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加山雄三に聞く、レジェンドから新世代まで様々なミュージシャンとの交流と人生を楽しむ秘訣

リアルサウンド

20/2/27(木) 6:00

 今年4月に芸能生活60周年を迎える加山雄三が、加山雄三&The Rock Chippers名義によるシングル『Forever with you ~永遠の愛の歌~』がリリースされた。

 The Rock Chippersは、今から10年前に森山良子、谷村新司、南こうせつ、さだまさし、そしてTHE ALFEEという、世代もジャンルもバラバラなメンバーによりザ・ヤンチャーズ名義で結成されたオールスターバンド。作詞をさだまさしが、作曲を高見沢俊彦が手掛けた今回の楽曲には、これまで加山が歌ってきた往年の名曲へのオマージュがふんだんに盛り込まれており、まさにキャリア集大成といった仕上がりになっている。

 おそらく加山の姿をロックフェスなどで目撃したという人も、きっと多いだろう。近年は佐藤タイジ(THEATRE BROOK)や古市コータロー(THE COLLECTORS)、ウエノコウジ(The HIATUS)らと共にTHE King ALL STARSを結成し、GLIM SPANKYと対バンするなど若い世代のミュージシャンとも積極的に交流を深めてきた加山。そのバイタリティは一体どこから来るのだろうか。今年で83歳となる若大将は、瑞々しい笑顔を終始絶やさないまま、我々の質問に気さくに答えてくれた。(黒田隆憲)

(関連:桑田佳祐、“渦中”の加山雄三にエール「これからも元気に、必ずいい音楽を届けてくれる」

■「Forever with you ~永遠の愛の歌~」に感じた“kind”

ーーそもそも今回のバンド「The Rock Chippers」は、2010年4月に「ザ・ヤンチャーズ」名義でリリースした「座・ロンリーハーツ親父バンド」のために結成されたそうですが、メンバー編成はどのようにして決まったのですか?

加山:これはね、(『オールナイトフジ』『夕やけニャンニャン』『とんねるずのみなさんのおかげです』などのバラエティ番組をヒットさせた)フジテレビの石田(弘)というプロデューサーの一声で集まったの(笑)。(石田が1973年よりディレクターを務める)『ミュージックフェア』によく出演するメンバーを集めてオールスターバンドを作ろうぜという話になって。しかも、今回はなぜか「The Rock Chippers」なんて名前でね。それも石田のアイデアだった。

ーーバンド名の由来は?

加山:60代、70代、80代が集まっているから、その世代の違いを出したくて6、7、8(ロクチッパ)で「ロックチッパーズ」。「ん? じゃあ80代の俺は『パー』かよ!」って(笑)。それで今回10年ぶりに集まったんだけど、そんなに年月が経ったとは思えないんだよな。スタジオに入って歌ってみたら何にも変わってない。不思議なものだよね。

ーー新曲「Forever with you ~永遠の愛の歌~」は、さだまさしさんが作詞、高見沢俊彦さんが作曲しています。

加山:この曲を聴いた時に感じたのは、たった一言「kind」。さだ(まさし)くんの歌詞は、僕のことをちゃんとリスペクトしてくれていて。「Forever with you」というサブタイトルは、「君といつまでも」の英訳なんだよね。「いつまでも」ってとても大切な言葉だと思う。いつまでも幸せでいたい、いつまでも一緒にいたい、いつまでも美味しいものを食べていたいってね(笑)。

ーー高見沢さんのメロディも、これまでの加山さんの楽曲へのオマージュがふんだんに盛り込まれていますよね。

加山:そう。それに、タカミー(高見沢俊彦)の書くメロディはとてもシンプルで、みんなで歌えることを前提に考えてくれている。そこにもkindを感じるし、本当にいい曲だなと思うよ。

ーーボーカルも、メンバーそれぞれの持ち味が活かされていますよね。

加山:そうなんだよ。みんなの歌もいいよね。森山さんの声は特徴があって、歌い出した瞬間に「ああ、やっぱり彼女だなあ」って思うし、谷村さんも(南)こうせつくんも、他のメンバーもそう。みんないい味を出しているよ。全員の声が重なった時のハーモニーも相当いいよね。

ーー曲のタイトルになっている「愛」について、加山さんはどう定義されますか?

