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マカロニえんぴつの楽曲にある味わい深さ はっとりが綴る歌詞の真髄を3つのポイントから考察

リアルサウンド

20/9/1(火) 12:00

 本コラムでは、絶賛上り調子のバンド、マカロニえんぴつ・はっとり(Vo)が綴る歌詞の魅力に焦点をあてる。なにそのバンド名、というあなたに、まずご紹介したいのはこの歌詞。

〈あの娘に勧めたいけどバンド名がな ダサすぎ いや、レッド・ホット・チリペッパーズという親玉の存在を忘れるな(大丈夫!)〉(「トリコになれ」)

 なんて自虐的な歌詞も書いてしまうのがはっとりであるということを、最初にお知らせしておこう。そんな、おちゃめなイメージもあるバンドなのだが、歌詞が何とも味わい深いのだ、というのが今回の肝である。まずは彼らの原点・土台について、歌詞を通して触れていこう。

はっとりとあこがれ(「あこがれ」1stミニアルバム『アルデンテ』収録)

 「あこがれ」ははっとりの土台ともいうべき曲だ。はっとりの名前は、本名ではない。はっとりが愛し、憧れるロックスター、ユニコーンのアルバム『服部』に由来している。本曲では題名通り、「あこがれ」への思いを歌っている。〈才能ないとか やめちまえとか言われても 憧れはやめられないから〉と、夢を追いながらもくすぶっている姿が描かれる。本曲の歌詞のすごいところは、〈どんなに頑張ったって あなたにはなれないけど〉〈追いかけてるんじゃない 探してるんだ〉という部分だと思う。憧れはやめられないけれど、真似事ではなく、自分らしさを探していこうという歌詞に、勇気付けられる人も多いはずだ。〈頑張ってあなたよりもすごくなろう いつか誰かのあこがれになろう〉という歌詞を、マカロニえんぴつはすでに実現しているし、これからより多くの人のあこがれになっていくことだろう。

「あこがれ」

マカロッカーへの愛(「ハートロッカー」2ndミニアルバム『エイチビー』収録)

 マカロニえんぴつを構成する大切な要素の二つ目は、ファン(マカロッカー)への愛である。〈死んだように生きていたい僕の やっぱりどうしようもないこんな歌が あなたの逃げ場になるなら歌うよ〉という歌詞の通り、マカロニえんぴつはライブで必ずと言っていいほど、「僕らの音楽は、あなたたちの逃げ場所です」というMCをしている。はっとりが先日DISH//に楽曲提供した「僕らが強く。」でも、〈逃げ場所を守るためだったら僕も行く、僕らも戦うよ〉と歌っており、彼らの音楽に対する変わらぬ姿勢の一つだと言える。

「ハートロッカー」

 ここまで「あこがれを抱き、マカロッカーを大切にする」という、彼らの原点・土台となる歌詞を紹介した。ここからは、はっとりの歌詞の真髄に迫っていこうと思う。

人生と忘却はセット

 はっとりの書く歌詞には「忘れる」というワードが多く出てくる。最新曲「溶けない」では〈急ぎすぎた日々の中で見つけた優しさ 忘れちゃうのかな そっと忘れちゃうんだよね、ぜんぶ〉、「愛の手」では〈塞がれた昨日も ねぇ、このまま忘れて生きる〉、「春の嵐」では〈たしかなものをはきっと一つも無いのにな どうせ忘れるくせにな〉、「恋人ごっこ」では〈忘れていいのはいつからで 忘れたいのはいつまでだ?〉と、新旧様々な楽曲に登場する。はっとりの歌詞の根底には、「人生と忘却はセットである」という刹那があるように感じる。力強い歌声の裏にある刹那は、はっとりの歌詞の魅力の一つだ。忘れることの良さや悲しさについて、はっとりはずっと考え続けているのかもしれない。

「溶けない」
「愛の手」
「恋人ごっこ」

若者への歌

 2019年、マクドナルドの500円バリューセット「こんな時間が、ゴチソーだ。」のCM曲として、「青春と一瞬」を書き下ろした頃から、若者の想いを歌う曲が増えたように思う。〈つまらない、くだらない退屈だけを愛し抜け 手放すなよ若者、我が物顔で いつでも僕らに時間が少し足りないのは 青春と一瞬がセットだから〉ーー若い頃の退屈な日々、大人と子供の狭間の時間、その時間がほんの一瞬であり、それが焦がれるものだと気づくのは大人になってからだ。「ヤングアダルト」は大人になりきれない大人の歌。〈ハロー、絶望こんなはずじゃなかったかい? でもさ、そんなもんなんだよきっと〉と諦めのような言葉も綴られているが、そのあとに続く〈誰も知らない 優しい言葉であの子の孤独を殺せてたらな〉という言葉が、はっとりの人格を表していると思う。歌詞を含め、MCやラジオ、SNSの投稿などを見ていると、はっとりから「母性」を感じる場面がある。基本おちゃらけキャラではあるけれども、人の悲しみをすっぽり包み込むようなところがある。そんなはっとりの人格が歌詞にあらわれ、若者や、若者時代を通り過ぎた大人にも響いているのだと思う。

「青春と一瞬」
「ヤングアダルト」

青春を忘れ、思い出すという循環

 「溶けない」で「忘れる」という歌詞が出てくると書いたが、曲の後半では、〈忘れないからね、ちゃんと忘れないからね〉と歌い、メロディ自体が最初に戻りながら〈何度だって溶けない日々の中へ 何度も戻りに帰るよ〉と締めくくられる。「Supernova」でも〈破裂する青春の、その六秒前よ透き通れ 僕は歌っている 足掻いている 戻れないなら、繰り返している〉と書いている。はっとりは青春を忘れ、思い出すという循環、それこそが人生であり、そのことについて歌おうとしているのかもしれない。人生の本質に触れるような歌詞に、私たちは心動かされているのだと思う。

マカロニえんぴつ「溶けない」MV
「Supernova」

 はっとりは、曲の発表に合わせてセルフライナーノーツを自身のTwitterで公開したり(最新曲「溶けない」のセルフライナーノーツは小説調だ)、メンバーから「ポエティックモード」と称されるような泣けるMCをするなど、言葉を楽しんで使い、言葉に力を持たせることができる人だと思う。今回は歌詞にフォーカスしたが、音大出身のメンバーが奏でる骨太なサウンドと、はっとりのお腹の底から絞り出されたような力強い歌声にのせ、意外と歌詞は人生の刹那を歌っているというところが、マカロニえんぴつの大いなる魅力の一つではないかと思う。そして、ファンならご存知であろうが、マカロニえんぴつは各メンバーが本当に優しい人柄である。その人柄をそのまま映すように、はっとりが歌詞を紡ぎ、リスナーをすくい上げてくれるような曲をたくさん届けてくれる。これからも彼らの音楽に身を預け、生まれくる曲を楽しみにしていきたい。

■深海アオミ
現役医学生・ライター。文系学部卒。一般企業勤務後、医学部医学科に入学。勉強の傍ら、医学からエンタメまで、幅広く執筆中。音楽・ドラマ・お笑いが日々の癒し。医療で身体を、エンタメで心を癒すお手伝いがしたい。Twitter

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