいます。

アーティゾン美術館で現在開催中の『琳派と印象派 東西都市文化が生んだ美術』(2021年1月24日(日)まで開催中)も、非常に素晴らしい展覧会でした。17世紀初めに日本で生まれた琳派と、19世紀後半にフランスで生まれた印象派との関係を「都市文化」というキーワードで見つめるという内容で、展示室には琳派の作品と印象派の作品が一緒に並んでいるんです。なのに、違和感が全然ないんです。

日本美術と西洋美術がコラボレーションする展覧会って、これまでも何度か開催されているのですが、私が見たものの多くは、日本美術と西洋美術が別々の部屋に置かれていたり、作品同士の距離があったりしました。

アーティゾン美術館『琳派と印象派 東西都市文化が生んだ美術』展示風景
俵屋宗達《舞楽図屏風》江戸時代 17世紀 醍醐寺(奥)エドガー・ドガ 1882年-95年 石橋財団アーティゾン美術館(手前)※舞楽図屏風の展示は12月20日(日)まで

その点、こちらの展覧会はモネと尾形乾山や、ドガと俵屋宗達が近い距離で並んでいたりして、その空間が調和しています。なかでも鈴木其一の《富士筑波山図屏風》の間に、セザンヌの《サント=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール》が挟まれて展示されているのには本当に驚きました。屏風と屏風の間に別の作品を置いてしまうことにも、3つの山が違和感なく並んでいることも、全部が驚き。展示って、こんなに自由でもいいんだって嬉しくなりました。

アーティゾン美術館『琳派と印象派 東西都市文化が生んだ美術』展示風景
鈴木其一《富士筑波山図屏風》江戸時代 19世紀 石橋財団アーティゾン美術館(両端) ポール・セザンヌ《サント=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール》1904-06年頃 石橋財団アーティゾン美術館(中)

スターたちの多様な表現に勇気づけられた『STARS展』

森美術館の『STARS展:現代美術のスターたち―日本から世界へ』(2021年1月3日まで開催中)も良かったです。現代美術のスターがあんなに集まる展覧会なんてとても貴重です。日本にはこんなに素晴らしい芸術家たちがいるんだって、改めて思うんです。

森美術館『STARS展:現代美術のスターたち―日本から世界へ』会場入口

6人の作家さんたちはそれぞれに社会に興味関心があって、いろいろなことをキャッチアップしていて、そして目指しているところは似ていると思います。それなのに、作品として出てくるものが全然違う。その違うということが心に響きました。また、それぞれの作家さんたちが、キャリアを積み上げていくなかで、作品のテーマが当初は身近なものであったのに、次第に「愛」のように抽象的で大きなものになっていきます。その変化していく過程をたどることができたのもよかったです。自分が表現をしていく上でのヒントにもなったので、かなり勇気づけられた展覧会です。

森美術館『STARS展:現代美術のスターたち―日本から世界へ』展示風景
奈良美智《Miss Moonlight》2020年、アクリル絵具、キャンバス、220×195cm

『STARS展』で特に好きになったのは奈良美智さんの作品です。奈良さんの作品は、これまでもたびたび拝見していましたが、じっくり時間をかけて見たのはこの展覧会が初めて。奈良さんの描くちょっと不気味なところがある女の子が向いている方向や、表情、指し示している方向など、すべてに意味があって、それを考えていくと非常に奥深い。実際作品と対面してみてわかることって多いなと改めて思いました。なので、これからも奈良さんの作品は、意識して見ていこうと考えています。

ずっと心に残り続けている『ピーター・ドイグ展』

あとですね、展覧会で見たときはそこまで深く感動しなかったのですが、いまもたびたび思い出すのが東京国立近代美術館の『ピーター・ドイグ展』(2月26日~10月11日)です。実は、会場で見たときは、テンションもあまり上がらず、ときめくこともあまりなかったんです。なのに、展覧会を見て半年以上たった現在でも、ドイグのあの鮮やかな色が目の前に浮かび上がって消えないんです。強い感動はなかったのに、こんなに記憶に残り続けるなんてことは他の作家や展覧会ではないことなので、自分でもなぜなんだろう? って考え続けている状態。

『ピーター・ドイグ展』展示風景
ピーター・ドイグ《ガストホーフ・ツァ・ムルデンタールシュペレ》2000〜02年

多分ですが、これは私がピーター・ドイグという作家をわかり切れてなかったからだと思います。ドイグの作品は蛍光オレンジやイエローの色がすごく強烈です。私がこれまで見てきた絵画には、彼のように蛍光色を使う作家はあまりおらず、そのために、目や脳や心が一瞬で受け入れられなかったんですね。また、明るくて、少しだけ不気味という不可解な世界というのも理解が進まない理由のひとつな気がします。ドイグの絵画が不気味なだけのものだったら、私もすぐ理解できたはず。理解できてしまうから、心に残らない。でも、ドイグの世界は明るくて幻想的で、なのに不気味、一筋縄では理解できないんです。それゆえに、心にひっかかったままなのかも。なので、いまもドイグは大好きというわけではないんです。それなのに、思いだし続けている、不思議ですね。

だから、再びピーター・ドイグの作品を見る機会があったら、時間を置くことなく感動して好きになれそうに思います。こんなに長期間考え続けている展覧会は珍しいです。

そして、スケジュールがどうしても合わず、見ることができなくて悔しかったのが、国立国際美術館の『ヤン・ヴォー ーォヴ・ンヤ』(6月2日~10月11日)。ベトナム人アーティスト、ヤン・ヴォーの個展だったのですが、これは、会う人みんながおすすめしてくれたのですが、どうしても大阪まで行ける状況ではなくて。来年は、もっと自由に出かけられる状況になるといいですね。

2020年は非常に特殊な状況でしたが、現在はどの美術館も感染対策をしっかり立ててくれています。入場できる人数を制限している館も多いので、以前よりも快適に鑑賞できるようになったともいえますね。来年はもっとたくさんの美術館を訪れたいと思っています。

構成・文:浦島茂世 撮影(和田彩花):源賀津己

プロフィール

和田 彩花

1994年生まれ。群馬県出身。2004年「ハロプロエッグオーディション2004」に合格し、ハロプロエッグのメンバーに。2010年、スマイレージのメンバーとしてメジャーデビュー。同年に「第52回輝く!日本レコード大賞」最優秀新人賞を受賞。2015年よりグループ名をアンジュルムと改め、新たにスタートし、テレビ、ライブ、舞台などで幅広く活動。ハロー!プロジェクト全体のリーダーも務めた後、2019年6月18日をもってアンジュルムおよびハロー!プロジェクトを卒業。アートへの関心が高く、さまざまなメディアでアートに関する情報を発信している。

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