加山:僕はね、「愛」と「恋」は分けて考えてるんだ。「恋」は電磁力で、「愛」は万有引力。電磁力というのはご承知の通り、磁石のS極とN極ならパッとくっつく。でもS極同士、N極同士だとパッと離れるじゃない? それだけ「恋」はものすごい勢いでくっつけど、どうかするとパッと終わってしまう。でも、万有引力は何がなんだってくっついちゃう。もう離れられない永遠のもの。どこへ行ったって変わらないのが「愛」だと思う。

ーー電磁力の「恋」が、万有引力の「愛」に変わることはありますか?

加山:もちろん。最終的に「恋」も「愛」になるべきだと思う。そのためには土に潜るしかないんじゃない?

ーーなるほど(笑)。レコーディングではどんなことに気をつけましたか?

加山:今回はスケジュールがタイトで、ものすごく短い期間に仕上げなければならなかった。僕も間違えないように歌わなきゃいけなかったから、8小節ずつ録音したんだよね。そんな録り方は今までしたことなかったから、すごく印象に残っている。どうなるのかなと思ったけど、通して聴いたら「お、いいじゃん」ってなったのでOKを出したよ。

ーーサビの歌詞にある「with」の発音について、高見沢さんと細かくやりとりしている様子がCDに収録されていますね。

加山:最初、タカミーが持ってきたメロディに載せると、「with you」の発音がカタカナ英語になっちゃったんだよね。「ウィズ、ユー」って。「forever」の乗せ方が英語の発音に準じてたから、余計に不自然だった。僕は発音にうるさいからさ(笑)。最終的に、僕の提案した譜割に変えてもらって、それでレコーディングしたんだけどね。時間がなくても、そのくらいのことはやらないと(笑)。

ーー「加山さんは喉が強くて、しかも出せば出すほど良くなっていく」とメンバーが驚いている様子も収められていました。喉のメンテナンスのために、普段から心がけていることはありますか?

加山:特にないけど、強いて挙げれば「風呂場で英語の曲を歌う」ってことかな。毎日やっているわけじゃないけど、風呂場のような湿度の高い場所で発声練習をすると、喉が潤っていいんじゃないかなって。しかも英語の曲だと声帯の筋肉が鍛えられるような気がしてね。完全に自己流なんだけどさ。

■新しい音楽を理解するためには若者と一緒に演奏しなきゃダメ

ーーところで加山さんは、今回のメンバーよりさらに若い世代のミュージシャンとも積極的に交流し、THE King ALL STARSとしてロックフェスにも出演されていますよね。

加山:新しい音楽を理解するためには若者と一緒に演奏しなきゃダメだし、自分の音楽も若い人たちといることで多少なりとも若返るというかね。で、音楽が若返るということはステージの内容も変わってくる。それでTHE King ALL STARSを始めたんだけど、そうすると出演する場所もロックフェスが多いんだよね。普段の自分のステージとは全く違うから、来てるお客さんの反応も違う。

ーー世代の離れたミュージシャンと接する時に気をつけていることなどありますか?

加山:とにかく「音楽」に没頭すること。そうすれば、お互い何をするのが喜ばれるか分かるじゃない。コミュニケーションなんていうのは感覚だからね。最初は向こうも「年寄りだから」って気を使うかもしれないけど、そんなこと払拭するほどのテンポで持って入り込んでいけば全然問題ないよね。

ーー「音楽」を介せば、世代なんて関係ないと。

加山:世代も国籍も関係ない。言葉の要らないコミュニケーションだからね。「音楽」の本質ってそういうものだと思う。「若者向けの音楽」「年寄り向けの音楽」とか言われるけどさ、幾つになっても若者向けの音楽が好きな人もいれば、若くても年寄り向けの音楽を好んで聴く人もいる。自由なわけだよ。そんな音楽に携わっているということ自体が、幸せなことだと思っているんだ。

ーー普段、音楽はどのようにして聴いているのでしょうか。特に新しい音楽の情報は、どうやって仕入れているのですか?

