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田中泰の「クラシック新発見」

「ラ・フォル・ジュルネ」は今~コロナ禍における音楽祭の現状~

隔週連載

第6回

今年の「ラ・フォル・ジュルネTOKYO」は残念ながら中止に……

5月の大型連休を彩る風物詩として人気を集めてきた世界最大級のクラシック音楽祭「ラ・フォル・ジュルネTOKYO(LFJ)」2021年の開催中止が発表された。

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大の最中にあるとはいえ、クラシック界においてはコンサートが復活の兆しを見せ、「フェスタサマーミューザKAWASAKI」や「パシフィック・ミュージック・フェスティバル(PMF)」など、他の音楽祭の開催発表が次々に行われていた矢先の中止発表だけに、「なぜLFJだけが」という思いが残る。

もちろん、例年の賑わいに満ちたLFJの開催が無理なことは承知の上だ。コロナ禍で開催できることを前向きに検討したという「ラ・プティット・フォル・ジュルネ2021(小さなLFJ)」が実現できなかったことは残念すぎる。こんな時代だからこそ、LFJ運営委員会が知恵を絞った1日限りの“特別なLFJ”の開催が、人々に夢と希望を与えてくれたのではないだろうか。2022年へ繋ぐための“架け橋”となるはずだった「プティ・フォル」の凝縮された3公演(東京国際フォーラムホールA)は、4月12日に日本政府から発令された「まん延防止等重点措置」が東京都に適用されたことによって、中止せざるを得なくなったようだ。

LFJ発祥の地フランス・ナントでの音楽祭開催はどのような状況なのだろう。昨年は新型コロナウイルス感染拡大直前の1月末に、生誕250年を迎えたベートーヴェンをテーマに盛大に開催されたことが記憶に残る。しかし今年は、1月末に「ロシア音楽」をテーマに予定されていた音楽祭が4月に延期され、テーマも小さな編成で演奏可能な「バッハとモーツァルト」に変更。それがさらに5月に延期されるという厳しい状況が伝わってくる。

これには「ラ・フォル・ジュルネ」音楽祭の生みの親であり、LFJのアーティスティック・ディレクターを務めるルネ・マルタンの落胆ぶりが目に浮かぶようだ。その彼が日本のファンに宛てたメッセージを紹介しておきたい。

ルネ・マルタン

「今年のラ・フォル・ジュルネが、ささやかながら、皆様にとって希望の灯となることを願っていましたが、開催を断念しなければならないことをとても残念に思います。毎年、5月の初週には決まって、皆さまとラ・フォル・ジュルネの会場に集まり、音楽を分かち合ってきました。年に一度、私たちは会場で沢山のパワーを贈り合うことができます。そして私たちは、この再会の時を今か今かと心待ちしています。『星の王子さま』のキツネが口にする美しい言葉「約束の時間が近づけば近づくほど、僕はますます幸せを感じるんだ」と同じように、私自身もまた、音楽祭が近づくにつれ、皆さまが一堂に会して音楽を楽しむ姿を思い描き、幸せな気持ちを膨らませていきます。音楽を心から愛する私たちは、このコロナ禍において、音楽の必要性をひしひしと感じています。残念ながら、今年は皆様と再会することは叶いませんが、来年こそは、コンサートのはじめの一音が鳴り響く瞬間から、私は『星の王子さま』のキツネと同じように「わくわくそわそわしながら、幸せの有りがたみを噛みしめる」はずです。(ルネ・マルタン)

今年のLFJは、昨年未遂に終わってしまった「ベートーヴェン生誕250年」という魅力的なテーマを2022年に繋ぐための“架け橋”だったのだ。その架け橋が外されてしまったような状況下において、我々はひたすら我慢するしかないのだろうか。「神がもし世界で最も不幸な人生を私に用意していたとしても、私は運命に立ち向かう」というベートーヴェンの言葉が頭をよぎる。来年こそは必ず……。

LFJアーティスティック・ディレクターのルネ・マルタン (c)Marc Roger

プロフィール

田中泰

1957年生まれ。1988年ぴあ入社以来、一貫してクラシックジャンルを担当し、2008年スプートニクを設立して独立。J-WAVE『モーニングクラシック』『JAL機内クラシックチャンネル』などの構成を通じてクラシックの普及に努める毎日を送っている。一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事、スプートニク代表取締役プロデューサー。

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