加山:それは色々あるよ。倅や孫が「これいいよ」って教えてくれたのを、携帯で聴いたり、ダウンロードしてiPodで聴いたりすることもあるし。今の担当マネージャーと初めて会ったとき、DJ MASTERKEYを聴いてたら「それ、一体どこで知ったんですか?」ってびっくりしてたな(笑)。最近だとDYGLが良かった。これはそのマネージャーも知らなかったけどね。

ーーDJ MASTERKEYやDYGLまで聴いているんですか……。

加山:自分じゃ新しいかどうかも分かってなくて(笑)。名前が知られてるとか、どういう立ち位置だとかそんなの全然関係なく、サウンド的に面白いと思ったら何でも聴くよ。GLIM SPANKYの時もそうだったな。でも、その時に無名でも出てくる人は出てくるよね。PUNPEEが「お嫁においで」をカバーしてくれた時も、まだそこまで有名じゃなかったけど、ちゃんと売れるべくして売れてるから。

■作詞家・岩谷時子、ビートルズ……60年の間で印象に残る出会い

ーー昭和、平成、令和と常に第一線で活躍し続けてきた加山さんですが、特に音楽活動の面で、この60年を振り返って印象に残っていることを教えてください。

加山:僕の場合は岩谷時子(2013年10月逝去)という素晴らしい作詞家と出会ったのは大きかった。曲を作っても詞がなきゃ意味がない。僕は「しがない(詞がない)作曲家」だからさ。

ーー(笑)。いい作詞家さんとの出会いも重要ですよね。

加山:岩谷時子さんと出会ってなかったら、今の僕はないよね。あの人に依頼した曲だけでも150曲くらい歌えちゃうもんね。事実今、コンサートをやっているけど、岩谷時子さん作詞の曲だけをやってる。彼女の歌詞は、季節や場所にとらわれないんだよね。「旅人よ」という曲も、別に「旅」について“だけ”書かれているんじゃなくて、もっとスケールの大きなテーマになっている。「君といつまでも」くらいだもんね、はっきりと目の前に相手がいるようなラブソングは。「海、その愛」も、シンプルだけどめちゃくちゃスケールの大きな歌詞だろう?

ーーシンプルで余白がある分、聴き手は自分自身を自由に投影できるのかもしれないですね。

加山:まさにそういうことなんだよね。それがすごいと思うんだ。

ーーThe VenturesやThe Beatlesとの交流についても聞かせてもらえますか?

加山:洋楽と最初に接点を持ったヴェンチャーズのことは今も覚えているね。彼らが初来日した時、僕の音楽番組に呼んで、その時にモズライトのギターを3本くれた。当時は僕もザ・ランチャーズというバンドをやっていたからさ。ライトゲージの弦が張ってあって「こんなに簡単にチョーキングできるんだ」って感動してさ。

 ビートルズの4人とは、彼らが初来日したときにただ会っただけなんだけど、ポール・マッカートニーとは2015年に来日した時、家族で会って食事をしたね。当時一緒に撮った写真を見せながら「俺のこと覚えてる?」って聞いたら「覚えてるよ、すき焼き!」って(笑)。すき焼きを食べたこと覚えていてくれた。やっぱり食べ物は大事だね。

ーー(笑)。

加山:ポールは本当にいい奴だよ。びっくりするくらい優しいんだよな。そう言えば、2006年にビートルズの専属カメラマンだったロバート・フリーマン(2019年11月逝去)から電話がかかってきてね。

ーー来日時にビートルズと加山さんの写真を撮影した人物ですね。

加山:彼が「どうしても君に会いたい」って。ちょうど来日40周年記念の時で、当時ビートルズが滞在したヒルトンホテルに呼び出された。そこでまた写真でも撮るのかと思ったら、ビートルズと僕と5人で撮った写真があって、それを自分の写真集に入れていいか、許可を取りに来たっていうんだ(笑)。何でも、ビートルズが4人揃って一人のミュージシャンを囲んだ写真というのは、世界中でこの1枚しかないらしいんだよね。

ーーそうなんですか!

加山:ビートルズの4人のうちの誰かと、一人のミュージシャンを囲んだ写真とか、あるいはビートルズ全員と複数のミュージシャンが一緒に映った写真ならたくさんあるけど。「だから、どうしても掲載したい」って。それで僕が、「別にいいけど、こちらでも(その写真を)使ってもいいね?」と聞いたら「もちろん」って言ってくれて(笑)。それであの写真を僕も自由に使えるようになったんだ。でもまあ、そんな貴重な写真を撮ってもらえたなんて有り難い話だよね。

■加山雄三から学ぶ、“自分”と上手く付き合う術

ーー逆に、この60年で辛かった時期はありますか?

加山:まあ、人生は山あり谷ありで、まさかと思うような出来事もたくさんあったけどね。どれか一つ取り上げろと言われても思いつかないな。特に音楽活動ではそんなにないんだよ。スランプとか感じたこともないし。音楽なんて勝手に盛り上がったり廃れたりを繰り返していて、それは自分の意思とは関係ないところで動いているところもあるしさ。

ーー加山さんが「山あり谷あり」というと、説得力が違いますね。

加山:そうかい?(笑)。まあ、長いスパンで考えることが大事なんじゃないかな。僕なんか良い時期も悪い時期も両方味わっているから。みんなが眉間にシワを寄せて、「世の中は不景気だ」「おしまいだ」なんて言っていたと思ったら急に景気が良くなって、すると今度は不景気だった時代のことは忘れてしまう。そんな様子を客観的に見てきているからさ、いっときの不景気で大騒ぎしている方がおかしいと思うんだよ(笑)。「そんな思い悩むことないだろ。いいときはいいし、悪いときは悪くなるんだから、しょうがねえわな」って、そんな気持ちになっちゃうんだよな。

ーー落ち込んでいる時って周りの物事が見えなくなってしまいがちです。「もうおしまいだ」って。

加山:それはもう愚の骨頂だと思うよ。辛い時は誰にでもある。人のせいにしたり他人の物差しで考えたりせず「なぜ辛いんだろう?」って自問自答して克服していけばいいじゃないか。そういう気持ちで全部乗り越えていきたいよね。自分は自分から離れるわけにいかない、ずっと付き合っていかなきゃならないなら、色々勉強しなきゃダメだと思う。

ーーずっと若々しくいられる秘訣も教えてもらえますか?

加山:まず暴飲暴食はしなくなったね。酒とタバコもやらない。酒をやめたのは64歳で、タバコをやめたのは52歳。健康のためにもなるし、若さにもつながると思うんだ。タバコをやめたら肺の調子がめちゃめちゃ良くなってね。運動も、程々にすること。これくらいの年になると、あんまり極端な行動は体に堪えるからね。だんだんバランスを取って生きるようになっていくものだと思う。いつまでも、何も考えず無謀な行動をしていると「馬鹿だな」と言われるだけだし(笑)。

ーー日々の生活の中で楽しんでいることは?

加山:かみさんとの会話だったり、子供達と一緒にご飯を食べたり。楽しみなんて、探せばいくらでもあるよね。最近はやらなくなっちゃったけど、『バイオハザード』や『鬼武者』のようなゲームにハマったこともある。一時期ゲームを全て持ち歩いていたから、マネージャーは大変だっただろうね(笑)。

ーー今もコンスタントに曲作りはしているのですか?

加山:そうだね。ギターやピアノで作ったり、コンピュータのシンセサイザーを使ったり。メロディだけが思い浮かぶこともあるけど、大抵は曲のイメージ、空気感から思いつくことが多い。ストリングスのトップノートから考えたり、ハワイアンっぽくしたければウクレレ使ったり。最近は締め切りがないと、なかなか腰が上がらなくてね(笑)。今はコンサートでみなさんに音楽を届けることを楽しんでいるところです。

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